【プレミアム報道】食料価格高騰、温室効果ガス削減政策と関連か 消費者に転嫁される生産コスト

2024/03/01
更新: 2024/12/17

米国では食料価格が連年高騰し、家計を圧迫している。農業アナリストは、行き過ぎた環境政策によって農家の負担が増加し、コストが消費者に転嫁されていると分析した。零細農家が負担増により耕作を放棄する懸念も高まるばかりだ。

2021年1月にバイデン氏が就任して以来、物価は18%近い急騰を見せた。人々はインフレに苦しみ、食料やその他の必需品が公式データ以上に値上がりしたと体感している。

こうしたなか、食料品価格を統計する米国農務省(USDA)は、2024年について楽観的な評価を示している。2022年の物価上昇率は9.9%、2023年にはやや鈍化して5.8%を記録した。そして、2024年の食料品価格の伸び率については「引き続き減速する」と予測した。

最悪の事態は過ぎ去ったと予測する人もいるが、米国の農業アナリストらは、バイデン政権が「政府一丸となって」取り組んでいる温暖化対策によって、食料品の値上げが再び進行すると指摘する。

米国の公共政策シンクタンク「バッケイ・インスティテュート(Buckeye Institute)」は近日、「Net-Zero Climate-Control Policies Will Fail the Farm」と題された報告書を発表。「バイデノミクス(バイデンの経済政策)」が農家にもたらすコストを定量化しようと試みた。

報告書によると、農家のコストは少なくとも34%上昇する見込みで、アメリカの一般的な4人家族の食料費は年間1,300ドル以上増加する可能性がある。

「ネットゼロエミッション政策や企業のESG報告義務に準拠すれば、より高価な原材料を使用しなければならず、上昇分のコストはやがて食料品店や消費者に転嫁されるだろう」と報告書は綴っている。

バッケイ・インスティテュートの責任者レア・ヘダーマン氏はエポックタイムズの取材に対し、「ネットゼロエミッションは左翼が目指しているものだ」と指摘した。それ以外にも、農家はインフレや天候など、数々の困難に直面しており、それらの影響は食品価格の高騰につながる。

「何よりも、連邦政府が大量にお金を印刷したことが最大の問題だ。経費が高騰するなか、農家が事業を継続していくためには産出物の値段を上げるしかない。だから食料品価格の上昇は一時的なものではなく、今後も続くと思われる」

報告書では米国の典型的なとうもろこし農家を分析対象として、ネットゼロエミッション政策に適合する燃料や肥料などを使用した場合のコストを算出した。その結果、同じ規模の農場では、基本コストが192,000ドルから257,000ドルに増加する試算となった。増額分は消費者に転嫁され、4人家族の食料費は8,320ドルから9,650ドルに増加した。実に15%の増加だ。

「農業のコストが引き上げられると、その分だけ食料品価格に転嫁される。特定の食品はより価格変動に敏感だ。このことをわかってほしい」とヘダーマン氏は語る。「例えば、牛肉はオレンジよりも値上がりしやすい。トウモロコシの価格が上げれば、牛の餌代も高くなるため、牛肉は『ダブルパンチ』を食らうのだ」

米連邦準備制度理事会(FRB)が公表した統計によると、牛挽肉の平均価格は2021年1月の1ポンドあたり3.97ドルから2024年1月には5.03ドルに上昇した。牧場主は、飼料や燃料費の高騰だけではなく、干ばつといった自然災害にも直面している。

米国環境保護庁(EPA)の推計によると、2021年の米国の温室効果ガス排出量の10.6%を農業が占めており、その大部分は家畜と肥料によるものだという。

ビーフが高級品に

温室効果ガスの排出量が多いとして、気候変動活動家はしばしば畜産業を槍玉にあげている。中でも牛肉は家畜の中でも最も多くの温室効果ガスを排出しており、農業由来の温室効果ガス排出量のおよそ60%を占めていることが研究でわかっている。

デンマークに本社を置く食肉大手「ダニッシュ・クラウン」社のCEOヤイス・ヴァレーア氏は現地紙の取材に対し、牛肉は近々贅沢品になるだろうと語った。

「牛肉はシャンパンのようなもの、つまり高級品になるだろう」とヴァレーア氏。「牛肉は、私たちが自分自身を労いたいときに食べる贅沢品になるだろう」

多くの農業従事者は、大規模な企業農場は気候変動対策がもたらすコスト増加に耐えられるが、小規模な家族農場にとっては大きな打撃になると考えている。

「生きるためには食べないわけにはいかない。だから農家はコストを消費者に転嫁することができる」とヘダーマン氏は語る。「しかし、家族経営の農場や小規模な農場は、資本へのアクセスが確保されていないため、その多くが廃業するだろう」。

農業は、植え付けや収穫、輸送などに専門の機械を使用する資本集約的なビジネスであり、作物の栽培や家畜の飼育、市場への出荷などに多額の運転資金を必要とする。米国ウォール街の金融機関はSDGsに似た「ESG」を推進しており、気候変動対策に適合しない農場は不利益を被るのではないかという懸念の声も上がっている。

1月29日、米国12州の農業関係者は、JPモルガン・チェースやシティバンク、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの銀行に書簡を送り、農業従事者に対しネットゼロエミッションの基準を課さないよう求めた。これらの銀行はいずれも、国連のネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)の会員であり、融資ポートフォリオ全体でネットゼロ目標を達成することを約束している。

銀行は公式サイトで気候変動への取り組みについて宣伝しているが、JPモルガンの広報担当者はエポックタイムズの取材に対し、「JPモルガン・チェースは、農業を対象とした排出削減目標を定めていない」と述べ、「銀行業務に関する決定は当社で行い、意思決定を第三者に委ねることはない」とした。

パリ協定の悪影響

2016年、オバマ政権は国連パリ協定に署名した。これにより米国は2030年までに温室効果ガス排出量を50〜52%削減し、2050年までに経済全体のネットゼロエミッションを達成することが求められている。

2017年になると、トランプ大統領は米国を協定から離脱させた。しかしバイデン大統領は就任初日、パリ協定に再び復帰した。

バッケイの報告書によると、食料品価格が高騰する最大の要因は、肥料のコスト上昇と、燃料価格の上昇だ。

「大統領と議会は米国が気候変動対策に取り組むと約束した後、インフレ削減法を通じて、かつて失敗した『グリーン・ニューディール』政策を復活させるという誤った行動に出てしまった」

一連の誤った行動には、石油と天然ガスの供給を制限する大統領令の発布、連邦所有の土地における原油掘削の阻止、パイプライン計画の廃案、液化天然ガスの輸出阻止、そして農家に温室効果ガス排出量の監査報告を義務付けることが含まれている。

「かつて欧州がそうであったように、こうした連邦政府の動きは負担を増大させ、経済に打撃をもたらすだろう」と報告書は述べている。

「炭鉱のカナリア」

欧州は米国に先んじてネットゼロエミッション条項を制定しており、その結果、欧州の農家はコスト上昇に圧迫されている。2050年までにカーボンニュートラルを達成するため、欧州では合成肥料の使用削減や農業由来の二酸化炭素排出量の規制などを行ってきたが、昨年末から複数の国で農民の抗議活動が発生している。

国民の反発に遭った欧州の政府関係者は、温室効果ガスの排出量を2030年までに55%、2040年までに90%削減するという公約を撤回し始めている。そして、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、農業従事者に課せられていた気候変動対策の取り組みの多くを免除することを検討するという。

「ヨーロッパは『炭鉱のカナリア』だ」とヘダーマン氏は言う。「肥料のコストが上がったらどうなるか。その結果が、今日のヨーロッパだ」。

「欧州各国の政府は、自国の厳しすぎる政策について考え直している。農民たちの激しい怒りに遭い、もはや気候変動への取り組みは持続可能ではないことに気づいたからだ」

農業従事者が苦境に立たされる中、一部の気候活動家は、昆虫や菌類を原料とする代替食品に希望を見いだしている。

2021年、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、MITテクノロジー・レビュー誌とのインタビューで、実験室で食料を生産し、科学的な改良を加えることについて語った。ゲイツ氏はビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズ、アップサイド・フーズといった合成食品製造会社に投資している。

「最も貧しい80カ国が代替肉を食べるとは思わないが、すべての富裕国は100%代替肉に移行すべきだ」とゲイツ氏は語る。「味の違いには慣れるだろう。時間が経てば、風味も改善されるはずだ」。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。