マラッカ海峡の許容量が限界に近づく中、各国が貿易ルートの代替案を検討

2023/12/12
更新: 2023/12/12

2021年7月11日午前零時過ぎ、ばら積み貨物船「ガラパゴス」(MV Galapagos)号とコンテナ船「ゼファー・ルモス」(Zephyr Lumos)号がマレーシア南部沖のマラッカ海峡を通過中に衝突した。 世界中の燃料や日用品の多くを運ぶために、インド洋と太平洋を結ぶ狭い航路を毎日航行する250隻以上の船舶の航行灯が、海と空の包まれた暗闇を貫いたことだろう。

業界の報道によると、ガラパゴス号の操舵システムの故障が原因とされるこの事故は、全長225メートルの運搬船の中腹に穴を開け、オーストラリア東部からインド東部への航海を中断させた。 マルタ船籍のガラパゴス号にも、イギリス船籍のゼファー・ルモス号(全長366メートル)にも負傷者はいなかった。ゼファー・ルモス号は数か月前に就航し、シンガポールからスエズ運河に向かう途中だった。 しかし、船体の右舷にできた裂け目から油が流出し、海面に広がった。

衝突事故は、事故や封鎖、紛争や海賊行為によって世界的な貿易が停滞しかねない海上交通の要衝の不安定さを改めて思い起こさせるものだった。 マレー半島とインドネシアのスマトラ島を隔てるじょうご状のマラッカ海峡の長さは、ゼファー・ルモーズ号7隻が横一列に並んだ状態と同じ、わずか2.7キロしかない。

東アジア・アセアン経済研究センターによれば、年間約10万隻の船舶がこの航路を航行しており、この航路は大洋と大洋を結ぶ最短の航路でありながら、ほとんどの場所で水深23メートルしかない。 その貨物は、日本と韓国のエネルギー輸入の約90%、中国のエネルギー輸入の約80%を占める液化天然ガスと石油を含む、約525兆円(3.5兆ドル)の貿易に相当する。

しかし、2030年までには、海峡の許容量を超える輸送量が予測されている。この期限が迫る中、インド太平洋はもとより、その他の貿易ルートの特定に注目が集まっている。 米国、同盟国、提携国は、安全で確実な海上交通路を通じて経済的繁栄を保証している。

バンコク・ポスト紙が報じたところによると、海峡の名前の由来となった港町が16世紀に主要貿易拠点として発展して以来、マレー半島の「クラ地峡を通る運河を浚渫するという何世紀も前からの提案」を含め、海峡の代替案が浮上している。

米国エネルギー情報局(EIA)によれば、パナマ運河とスエズ運河を合わせた約3倍の交通量があるマラッカ海峡にアクセスできなければ、「世界の輸送船の半数近くが、ロンボク海峡やスンダ海峡を経由するなど、インドネシア群島を迂回する必要がある」という。

例えば、ロンボク海峡を迂回する場合、航海距離は推定4,600キロ、航海時間は170時間延長され、経費は20%跳ね上がる。 米国エネルギー情報局は「迂回航路は世界の輸送能力を麻痺させ、輸送コストを増大させ、エネルギー価格に影響を与える可能性がある」と報告している。

インドネシア、マレーシア、シンガポールなどの提携国は、情報を共有し、海軍の共同パトロールを実施することで、海賊対策を行い、マラッカ海峡での衝突や座礁を減らすことを目指している。 一方、妨げのない貿易を確保するため、他の取り組みも前進を図っている。

「このような潜在的な波及効果を考えると、マラッカ海峡のようなチョークポイントを通過する物資のオープンな流れを維持することは、隣接する国々だけでなく、国際社会全体にとって不可欠であることは明らかだ」と、供給管理協会が発行する「インサイド・サプライ・マネジメント」誌は述べている。 「こうした課題は、産業や 企業がサプライチェーンを見直し、多様化し、潜在的なリスクを軽減するための新たなパートナーシップやルートを模索する機会にもなる」とし、

「さらに、貨物追跡の改善や予測分析のような技術的進歩により、産業界はより効果的に混乱を予測し、それに対応する準備を整えることができる」と同誌は2023年11月に報じている。

同月、タイのセター・タウィーシン首相は、海峡を迂回するためにタイ南部を通る約4兆1,183億円(280億ドル)の陸橋案への投資を呼びかけたとバンコク・ポスト紙は報じた。 アンダマン海とタイ湾の港を道路、鉄道、パイプライン網で結ぶ全長100キロのプロジェクトは、輸送時間を4日短縮し、コストを15%削減するとタウィーシン首相は述べた。

「陸橋は輸送を支える重要なルートであり、マラッカ海峡の問題を解決するための重要な選択肢となる」と、アジア太平洋経済協力サミットに出席していたカリフォルニア州サンフランシスコでタウィーシン首相は語り、 「これはより安く、より速く、より安全なルートとなるだろう」と述べた。

シドニーを拠点とするシンクタンク、ローウィー研究所が2023年11月に発表した記事によれば、このようなプロジェクトは、クアッドパートナーシップのメンバーであるオーストラリア、インド、日本、アメリカを含むインド太平洋諸国にとって、東南アジアにおける関与を強化すると同時に、貸し手として影響力を得ようとする中国の試みに対抗する手段として魅力的なものになるだろうという。

この地域は、海上貿易に大きく依存するオーストラリアにとって「安全保障の玄関口」とみなされている、と同記事は指摘している。 「オーストラリアがこうした開発に投資することで、絆を深め、新たな貿易ルートを作り、マラッカ海峡の海上交通の要所への圧力を減らし、タイの両岸の深水港へのアクセスを可能にする可能性がある」という。

Indo-Pacific Defence Forum