KADOKAWAが出版中止した話題の書籍 著者が伝えたかった「取り返しのつかない傷」とは

2023/12/09
更新: 2023/12/11

日本の大手出版社KADOKAWA(角川書店)は5日、性的少数派と青少年教育に焦点を当てた翻訳書籍の出版中止を発表した。一部組織からの激しい反発や、原書著者の指摘を受けて、出版と言論の自由に関する新たな議論が巻き起こっている。

反対したのは日本共産党支部や極左団体など。同書を「ヘイト本」とたとえ、6日には東京本社前での抗議運動を呼びかけていた。出版中止を受けて、著者のアビゲイル・シュライアー氏は「活動家主導のキャンペーンに屈すれば、検閲を助長することとなる」と懸念をあらわにした。

出版中止に至った経緯について、エポックタイムズはKADOKAWAに問い合わせたが、「現時点でお答えできる内容はこちらがすべて」とお知らせのリンクを提示するに留めた。そこには、ジェンダーへの理解増進につながるとして発刊を予定していたが「タイトルやキャッチコピー」が当事者を傷つけたとして、謝罪文が載せられていた。

話題の書籍は、欧米でベストセラーとなったものだ。著者は米イェール大学院卒の法学博士で作家のアビゲイル・シュライアー氏。2020年発刊の同書が処女作だが、翌年にバーバラ・オルソン賞(ジャーナリズムの優秀性と独立性に贈られる)を受賞。このほか、英タイムズ紙やエコノミスト誌の2021年ベストブックに選ばれた。10カ国語に翻訳版が出されている。

成人した性的少数派の選択を尊重しつつ、思春期という不安定な時期に“治療”として身体的負荷が大きい性転換手術まで勧めるのは行き過ぎている、というのが筆者の主張だ。KADOKAWAが予定していた翻訳版タイトルは『あの子もトランスジェンダーになった』だが、原書の直訳は『取り返しのつかない傷』である。

エポックタイムズは3年前、シュライアー氏に独占インタビューをしている。米国でも出版当初より言論界から“ヘイト”の憂き目に遭っていた。物議を醸した書籍の著者は、何を伝えたかったのか。今回は翻訳記事を通じて、その思いを明らかにしたい。

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作家兼ジャーナリストのアビゲイル・シュライアー氏は、自分を“論争を起こすような人物”だとは思っていない。しかし2020年初めに処女作が完成すると、たちまちキャンセルカルチャー(排斥運動)に巻き込まれた。

『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters(邦訳:取り返しのつかない傷 娘たちを惑わすトランスジェンダーの狂気)』と題した書籍は、多くの10代の女の子たちが性別の不一致という“誤診”によって身体に深刻な、元に戻すことのできない傷を受けていると結論付けた。

同書は、性別違和の専門家、50人以上のトランスジェンダーに関心を傾ける女子の親、10人以上のトランスジェンダーになった思春期女子を含む約200人に話を聞いた内容をまとめている。

シュライアー氏によると、性別不一致の診断は一世紀あまりの歴史がある。「最初は多くの男の子たちを苦しめてきました。だけど今は、10代の女の子たちです。米国だけでなく西洋社会全体でみられることです」

うつ病、不安、いじめなどの悩みを抱える10代の女の子たちは、今や“解決策”として性転換を見ているというのだ。

医学論文や自身の研究を進めていくと、シュライアー氏はあることに気づいた。最近の10代の女の子たちは自らを「トランスジェンダーだ」と訴えるだけで、医師より大量のテストステロンを処方されていたのだ。多量の投与は陶酔感や高揚感をもたらし、「自分は男性だ」との自認をさらに強めるものになるという。

そして、性転換手術が施される。手術による変化は、将来ほとんど元に戻すことはできない。

テストステロンの多量投与は心不全を引き起こす恐れがある。摘出が必要になるような子宮出血のリスクもある。それでも、顔や体毛、声、生殖器の変形には数年かかって現れるものだ。テストステロンの処方は永続的なものになるかもしれない。

シュライアー氏は、多くの医師が多感な10代の性別違和に、反対意見を示さないことも指摘する。医師たちは「トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)」との批判を受けることや、転換療法を禁じる州法に違反することを恐れているためだ。

米国の複数の州では、性的少数派の人々を異性愛者に変えようとする心理療法「コンバージョン・セラピー(転換療法)」を州法で禁止している。

指弾をおそれる出版界

出版に際し、シュライアー氏はいくつもの難にぶち当たった。「この本を出せば社員にストライキを起こされる」、「炎上する恐れがる」などの理由で断られたという。

出版が決まっても、IT大手アマゾンが広告を許可しなかった。検索結果に表出されなかったり、レビューが表示されなかったりした。この件について問い合わせたが、アマゾンは取材に応じていない。

どのような書評も発表されなかった。「すべての大手出版社が(書評の掲載を)断った」と書評を書きたいと願い出たあるジャーナリストから聞いたという。

若者向け雑誌バイスは、「トランスフォビア(トランスジェンダーに対する嫌悪)のような誤った情報を含む」と評した。書籍は「性転換を望むことを『伝染病』と呼んでいる」ことを取り上げ、科学的に根拠がないと指摘した。

シュライアー氏は実際に行動心理学の見地から「社会的な伝染(Social Contagion)」という用語を使い、若い世代の流行についてあらわした。この現象は摂食障害にみられ、性転換の急増にもあてはまるのではないかと論じていた。

批判の嵐にあっても、シュライアー氏は自分を“犠牲者”とは見なしていない。

「オルタナメディアが私(の書籍)について論じてくれたことに、本当に感謝しています」と彼女は述べた。

「しかし、もっと大きな問題は、この現象を知らない親がいること、これが社会的な感染であると知らない親がいることです。SNSを開発するIT企業がこの問題について耳を傾けなければ…子供たちはもっと甚大な被害を受けるかもしれない」

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。