中国の新しい流行語は「血槽姐」 中共「特権家族」の代名詞=中国

2023/12/16
更新: 2023/12/16

先月29日に起きた「血槽姐(邦訳:血流し姉さん)」の事件は、中国全土を震撼させた。

関連トピックスは中国の多くのSNSでホットリサーチ入りし、ウェイボー(微博)だけでも11月29日夜7時ごろの時点で2.6億回の再生数、コメントが1.1万を超えた。

事件は上海の若い女性である余さん(27歳)が「自身の幸運な生還」に関するSNSへの「自慢気な投稿」がきっかけで明るみに出た。(余さんのSNS投稿動画はこちら

余さんは10月中旬に、夫と2人で旅行していたが、チベットの阿里地区で交通事故に遭い、肝動脈が破裂したほか、全身に30以上の裂傷を負うなどの重傷を負った。

出血が激しく、緊急輸血を必要としたが、現地の病院には血液のストックが足りない。

 

画像(左)は余さんとその夫。画像(右)は事故により大破した余さんの車。(SNSより)

 

そこで、余さんの夫は親戚の「おばさん」を通じて「上海市衛生健康委員会」に連絡をとった。

「上海市衛生健康委員会」は、余さんのいるチベットの阿里地区の全公務員、つまり警察、消防隊員、軍隊の全員に「献血」をさせたという。

投稿には、動画のほか、女性の夫が「阿里地区の公務員全員のA型の血が、全部あなたの体に入ったよ」「あなたは合計7千ミリリットル以上の献血をうけ、全身の血液を2回入れ替えたんだよ」と妻に告げるメッセージのスクリーンショットも添えられていた。

輸血の後、女性の父親は百万元(約2千万円)以上を使って飛行機をチャーターし、彼女を成都の病院へ運ばせた。空路による移動時間は3時間未満であったが、移動中も「優先通路」など各種の特別待遇を受けたという。

阿里地区の公務員全員による献血、チャーター機による搬送、病院での高度な治療などの大救出劇を経て、女性は最終的に一命をとりとめたという。

 

チャーター機で緊急搬送される「血槽姐」。(NTD新唐人テレビの報道番組より)
チャーター機で緊急搬送される「血槽姐」。(NTD新唐人テレビの報道番組より)

 

女性の病院でのカルテが、ネットに流出している。事故で負った重傷というのは「一般の人だったら8回は死んでいる」というほど重大な程度であったらしく、まさに奇跡的生還と言えるものだった。

この救命劇の一部始終は、彼女が運び込まれた四川省の「華西医院」にある「党建設コーナー」に「ポジティブ・ニュース」として掲載された。

 

画像(左)は、「あなたは合計7千ミリリットル以上の献血をうけ、全身の血液を2回入れ替えたんだよ」と彼女に告げる夫からのメッセージのスクリーンショット。画像(右)は四川省の「華西医院」の「党建設コーナー」に「ポジティブ・ニュース」として掲載された「血槽姐」のエピソード。(SNSより)

 

しかし、そんな中共宣伝コーナーに並べられた「ポジティブ・ニュース」をみた一般の中国人は、誰しもその心に、不条理に対する嫉妬と怒りを覚えたはずだ。

それは、このニュースが喜びを共感できる美談では決してなく、今の中国に厳然と存在する「特権階級と庶民の間にある巨大な溝」をはっきり映し出す鏡となったからである。

公務員を自分の「移動式の血液バンク」にできて、チャーター機で遠方にある病院に移送され、移送過程でも優先通路や各種特別待遇を享受できる。これは一般庶民の目にどう映るのか。

このお嬢さんのように「特別な身分」ではなく、一般庶民の子供だったら、間違いなく助からないだろう。この「血槽姐」の幸運の対極にあるのは、無数の一般人の「不幸」である。

つまり、中国の庶民は、こうした特権階級の「血槽姐」とは全く異なる世界に生きているのだ。

ここで、少し前にネットで伝えられた、ある悲劇を思い出さずにはいられない。

それは普通の家庭の一人息子が、非常に稀な呼吸器系の病気にかかった話だった。その子は生命を維持するために、長期的に高度な医療機械に頼らなければならない。ところがその両親は、ついに高額な医療費を負担できなくなったのだ。

最終的に父親は、息子の酸素チューブをその手で取り外すことを余儀なくされた。チューブを外す最中、危篤状態の息子は突然「パパ、助けて!」と叫んだ。

その一声に、ただでさえ罪悪感に苛まれていた父親は、ついに我慢できなくなり、病院に響き渡るほどの大声を上げて泣いた。

大粒の涙が息子の顔を濡らす。どうすることもできない無力な両親は、我が子の呼吸が徐々に弱まり、やがて止まっていく一連の場面を、その目で見ているしかなかった。

もし、この子の両親に、チャーター機を飛ばせるぐらいの財力があり、特別待遇を受けられる有力者の親戚がいたら、父親の手によって酸素チューブを抜かれることはなかったのだろう。

これこそが、この並行世界に生きている、中国の特権階級と庶民のリアルな違いである。

「平等」は中国共産党が推進するいわゆる「社会主義の核心的価値観」の重要な部分である。中共は常に「共産党の指導の下で、中国人民は真の平等を実現した」と自負してきた。

しかし実際のところ、1949年の中国共産党の執政から今日に至るまで、中国人民と特権階級である共産党高官との間に「平等」が存在したことは一度もない。

それどころか、両者の格差は際限なく広がり、ますます顕著になったと言ってよい。そのため「特権階級」に対する憎悪は、もはや中国人民の心に根ざした最大の痛みとなっている。

今回の「血槽姐」による自身の特権と幸運の自慢(誇示)は、庶民の心にある「痛点」に突き立てる鋭いナイフのようなものであった。そのために彼女は突然注目され、「血槽姐」という新・流行語まで登場したのである。

繰り返すが、この話の根底には、ヒューマニズムに基づく人命救助の美談では全くなく、特権階級であることの「悪魔的な優越性」がそこにある。

こうした考え方は、やがて必ず「臓器狩り」へと結びつくであろう。

 

ネット上に拡散されている「血槽姐」のイメージ画像。無数の献血袋をしたがえて、中央の女性が恐ろしい笑顔を見せている。(SNSより)

 

なお中国語の「血槽」というのは、日本刀などの刀にある樋(ひ)と呼ばれる、鎬地と峰の間に両面それぞれ1~2本掘られる細長い溝の部分をいう。樋は俗に「血流し」とも呼ばれ、切ったときに付着した血を溝を伝って流す役割も果たすという。

「血槽姐」とは、直訳すると「血流し姉さん」である。つまり、この場合、この特権家族のお嬢さんが「庶民(公務員)の血を抜き取り、その輸血を受けること」を意味している。

ネット上には、こんなコメントも寄せられている。

「どうか、このお嬢さんが一生健康で、これ以上、事故に遭ったり、病気にならないでほしい。もしも次回、輸血ではなく臓器交換が必要となったら、誰かがその代わりに死ななければならないからだ」

このように、ネット上には中国の「臓器狩り」について言及する、身の毛もよだつようなコメントが少なくない。

現在、もとの投稿動画などは削除されているが、すでにネット上に広くシェアされているため、この騒ぎはそう簡単には収まりそうにはないようだ。

「血槽姐」の事件があまりに世間の注目を集めているため、中国メディアは相次いで「女性の家庭は特権階級ではなく一般家庭だ」と主張する報道を行っている。もちろん、そんなことを信じる中国国民は1人もいない。

女性の夫の親戚であり「上海市衛生健康委員会」をアゴで使えるほどの「おばさん」とは、いったい誰なのか。そしてこの女性は、どこの特権家族の「お嬢さん」なのか。

ネット上では、事件の真相を追及する声が未だに止まない。

 

 

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。