海洋領域監視技術に目を向ける同盟・提携諸国

2023/11/15
更新: 2023/11/15

インド太平洋地域を占める海洋には、主権の保護および航行と通商の自由の維持という観点から非常に大きな課題が存在する。これは軍事計画立案者の間では「距離の専制」と呼ばれる問題である。

アナリスト等の見解によると、距離という障害を克服して海洋領域を監視する上で、衛星、センサー、無人航空機、無人水上艦などの技術を活用し、同志国の間で包括的に情報共有に取り組むことの重要性がますます高まっている。

ハワイを拠点とする外交政策研究機関パシフィック・フォーラムが発行する『PacNet』の2023年4月の記事には、「インド太平洋における海洋領域認識(MDA)は、抽象的な願望から、この地域のダイナミックなオフショア空間を管理するための機能的な集団安全保障アプローチへと移行しつつある」と記されている。 さらに「より鮮明で正確な映像を取得できる衛星、また船舶の追跡、予測、異常検出に特化した人工知能(AI)やビッグデータプラットフォームといった新興技術を活用することで、海上取締活動のコストを大幅に削減することができる」という記載もある。

たとえば、宇宙ベースの無線周波数技術を搭載したHawkEye360(電波監視衛星)を活用することで、船舶を検出・監視することができる。これにより、違法漁業などの違法行為を隠蔽するために船舶自動識別装置を作動させない「暗黒船」も特定することが可能となる。 米国に本拠を置くこの商用電波観測衛星運用企業はデータと分析を提供することで、米国と提携諸国による排他的経済水域や他の海洋空間の保護活動に協力している。 米国とその同盟・提携諸国は、安心して航行できる安全な航路を維持することで経済的繁栄がもたらされると確信している。

国連貿易開発会議によると、世界各地の海上貨物船の60%以上の貨物がインド太平洋の港湾で陸揚げされ、40%以上の貨物船が積み込みを行っている。 東京の政策研究大学院大学の博士課程に在学するアリエル・ステネク著のPacNetの記事には、海洋貿易が同地域の生命線であることから、「船舶事故、海賊行為や武装強盗事件、瀬取りによる制裁回避、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)、懸念が高まっている一方的な海上での強奪、脆弱なチョークポイントの封鎖など、その原因が何であれ」、混乱や中断が発生すればその被害は多大なものとなると記されている。

同記事には、「こうした脅威の多くには本質的に国境を越える性質があることから、これにより同志国の間で連携して協力的な解決策を模索する動きが促進された」と説明されている。

こうした取り組みの1つとして、通称「Quad(クアッド)」として知られる日米豪印戦略対話が2022年5月に東京で開催された首脳会合で発表した海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」が挙げられる。 首脳会合の共同声明によると、同イニシアチブは市販のデータと技術を利用して地域の融合センター間における情報共有を推進するという手段で、「太平洋諸島、東南アジア、インド洋地域の提携諸国の沿岸や海域を完全に監視する能力を高めることで、自由で開かれたインド太平洋を維持する」ことを目指すものである。

インドマハーラーシュトラ州プネに所在する海洋研究センター創設者、アーナブ・ダス(Arnab Das)博士の見解によると、インド、シンガポール、バヌアツなどに設置された融合センターで高品質のデータを活用することで、地域の海洋領域認識が大幅に高まる。

インド海軍司令官を務めた経歴を持つ退役軍人でもあるダス博士がFORUMに寄稿した記事には、「分析という観点から、さまざまなデータソースから不審な動作をリアルタイムで特定する上で、自動化と機械学習が非常に重要な要素となる」と記されている。

東シナ海や南シナ海の紛争海域を含め、海洋で攻撃的な姿勢を取る中国共産党の政策に起因して、同地域の海軍や沿岸警備隊、また他の海上執行機関が重要なシーレーンを自由かつ安全に利用することが困難な状態が続いている。 例えば、2023年10月下旬、中国共産党の海警局、海軍、海上民兵の船団が、南シナ海の第2トーマス浅瀬に駐留するフィリピン軍に食料や物資を届けようとしたフィリピン沿岸警備隊の船2隻と他の船2隻を妨害するという事態が発生している。

中国共産党の船舶がフィリピン沿岸警備隊の船舶と補給船を攻撃した事態を受け、フィリピン政府は声明を通して中国に対する非難を発表し、米国当局はこれを中国側の「危険かつ違法な行動」としてフィリピンを支持した。

米国海軍のサミュエル・ヒーナン・ワインガー中尉が著述した米国海軍協会(USNI)発行の雑誌「プロシーディングス」2022年12月号の記事には、「海上民兵、法律による中国海警局の武力行使の容認、合法的に競合する商船や事業組織の訴追といったグレーゾーン戦術を用いることで、公式の軍事文書で台湾を『中国の復興に不可欠な戦略的地域』および『太平洋への跳躍板』と定義する中国は、自由で開かれているべき第一列島線内の海洋の共有資源を徐々に侵食している」と 記されている。

同記事「提携による集団監視:第一列島線に沿った分散型海洋作戦」には、そのため「平時か有事かを問わず」、センサーをネットワーク化することで、こうした活動を検知・阻止する必要性が高まっているとも指摘されている。

同記事にはさらに、衛星とセンサーを利用することで「同盟・提携諸国の軍隊は個々の戦術的視野をはるかに超えた戦闘空間認識が得られ、本質的に地球規模で諜報・監視・偵察(ISR)を行うことが可能となる」と書かれており、 「艦船や他の軍事装備で使用されているセンサーで潜在的な標的への攻撃に関する十分な有機的データを取得するには、ホストプラットフォームに過度のリスクが及ぶことを覚悟しなければならない」とも記されている。

また、「第一列島線に沿ってセンサーのネットワークを配置するという案により、米国と日本が同地域で実施している現行の作戦や計画を論理的に拡大できる」と記されている。

Indo-Pacific Defence Forum
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