中国の各地方で起きる不正や権利侵害などの被害を訴えるため、民衆が、地方および北京にある陳情局へ申し立てる事例は無数にある。
こうした陳情民の存在は「不正の主体」である地方政府にとって厄介者であり、地方の問題を中央政府に知られることになるため、その口を封じたいというのが本音だ。そのため、北京の陳情局に訴える陳情民を、地方から派遣された要員が拘束し、暴力的に連れ戻すケースは後を絶たない。
そのようななか、福建省福州市の陳情民の葉鐘氏が、公安による拘束中に死亡したことについて「葉氏の臓器は、全て抜き取られた」とする噂が拡散され、物議を醸している。
死刑囚ではない、全く無実の人から臓器を奪い取り、移植手術用に用いる「活摘器官(臓器狩り)」は、すでに中国の民衆の間でも周知の事実となっている。陳情民の間では「ついに我われ(陳情民)までもが、臓器狩りのターゲットにされているのではないか」とする不安が広がっている。
今月7日、福州市の陳情民は、地元の役人の口から、次のようなことを聞いたという。
「手柄を立てようと焦った若い警察官たちが、葉氏に自白を強要するあまり、拷問して死なせてしまった。彼の臓器は全て抜き取られて売られた。その妻は、和解書類にサインをしており、補償金360万元(約7,500万円)と不動産3件を受け取っている」
ただし、このうち陳情民の葉鐘氏が「地元公安に拘束中、死亡した」ことは事実だが、それに付随する「(葉氏の妻が)補償金360万元、不動産3件を受け取った」は聞き伝えで流れた噂であるため、事実であるか否かは確認できていない。
10月16日になって、福州市公安局信訪処(陳情局)は「葉鐘氏が突然、心臓発作を起こして死亡した」と発表した。
しかし、葉氏の妻によると「夫(葉氏)は暴行されて、9月20日には命を落としていたはずだ」という。それが事実であれば、葉氏の死は、その約1カ月後になって、公安による暴行ではなく「心臓発作のため」として公表したことになる。
葉氏は生前、非常に健康であった。そのため、心臓発作という死亡理由が「あまりに不可解だ」と考えた葉氏の陳情仲間たちは10月20日、葉氏の死の真相調査を求めて、共同署名運動を行った。だが、この運動は警察に弾圧され、参加者は全員、現地警察から脅迫されたという。
死亡した葉鐘氏(1978年生まれ)は修士号をもつ高学歴者であり、地元政府による自宅の強制取り壊しに遭って以来、長年陳情を続けてきた。
葉氏は、これまで何度も公安によって不当に拘束され、正常であるにもかかわらず精神病院に送り込まれるなどの迫害を受けてきた。その妻の李美英氏は現在、白血病を患っているという。
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