これが中国のハロウィンだ! 注目の仮装は「白い防護服」と「腐敗官僚」

2023/10/31
更新: 2023/10/31

今年もやってきたハロウィンの季節。ハロウィンは、もとは古代ケルトの信仰にもとづくお祭りで、19世紀のジャガイモ飢饉で大西洋を渡ったアイルランド人の移民とともに米国に伝わった。

以来、今では毎年この時期になると、アジアをふくむ世界各地で関連イベントが賑やかに開催されている。

今年はひと味違う「中国版ハロウィン」

日本でも毎年この時期になると、渋谷駅前や日本最大級のハロウィンイベント「池ハロ」開催地(今年は10月28日と29日に開催)の池袋ではコスプレした人や見物客で賑わう。安全と治安の維持にあたる警視庁のお巡りさんは、昔はなかったイベントで懸念材料が増えてしまい、さぞやご苦労であろうと推察する。

いっぽう、お隣の中国ではどうか。昨年12月初めまで約3年続いた「ゼロコロナ(清零)政策」が解けて、久しぶりの「無礼講」となる今年の中国版ハロウィン(萬聖節)では、日本とはだいぶ様子が異なるようだ。

この無礼講を良い機会として、ちょっと露骨な政治批判など、世相を反映したコスプレも見られる。

上海などの大都市では、さまざまな「お化け」のコスプレをした市民が街頭に出て、見物客を楽しませている。なかでも、特に目を引くのが、中国人の目に焼き付いた「大白(ダーバイ)」の姿をした「お化け」だ。

「大白」とはゼロコロナ政策の期間中、白い防護服に身を包み、陽性者を強制隔離するなど、終始高圧的な態度で市民に横暴をふるった防疫要員のことである。そのため、市民が口にする「大白(ダーバイ)」には、嫌悪と侮蔑の感情がともなう。あの時「大白」は、本当の意味で市民を襲う「お化け」だったといってよい。

この「大白」と同じものを指す言葉で「白無常(バイウーチャン)」という呼び方もある。中国語の「無常」は、特に上海など江南の地方で「冥界から、もうすぐ死ぬ病人を迎えにくる妖怪」をいう。ハロウィンだからではないが、「白無常」はもともと中国の「お化け」の呼び名なのだ。

このほかにも「搾取される労働者」「中国の皇帝」「汚職官僚」の仮装をする市民まで現れて、注目を集めている。ここまでくると、中国の市民は「ハロウィンのコスプレを通じて、中国社会の闇を暴こうとしているのか」とも思われる。

中国警察が制止するコスプレもある

実際、日本の優しいお巡りさんとは全く異なり、中国の警察官は、市民のコスプレの「種類」に対して、まるで検閲するように監視しているのだ。

SNS投稿動画のなかには、手に消毒液をもつ「大白」や、同じく「拡声器」をもつ白衣の医師のコスプレをした市民が、颯爽と町なかを歩く姿があった。

「大白」のほうは、見物の市民にゼロコロナ中ではお決まりであった「手の消毒」まで施している。もちろん市民のほうも、パロディ化されたかつての悪役である「大白」による消毒を、面白がって喜んでいる。

手に拡声器を持った「(コスプレの)医師」は、その姿を見ると今にも「そこ、安全距離を取れ!」「隔離するぞ!」などと指示を出しそうな嫌な予感がしてしまう。今だからこそ笑えるが、それらはつい最近の、昨年末まで続いたゼロコロナ政策下の恐ろしい光景であった。

全ての中国人にとって、あの3年間は「二度と見たくない悪夢」だったに違いない。そのとき民衆がみた「悪夢」のもっともストレートな象徴となっているのが、白服の防疫要員と白衣の医師と言っても過言ではない。

ところが、これら「大白」のコスプレが、ゼロコロナ政策を実施した政府への「皮肉」とでも見て取れたのか。一部の「大白」は、ハロウィンの現場で警官に制止されたようだ。

 

(「大白」や「医者」のコスプレをした市民たち。上海にて)

 

「皇帝のコスプレ」はダメだって?

黄袍(きほう)は、中国の皇帝だけが着ることを許された特別な衣装である。

SNSには、ハロウィンのコスプレでその黄袍、つまり「黄色い皇帝の衣装」を着た市民が、複数の警官に取り囲まれ、止められたことを示す動画も投稿されている。せっかく用意した「晴れ着」を制止された市民の男性は、皇帝の帽子を取り、実に悔しそうな顔をしていた。

ところで、なぜ「中国の皇帝の衣装」がダメなのだろうか。

警官がそこで何と言ったのかは定かではないが、この日は「お化け」の恰好をすることが主な趣旨であるため、警官たちは「今の皇帝=習近平主席」と考え、市民が皇帝のコスプレをすることは「習主席を、お化けと揶揄している」とでも思ったのだろうか。

考え過ぎとしか言いようがないが、それを取り締まりの対象にするのが今の中国の警察である。

最近、明朝のラストエンペラーである崇禎帝(すうていてい)を描いた歴史書を「禁書」扱いにしたが、こうした当局のあまりの過敏さは、かえって現政権が抱える弱点を浮き彫りにしたと指摘されている。

書物ばかりか、ハロウィンの衣装にまで当局が神経をとがらせているとすれば、市民の誰もが思うだろう。「この王朝の終焉は近いな」と。

 

(「皇帝」のコスプレをした市民を、複数の警官が制止している場面。上海にて)

 

「汚職官僚」も登場して大ウケ

上海でのハロウィンには、なかなか手の込んだ「汚職官僚」のコスプレをした市民まで現れて、観客に大うけしていた。

その「お大尽」は、手に持つ白い袋のなかから「さつま芋」と思われるものを取り出しては見物客に渡していた。「なるほど、これで賄賂を渡す場面を再現しているのか」。周囲の観客も大いに納得の「名演技」である。

立派な官服を着ているが、そのメイクを見ると「顔の真ん中」が白い。このメイクは、中国の伝統劇のなかで「丑(チョウ)」という道化役で、不正をはたらく悪い役人などを表している。

もちろん市民は、中国共産党の官僚の全てが、この「丑」であることを知っている。周囲の観客が爆笑していたのは、そのためである。

 

(「汚職官僚」のコスプレをした市民。顔の真ん中が白いメイクは「丑(チョウ)」という道化役で、不正をはたらく悪い役人などを表している)

 

「リアルなゾンビ」は搾取される労働者

欧米のホラー映画でおなじみのゾンビは、墓場の死者が地上に出て歩き出すものだが、ハロウィンの仮装の定番でもある。

こちら中国のハロウィンには、今の世相を反映した「リアルなゾンビ」が登場した。上海でハロウィンのコスプレをする市民のなかに、黒いメイクで「今にも死にそうな顔」をした男性の姿があったのだ。

一見すると、何のコスプレなのか分からない。ただ、その胸の前に貼られた「乙方」と書かれた紙に目をやると、全てが分かる。「なるほど、これは死にそうになるのも無理はない」と誰もがその理由を察知するのだ。

「甲」「乙」は、日本と同じく、中国でも契約書において双方の当事者を指す一般的な略称となっている。例えば労働契約の場合、「甲方」は雇用主、「乙方」は雇われる労働者を指す場合が多い。

つまり、「乙方」の紙を胸に貼って今にも死にそうな顔をしている市民のコスプレは、へとへとに疲れた労働者であり、今の中国が抱えるリアルな現実を示しているのだ。

恐るべき低賃金で、想像を絶する重労働。いつでもクビにされる不安定さ。しかも、経済の低迷のため、すさまじい就職難にある中国では、ひとたび失職したらもう次の仕事にはありつけない。そのため労働者は、命を削って働くしかないのだ。

この「くたびれ労働者」を演じた市民は、今の中国社会の不条理に対して、搾取される労働者の辛さをぶつけているのだろうか。

今年の中国のハロウィンは、確かに百鬼夜行する「リアルな、お化けの世界」であった。

ただ、一つだけ救いだったのは、ほんの一時ではあるが、市民の表情に明るい笑顔が戻ったことである。その傍らで、警察官の顔はひきつっていたかも知れないが。

 

(胸に「乙方」の紙を貼って、今にも死にそうな顔をしている市民のコスプレ)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。