[オークランド(ニュージーランド)/北京 31日 ロイター] – 中国は環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請しており、貿易専門家によると、要件的には加盟基準を満たせるはずだ。従って現加盟各国は、もともと中国の影響力拡大に対抗するために作られたTPPに中国を参加させるかどうかという、政治的に厄介な決断を迫られている。
英国は7月、ニュージーランドのオークランドで開かれた会議で、TPPへの加盟を正式承認された。申請から2年余りでの実現だ。
これにより、加盟国が中国、台湾、ウクライナ、コスタリカ、ウルグアイ、エクアドルからの加盟申請を検討する道が開かれた。
経済規模が圧倒的に大きい中国は、申請順に処理されれば次の順番になる。ただ、申請順と決まっているわけではない。
TPP議長国ニュージーランドのオコナー貿易相は、次の申請検討に一定の時間的枠組みはあるかとの質問に 「無い」と答えた。
TPPは米国主導で始まったものだが、同国はトランプ政権下で離脱した。
アナリストによると、中国がTPP加盟を望んでいるのは、さまざまな貿易制限による自国経済への影響を憂慮しているためだ。加えて、TPPが定める高い加盟要件を満たすことが、国内の経済改革に向けた新たな刺激になるとの思惑もあるという。
シンガポール経営大学の法学教授ヘンリー・ガオ氏は、高い要件を満たしてでも加盟することに中国を駆り立てているのは、米国のTPP離脱だと解説する。「中国を封じ込める手段としてTPPを利用しようとする米国の企みを打ち砕くこと」が「隠れた動機」だという。
中国外務省の報道官は、TPP加盟申請は改革を深化させ、他国との貿易協力を拡大する努力に沿ったものだと述べた。
<加盟要件>
TPPは、各国が関税を撤廃または大幅に引き下げ、サービスや投資市場の開放に強くコミットすることを要求するもので、競争、知的財産権(IP)、外国企業の保護に関するルールを定めている。
元ニュージーランド貿易相のティム・グローサー氏は、「従来の考え方では『そうだな、ハードルが高すぎるし、国有企業を擁する中国はこの協定には参加できない。だから実現しないね』となるのだろうが、私の考えではそれは大間違いだ」と語った。
グローサー氏によると、少なくとも中国の一部には、TPPをてこに国有企業などの改革を進めたいという思惑がある。
しかし中国は国有企業に補助金を出しており、「開放的で市場主導型」の経済という要件を満たすのに苦労する可能性がある。また、知的財産権は改善されつつあるものの、欧米企業から知的財産を盗用する事例が依然として目立っている。
TPPはデジタル貿易にも重点を置いており、国が外国企業に対し、例えば中国国内でのデータ保存を強制することを禁じている。だが中国のデータ主権に関する法律は近年厳しくなる一方だ。
ただ貿易専門家らは、TPPには国家安全保障上の保護措置などに関して適用除外が設けられていると指摘する。また、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟した際に自由化を実行できることを示した実績があるという。
中国の王小龍駐ニュージーランド大使は最近の講演で「TPPはわれわれにとって重要だ。簡単だからではなく、困難で厳しいからこそだ」とし、加盟すれば「国内改革の推進力」になると述べた。
<政治の影>
最終的には、技術的な要件よりも政治的要因によって決定が下されるだろう。例えばオーストラリアは、北京がワインや大麦を含むオーストラリア製品の輸入を阻止し続ける限り、中国の申請を承認しないと表明している。
米国、オーストラリア、英国、カナダ、日本、ニュージーランドの各国は先月、経済的強制を非難する声明に署名した。この声明は中国の行動を指していると広く受け止められている。
また米国がTPP離脱を再考するかもしれないという期待も残っており、米国の拒否権や、中国が加盟承認された場合に米国の再加盟を阻止するリスクが想定される。
シンクタンク「全球化智庫」の理事長である王輝耀氏は「日本、オーストラリア、カナダ、メキシコは、それぞれ独自に行動しなければならないと思う。米国は立ち去ったのだから、他国が他のパートナーと協議するのを制限しようとすべきではない」とくぎを刺した。
ブリンケン米国務長官は先週、米国はTPP加盟を再考するかとの質問に対し、今は「インド太平洋経済枠組み」に集中していると答えた。
TPP加盟国にとって、政治的ジレンマは中国の申請だけではない。台湾もTPP加盟を申請しているが、中国が反対している。
英国のアジア太平洋担当通商委員、ナタリー・ブラック氏は「これはコンセンサスで決まることだ。最終的には、このテーブルで皆がどう判断するかにかかっている」と語った。
(Lucy Craymer記者、Joe Cash記者)
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