公権力を振りかざし、飲酒運転の取り締まりから逃れようとする警察幹部=中国 河南

2023/07/12
更新: 2023/07/12

このほど、公権力を振りかざして、飲酒運転の取り締まりから逃れようとする中国警察の「お偉いさん」の無様な動画が、中国のネット上で拡散され注目を集めている。

飲酒の検問にひっかかった警察幹部

話の概要は、こうである。

「ある夜、警察の幹部とみられる男と運転手が、権力をかざして飲酒運転のチェックを逃れようとした。現場の交通警官は、たとえ相手が幹部であろうと目こぼしせず任務を遂行しようとする。しかし2人は、最後までアルコールチェックに応じず、立ち去った」

しかも「後日、この模範的な交通警官は解雇された」というオチがつく。まことに単純明快な話であるが、中国警察の実態を知る上で、この事件はなかなか興味深い。

解雇された元警官がその時の動画をあえて公開したのは、もはや自分の身の証を立てて復職したいからではないだろう。

あくまでも可能性の高い推察であるが、彼は心底、嫌気が差したのである。それは同時に、民衆に横暴を極める中国の警察が、いとも簡単に崩れる「砂上の楼閣」であることを示す実例でもあるだろう。

往生際の悪い警察関係者

さて動画の詳細を、以下に見ていきたい。問題の動画がSNSに投稿されたのは今月6日、場所は河南省郏県とされている。動画の背景からして夜遅い時刻であろうが、撮影された日付ははっきりしない。

動画には、飲酒運転の取り締まりを行う複数の交通警官によって止められた白い車が映っていた。車内には男が2人いる。

「とりあえず車から降りて(アルコールチェックに協力して)」という交通警察の指示にも関わらず、黒いシャツの運転手の男は(降参を意味するように)両手を頭上に挙げたり、また運転席の扉を一瞬開けるなどするものの、顔は向けず、最後まで車から降りることはなかった。

後部座席に座っていた男は「降りないぞ」と頑として拒否した。この人物は、警察の制服の一種である青いワイシャツを着ている。どうやら警察関係者であることが、すでに交通警察にも分かっている。後部座席の男のほうが、運転者より上位の人間らしい。横柄な態度からして、そこそこの幹部であろう。運転手が警察の部下であるか、私的な雇人であるかは分からない。

後部座席にいた男は、自身の警察証らしきものを取り出して交通警察に突きつけ「どうだ、これでいいだろう?」などと態度で圧力をかけた。

だが、対応した交通警察官は、その(同業の上司からの)圧力に屈せず、あくまでも下車して飲酒運転検査に協力するよう2人に求めた。

後部座席の男は下車したものの「(お前たちの)上司は誰だ?」などと問い詰めたり、動画撮影者の体を押したりして攻撃をする様子も動画に映っている。

運転席の黒シャツの男は、やはり出てこない。アルコールチェックを拒否するとすればその理由は一つしかなく、すでにバレているのだが、よほど往生際が悪いようだ。

その後、後部座席から出てきた男はどこかへ電話をかけ、現場にいた別の交通警察に「この電話の相手から話を聞け」と携帯を渡した。動画はこの辺りで終わっている。

中国メディアによると、2人の男は結局、飲酒運転の検査に協力することなく、その場を強引に去ったという。

世間の反応は「全ては因果応報だ」

この交通警察官(後に警察を補助する立場にある「補警」であることが判明するが)はその後、ほどなくして解雇された。

つまり突然クビにされたのだ。一方的な解雇が、動画を公開するに至ったことと直接関係あるかどうかは分からない。ただ、本人の心中を想像すれば「職務を遂行して解雇されたらたまらない」と思っていることは間違いない。

事件に関わった交通警察が解雇された理由について、当局は「勤務中に違反行為があった」と主張している。世間はもちろん「警察のお偉いさんを足止めしたことで、報復されたからに違いない」と考えている。おそらく後者の可能性が高いであろう。

中国メディア「紅星新聞」6日付によれば、後部座席で証明書を見せた「徐氏」は、河南省郏県公安局の幹部で、白い車は徐氏が所有する車だという。

その時、徐氏は、自分の警察証を飲酒運転を取り締まる交通警察に見せて「特別対応(目こぼし)しろ」と要求した。

しかし、それを拒否されたので、交通警察の中隊長である「張氏」に電話をかけた。張氏からの口添えで、現場の交通警察が「特別対応」するよう要求したのである。その後、黒シャツの運転手は徐氏の指示で車を発進させ、その場を強行突破したという。

また、中国メディア「上游新聞」がある情報筋から入手したという情報によると、事件当時、徐氏の車を運転していたドライバーは「飲酒運転の疑いがあった」という。

動画の拡散によって、確かに事件は注目された。世論の圧力もあり、現在、警察幹部の「徐氏」と交通警察の中隊長である「張氏」は、関連部門が調査しているという。

関連する報道には「(警察がこれでは)どこに正義があるのか?」「もし動画を撮影した交通警察が解雇されていなければ、彼はこの動画を公開しなかっただろう。全ては因果応報だ」といったコメントが寄せられている。

「公安が身内の不正を見逃す」は常のこと

「公安が身内の不正を見逃すことは普遍的にある。頭の固い(マジメな)交通警察に当たった警察幹部は、運が悪いとしか言いようがない。というのは、今回のようなケースは本当に珍しいからだ」

「もし、この交通警察官がクビにならなければ、この事件が明るみになることもなかっただろう。警察が身内をかばうケースなど、当りまえ過ぎて事件のうちに入らないよ」

今回の動画公開に関連して、上記のように「不正が常態化している」と指摘する声も多く寄せられた。

過去にも、官僚の不祥事がネット上に晒されるケースも少なくなかった。そのような場合、不祥事を起こした者の地位が低ければ、世論対策のため「象徴的な処分」を下すこともある。つまりは「見せしめ」にするのだ。

また、時には政府の「公平性」や「正義」のイメージ作りのために、不正発覚を逆利用して当局が「正義の味方」を演じることもある。

「誰もが信じない嘘」で幕引き図る

ただし、政府の高官や組織の幹部のスキャンダルとなると、そうはいかない。多くの場合、即刻もみ消されるのだ。

例えば、中国の著名な女子テニス選手である彭帥(ほうすい)氏が、元副首相の張高麗から過去に性的暴行を受けたと告発した事件は、一時は国際社会から注目されたものの、結局はうやむやのうちに葬られた。彭帥氏は、今も安否不明である。

さらに事件が「鉄鎖の女性」や「唐山の集団暴行事件」あるいは「胡鑫宇事件」など、中国共産党政権の正当性にも及ぶ大問題となれば、当局は「誰もが信じない結論」を作り出して事件を強引に幕引きし、反対意見を封じ込めるのである。

1989年6月4日の六四天安門事件の際、北京の天安門広場を中心に、軍が発砲して多数の犠牲者が出た。犠牲者数は「多すぎて不明」である。中国当局はもちろんその数を把握しているが、今日に至るまで一切公表していない。

その六四の硝煙が消えもしない時に、中国政府の報道官であった袁木(えんぼく)氏は、顔に笑みを浮かべながら「1人も死んでいない(一個人没死)」と言い放った。これこそ「誰もが信じない結論」の典型例である。

あれから34年後の2023年。「1人も死んでいない」と言った中国共産党の本質は、少しも変わっていないと言ってよい。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。