「法律は役に立たない。だから自分で決着をつける」中国農村部で相次ぐ、一家みな殺し事件

2023/05/17
更新: 2023/05/26

唐突ではあるが「中華人民共和国」にも法律や憲法はある。しかし、法律を公正に運用して社会を浄化する仕組みが、全くない。

法律の上に「党」が絶対的に存在する。そうした意味において、明らかに奇形的な体制である現在の中国は、極めて不安定かつ不条理な、言わば「累卵上の国家」でもある。

以下の事件は、その危うさが招いた一例であるかもしれない。昨今、中国の農村部では「村長一家が皆殺し」といった、信じ難いような凶悪事件が連続しているのだ。

中国の農村部で、何が起きているのか?

「法律が形骸化し、政権側の道具となった時、次第に人々は自分の方法で問題を解決するようになる。農村から都市へと、法廷が完全なる装飾物に成り下がり、誰も法廷に行かなくなったとき、中国では、新たな社会制度が出来上がる」

これは今月14日にツイートされた文言だ。文中にみられる「新たな社会制度」とは、言うまでもなく民主社会のそれとは真逆の、前近代的な荒々しい方法を指すと考えてよい。端的に言えば「暴力による報復」である。

投稿者はこの文言に、「10日間で3件、村役人一家皆殺し事件が発生。死者16人、重傷者2人」と題された記事を添付した。

添付された記事は、米国を拠点にする著名な中国語ニュースサイト「Creaders.net(万維読者ネット)」13日付のもので、今月に入ってから11日までのわずか10日間ほどで、中国の各地で起きた「村の有力者を狙った、一家みな殺しなどの大量殺人事件」についてまとめた内容となっている。

そのうち3つの事件の概要は、以下の通り。

1、山西省:刑務所を出所した村民が、村長一家を殺害

5月1日、山西省定襄県宏道鎮にある西社村で、村民が村長一家を殺害する事件が発生。地元公安は4日に容疑者を逮捕している。容疑者は同村の続国強(38歳、独身)。村長によって罪を着せられた続国強は、2年の服役を終えて出所した後、何度も村長を訪ね、問い質すなどして説明を求めていたという。しかし怨恨をつのらせた続国強は、事件当日、酒の勢いを借り、ナイフを使って村長一家(3人)を全員殺害した。

2、遼寧省:家畜解体業の男が11人を殺害

5月11日、遼寧省東港市にある椅圈鎮馬家崗村で、豚を解体することを生業としてきた村民・金(64歳)は村長の家に押し入り、村長の妻ら親族を多数殺害した。犯行後、逃走途中で出会った車に乗せてくれと頼んだが、乗車拒否されたため、車の運転手を殺害。このほか金(きん)は、たまたま殺害現場を目撃した人にも襲いかかり、この事件で少なくとも11人を殺害している。金容疑者は警察によって逮捕された。金は、おとなしく真面目な人間だったとされるが、村長と親戚関係にある隣人との間で土地紛争の問題を抱えていた。村長は隣人の肩をもっていたため、恨みを募らせたとされる。事件当日、村長は外出していたため難を逃れている。

3、山東省:村の学校の英語教師が村長一家を殺害

5月10日、山東省済南市にある長清区西李村の村長で、党支部の書記でもある劉継傑氏の一家(3人)が自宅で殺害される事件が起きた。容疑者は村の学校で英語教師をしていた賈(か)という男だった。殺害された劉家の息子は(16歳)は、学校で長期にわたり賈の息子をいじめてきた。賈の息子はいじめによって精神的に異常をきたしており、事件の日も劉の息子にいじめられて意識を失ったという説もある。賈は、息子がいじめを受けている件で、何度も劉継傑に話し合いをもちかけたが、劉は賈を無視し続けてきた。賈は事件後、自殺したとされる。

「法律がないから、自分で決着をつける」

近年、中国では社会的矛盾がかつてないほどに激化しており、特に、官民の間に生じる矛盾は激しさを増す一方である。そのため、一般市民や村民が、政府の役人や党支部の幹部を殺害する事件も頻発している。

そうした犯罪の動機になっているのが「(弱者の権利を守る)法律がないから、自分で決着をつける」である。その実例の一部を、以下に挙げる。

今年1月19日、浙江省温州市平阳県でも、土地紛争をめぐり、村民の楊(42歳)が村幹部とその家族ら計6人を殺害する事件が起きた。

容疑者の楊(よう)は、土地紛争のなかで自宅が奪われたうえに、精神病院に入れられ、妻子にも逃げられた。楊の父親までも、憤りのなかで息を引き取ったといわれている。楊はついに「自分で決着をつけてやる」という結論に至ってしまった。

3月27日、福建省莆田秀嶼(屿)区でも村幹部一家を狙った凶悪事件が発生し、2人が殺害された。逮捕された容疑者は林(50歳)といい、犯行動機は村内での土地紛争をめぐるものとされている。

4月6日、重慶市彭水の村でも、村の幹部ら4人が呉(ご)という村民(54歳)によって殺害される事件があった。呉は事件後、農薬を飲んで自殺を図ったが、その後の生死はわからない。

今年ばかりでなく、過去にさかのぼれば、同様の事件は枚挙に暇がない。

2022年、陝西省商洛市の村に住む王(おう)は、村幹部の家の樹木を通行の妨げだと思い、好意のつもりで切り倒した。ところがその後、高額の弁償金を請求されたため、村幹部一家および村民7人を殺害する事件を起こした。

2021年、吉林省通化の村民である石悦軍は、小さい時から自分をいじめてきた村人を、6日間の間に13人殺害した。

2021年、福建省莆田の村民・欧金中は、長年にわたって隣人からいじめを受けてきた。隣人は、村の有力者の親戚ということもあり、欧金中が自分の家を建てられないよう邪魔をしてきた。怒った欧金中は隣人2人を殺害した後、自殺した。

上に挙げた例は、いずれも「氷山の一角」に過ぎないが、これらに共通するのは、加害者はいずれも村民であり、被害者は村の有力者とその家族、あるいは村の有力者と共謀する村民であることだ。

もちろん殺人は凶悪犯罪であり、いかなる情状酌量の余地もない。ただし「(弱者の権利を守る)法律がないから、自分で決着をつける」という追い詰められた心理を、これらの案件の根底に共通して見ることができる。

関連動画には「今後も、このような一家皆殺し事件は絶えないだろう」といったコメントが多く寄せられている。それらのコメントには「この国(中国)には法律がない。だから自分で決着をつけるしかない」といった過激な言葉が、よく使用されている。

未開廷なのに、なぜ「判決書」が送付された?

今年2月15日に撮影されたという、浙江省の民営企業家・梁涛氏による自撮り動画がSNSに拡散されている。その内容は、まことに奇妙な裁判所の動きについてである。

自身が所有する財産を違法に没収した地元公安局を相手に、梁氏は訴訟を起こした。ところが梁氏によると、まだ裁判が始まっていないのに、予定されていた裁判の前日に裁判所から「判決書が送られてきた」という。梁涛氏は、その判決書を動画の中で提示した。結果はもちろん、梁氏の敗訴だった。

梁氏は動画の画面に、省裁判所の公式サイトの画面をも開いて見せた。そこにはなんと、明日の日付が記された「裁判記録」が載っていたのだ。

「これはどういうことだ。公然たる文書偽造ではないか?」と、梁氏は自撮り動画の中で当局を非難した。

原告である梁涛氏にはまことに気の毒だが、これらは、中国の司法がいかに「骨抜き」であるかを示す好例と言えるかもしれない。

(梁涛氏による自撮り動画)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。