中国では、5月1日の労働節(メーデー)をはさむ数日間が大型連休になる。今年のメーデー休み期間中、コロナ明けの連休ということもあり、国内の主要な観光地は各地からの観光客で賑わった。
特に今年は「淄博(しはく)バーベキュー」が大ブームになった。山東省淄博市の「ご当地グルメ」であるバーベキュー(BBQ)を目当てに、全国各地から来訪する旅行者は、この小さな地方都市を埋め尽くさんばかりの勢いになっている。
「特殊隊員旅行」は体力勝負の強行軍
メーデー連休が最終日を迎えた3日、中国政府の文化旅行省は「連休中の国内旅行者数は延べ2億7400万人に達した」との推計を公表した。
コロナ前の2019年における同時期の水準を突破した今回の旅行業の盛況を「景気回復の兆し」として、官製メディアをはじめとする中国の各メディアが大いに宣伝している。
ところが、旅行者数が増えたわりには、国内の観光収入の増加はわずか0.66%にとどまっている。つまり、一見活況を呈しているように見える中国の観光業ではあるが、実際の状況は見かけほど楽観的ではない可能性もあるということだ。
中国メディアなどの報道によると、今年のメーデー旅行の特徴は「貧乏旅行」だという。なかでも、1日あたり約100元(約2000円未満)しか消費しない「特殊隊員旅行(中国語:特種兵旅遊)」が人気を博している。
「特殊隊員旅行」とは、主に大学生などの若者がとる、体力だのみの「貧乏旅行」のスタイルである。例えば、旅行中は睡眠をあまりとらず、自転車などを使って1日で十数カ所の景勝地を駆け巡る強行軍を指す。かなり過酷な旅行の方法であるが、これが中国のSNSで注目されてから一種のブームにすらなっているという。
中国メディア「第一財経」が中国SNSウェイボー(微博)上で行った小規模な調査の結果、メーデー期間中の消費金額について「回答者の43%が500元(約1万円)以下」と答えている。
これは「偽りの繁栄」に過ぎない
中国問題に詳しい時事評論家の唐靖遠氏は、「淄博BBQがもたらすような繁栄は、偽りの繁栄でしかない」と指摘する。
「外国で贅沢品を買いあさったり、高級レストランで(友人に)大盤ぶるまいする以前の消費スタイルは、今ではほとんどみられなくなった。味がよく、値段も安い10元(約195円)のBBQが多くの人の憧れになっている」
唐氏はそう述べるとともに、このような傾向について「消費における、中国民衆の集団的な自動格下げが起きている」と指摘した。
ネット上では「(今の)中国人は家を買えない。結婚もできない。子供も育てられないけれど、美味しいバーベキューをお腹いっぱい食べるくらいはできる」と自嘲する声が目立つ。
「貧困層は使うお金がない、中間層は今後のことが不安で、消費することに非常に慎重になっている、富裕層は資産の海外移転や外国への移住に忙しくて、消費する暇もない」。これが現代中国のリアルな姿ではないだろうか。
「酔生夢死」を指向する人たち
中国のSNSでは、当局にとって敏感である「29人が死亡した北京の病院火災」の関連話題は厳しく検閲されている。その一方で、外国企業のBMWが中国人差別をしたとする「アイスクリーム事件」や「淄博BBQ」などがトレンドになっている。
中国当局にとってそれらは、中国がかかえる各種の社会矛盾に対して、大衆の関心をそらし、国民の「愛国心」を刺激できるという点で好都合なものだ。とくに「淄博BBQ」のブームは、明らかに当局主導の宣伝による結果である。それはまさに、残酷な中国社会の現実を覆い隠すベールとなっている。
中国の古典『小学』に「酔生夢死(すいせいむし)」という言葉がある。
「酒に酔い、夢を見ているかのように死ぬ」。つまり何もせず、ぼんやりとしたまま、生涯を終えることを指す。
今の中国における、かりそめの繁栄ブームのなかで、すでに「酔生夢死」を指向する人たちは少なくない。しかし、こうした夢は必ず醒める時がくるものだ。
「連休経済がもたらす賑やかさは、一時の繁栄でしかない。連休が終われば、必然的に、さらに長期間にわたる不況が訪れるだろう」。米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)は経済アナリスト・蔡慎坤氏の分析を引用して、そのように伝えた。
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