「最も繁栄した場所にいる、最も孤独な人たち」 メーデー休みの人気スポットで、我が子を探す親たち=中国・淄博

2023/05/06
更新: 2023/05/26

中国山東省に淄博(しはく)市という地方都市がある。日本ではほとんど知られていない地名だが、中国においても、近年までは特に有名であったわけではない。

その淄博が、客が食材を野外で焼いて食べる食事、いわゆるバーベキュー(BBQ)を町おこしの一環として取り上げた。とりわけコロナ規制が解除されてから、官製メディアによる「明るい話題」の政治宣伝によって、淄博はあっという間に誰もが知る「バーベキューの聖地」となった。

その背景には、コロナ禍の打撃によって中国経済が瀕死の状態になり、企業や商店が軒並み倒産したことがある。

当局は、もはや手段を選んではおられず、露店の商売を意味する「地摊(ちたん)経済をやろう」と呼びかけるようになった。淄博を「バーベキューの聖地」にしたことも、その一環である。

「淄博BBQ」の話題が中国SNSでホットリサーチ入りしただけあって、「淄博へ行ってバーベキューを食べよう」とメーデー休みの期間には、全国各地から大勢の観光客がこの町へ殺到した。

市内のバーベキュー露店は、どこも満席で長蛇の列ができている。ところが、この「今年話題の聖地」を目指してやってきたのは、食事目当ての観光客だけではなかった。失踪した我が子を探す親たちもまた、ここに集まったのだ。

親たちの目的は、全国各地から淄博にやってくる観光客に、失踪した我が子の捜索協力を呼びかけようというものだった。親たちは淄博の街中で地面に膝をつき、通行人に写真を撮ってSNSで拡散してもらおうとしているのだ。

バーベキューの煙と食事客の笑い声などで騒々しい街角の一角には、希望の少ないなか「藁にもすがる思い」で我が子を必死に探す人たちの姿があった。

ネット上には4月28日の淄博市の街中で「尋ね人」の看板を手に持ち、泣きながら跪いて情報を求める失踪者家族の動画が拡散されている。

ある母親は、27年前に突然いなくなった男の子を探している。また、ある父親は「28年前に失踪した息子を探しています。私は、こんな白髪頭になってしまいました」と、道行く人に捜索への協力を呼び掛けていた。

中国では、乳幼児をふくむ「子供の失踪」が極めて多いことは以前から知られていた。しかし、この問題の根本的解決に、政府当局が取り組む姿勢を見せた形跡は極めて乏しい。

「最も繫栄した場所にいる、最も孤独な人たち」。米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、そのように表現した。

これを本当の「繁栄」と呼べるかどうかはともかく、このなんとも惨めで悲壮感あふれる光景を中国の官製メディアが報じることはもちろんない。

中国では以前から人身売買があった。特に近年では「臓器収奪」を目的とすると見られる、子供をふくむ若者の誘拐事件が後を絶たない。

しかし政府は、人身売買や臓器移植の闇産業を本気で取り締まろうとはしない。それどころか、徐州で起きた「鉄の鎖の女性」事件に代表されるように、当局はむしろ人身売買業者寄りの行動をとっている。

子供を探す親たちの必死の願いに、心優しい露店の経営者が応じ、観光客にこう呼びかけた。

「みんな聞いてくれ。この情報をSNSにシェアしてくれた人には、ウチの商品一つに、もう一つサービスするよ!」

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。