街の清掃員に賃金が払えない 中国の地方政府、財政難で半年未払いのケースも

2023/03/24
更新: 2023/05/26

中国の街を歩くと、朝早くから、車道の脇や歩道の上を長い柄の竹ぼうきをつかって清掃する作業員を目にすることができる。彼らは決して高い給料ではないが、ただ黙々と、ひたすら町の美化に尽力する尊い職業の人々である。

20日、中国の街の清掃作業員と思われる人々が集まっている様子を捉えた動画がツイッターに流出した。

「最も薄給の労働者」にも賃金が回らない

動画の説明文には「3月20日、黒竜江省七台河市。玉禾田环境事业发展集团公司に所属する清掃作業員400人が、給与の支払いを求めている。搾取される彼ら。清掃員は最も給料の安い労働者だ」などと書かれている。

その動画によると、未払いになっている清掃員の月給は1620元(約3万円)だという。その月給が「何カ月ぶん未払い」であるかは、動画からは分からない。彼らは、フルタイム勤務であれば朝5時から夕方4時まで働く。

皮肉なことに、この日(3月20日)に中国の官製メディア「人民網」などは、「中国人の幸福感は世界最高」と自画自賛する記事を掲載している。

同記事は、世界的に有名な市場調査会社イプソスが発表した「世界の幸福度指数に関する調査報告書」を引用したもの。調査対象となった32カ国の中で「幸福度が最も高かったのは中国で、91%だった」と伝えている。

ネット上には、あまりにも現実離れしたこの調査結果に、異議をとなえる声が殺到している。中国共産党がネット上の個人情報を監視する中国で、しかも一部の裕福なエリート層を対象にしたオンライン調査であるため、その調査結果が「中共の意に沿うもの」になることは避けられないからだ。

それとは対照的に、何カ月も給与をもらえず、生活に困窮するこれら黒竜江省の清掃作業員がいる。彼らは、果たして中共のいう「幸福感」を少しでも感じられたのだろうか。

「清掃員の賃金未払い」は深刻な社会問題

今年の旧正月(1月22日)を迎える前の1月9日、中国ネットサービス大手のテンセント(騰訊控股)が運営する「騰訊網」は、深刻な社会問題になっている「清掃作業員の賃金未払い問題」に関する記事を掲載した。

中国では、道路など街中の清掃業務は、主に各地方自治体が費用を負担している。ところが、地方財源の不足により、地方政府から、清掃を請け負う企業への支払いが滞る事態が近年常態化している、と同記事は指摘する。

その結果、清掃作業員への賃金が未払いになるのみならず、企業自体が資金難であるため、従業員によるストライキや世論の圧力に直面しても解決策がなく、清掃企業も苦境に立たされている。

大小さまざまな規模の清掃企業を取材したという同記事の記者によると、作業員に滞りなく給与の支払いが出来ている企業は、今では「少数派」だという。

そのため、清掃作業員など現場の労働者ばかりでなく、清掃企業の上級管理職でさえ給与が6カ月以上支給されていないケースも少なくないという。

長期に及ぶ賃金未払いが続いたため、有能なマネージャーが転職したり、あるいは清掃業界を離れるケースも多い。その結果、公共事業である清掃プロジェクトの不安定化につながっているというのが現状だそうだ。

以前では、地方政府による支払い遅延や、その他の事情により清掃企業が一時的に賃金が払えないことはあっても、通常は、半月も経たないうちに支給されることが多かったという。

しかし、この2年間の傾向をみると、半年以上たっても支給されない清掃企業が多い。窮地に立たされた清掃企業の経営者は、職員や作業員に当座の給料を支給するため、新たな借金を背負うこともあるという。

他に方法があるのなら「賃金を止めたくはない」

いっぽう、各地で長期間給与を止められて生活が困窮した清掃作業員は、一日も早い支払いを求めるため、相次ぎ北京へ陳情に出向いたり、あるいはストライキなどを通じて抗議を行っている。

彼らはメディアの注目を切望している。なかには中国SNSウィーチャット(微信)のソーシャル機能「モーメンツ(朋友圏)」などを使って、助けを求めたり、注目されることを意図したりする人も少なくない。

清掃作業員による抗議で、世論は、雇用する清掃会社への一方的な批判に傾いているが、「企業の社会的評価にも影響するため、他に解決方法があるのなら、労働者の賃金を遅延したいと思う清掃企業はない」と同記事の記者は指摘する。

一日も早い賃金獲得のためにできることは、労働者によるストライキや上級部門への陳情、メディアによる報道など限られている。世論の注目を集めることができれば、圧力を感じた地方政府は、企業への未払い金清算に応じることもあるという。

中国のwindデータバンク(wind数据库)のデータによると、昨年6月末時点で、(前出の清掃企業である)玉禾田など大手の清掃企業の売掛金回収率は20%程度にとどまるという。

清掃企業のクライアントは、ほとんどが政府部門である。その地方政府が深刻な財政難にあえいでいることに病根があるのは明白だが、未払い金回収までの期間が延びるほど清掃企業の経営は困難となり、給料が支給されない作業員の家計は火の車となるばかりだ。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。