子供の失踪が中国全土で相次いでいる。中国国内は監視カメラや携帯電話情報などビッグデータで個人が監視網から抜け出せないにも関わらず、なぜ子供たちは消えていくのか。
中国当局が公表した「中国における臓器移植の発展に関する報告書(2020年版)」によると、中国は2015年~2020年、臓器提供数、移植数ともに世界第2位だった。病院から、快挙として児童の臓器移植成功のニュースが流れるたび、保護者らの心は不安になるようだ。
失踪した子供たちは、中国共産党と病院、闇組織が絡む「臓器収奪」の闇取引に巻き込まれたのではないかーー。保護者たちを中心に中国の世論は失踪者と臓器ビジネスを関連づける傾向にある。「血液検査に行かないほうがいい。移植希望者と『マッチング』してしまうかもしれないから」こんな呼びかけもあるほどだ。
最近、遺体で発見された高校生の胡鑫宇さんのケースも例外ではない。現在、華人圏で高い注目を集める「胡鑫宇事件」について、中国評論家の唐靖遠氏は自身のニュース評論番組「遠見快評」で解説した。次段落から同氏の論説となる。
自殺?それとも他殺? 残る多くの疑問点
中国では「人鉱」といった言葉が定着しつつある。命や財産、臓器などすべてが既得権益層によって搾取されてしまう庶民の例えだ。
江西省上饒市鉛山県の全寮制の私立高校「志遠中学校」に通う高校生1年生の男子生徒、胡鑫宇(15歳)さんが、29日、遺体で発見された。地元公安当局によれば「失踪した学校の裏山の林の中で、首をつった状態で」見つかったという。現場にはボイスレコーダーが残されていた。
これまで胡鑫宇の遺体が発見された現場の映像や写真、遺体の状態などの情報は公式には発表されていない。
事件には多くの疑問点がある。
まず遺体の発見場所だ。学校の塀の向こうにある森で、学校から100メートル、徒歩で5分もあれば行ける距離だった。遺体は森の中の穀倉内にあったとの情報もある。胡さんの家族はメディアに対し、遺体発見場所一帯はこれまで家族や捜査チームが何度も全面的な捜索を行ったにもかかわらず何も発見できなかったと明かしている。
失踪当時の中国はゼロコロナ政策下にあった。監視カメラが張り巡らされた町ではどこへ行くのにも「PCR検査の陰性証明」や各種通行許可コードを求められていた。
すべての中国人は72時間以内に追跡される監視体制の中にある。にもかかわらず、警察の説明するように「学校が退屈だから勝手に学校を出て」、財布も携帯といった所持品も持たず、何日も15歳の高校生が「失踪」を続けられるだろうか。
もう1つの大きな疑問点は、遺体の状態だ。胡さんの遺体はこれまでに行われてきた度重なる大規模かつ専門的な捜索であっても見つからなかった。自殺か他殺なのかは解剖すればわかることだが、当局は解剖結果について一切公表していない。
官製メディアの「異常なほどの情熱」
もう1つの大きな疑惑は、トップ官製メディアの「人民網」の異常な反応だ。胡さんの遺体発見が伝えられると、すぐに「人民網評 胡鑫宇事件は捏造してはならない、少しでも間違えば、大変なことになる」と題する文章を掲載した。
文章は、「ボイスレコーダーは非常に重要だ」と強調したうえで、「『拉致されて病院で臓器を取り出された後川に捨てられた』などの噂は全くのデマである」とあえて強調した。
なぜ、私がこの文章自体が大きな疑問点だと言うのか、おわかりいただけただろうか。
人民網は現時点で警察ですら断言していないのに、あえて「拉致されて病院で臓器を取り出された後、川に捨てられたなどの噂は全くのデマである」といっているのである。
つまりその可能性はあり得るのではないか。人民網はデマの払拭に躍起になり「少しでも間違えば、大変なことになる」と主張している。これは、臓器収奪に言及すれば罰則を与えるぞ、とほのめかしており、脅迫と読み解くことができる。
事件の真相は、今も闇の中だ。2022年は奇妙な女子中学生の失踪事件に始まり、奇妙な男子中学生の失踪事件で幕を閉じた。「首に鎖をつながれた8児の母」事件も、胡鑫宇事件も、真相が明らかにならなければ、中国人たちは「人鉱」にされ続けるだろう。
(翻訳編集・李凌)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。