中国広東省広州市の繁華街の交差点で11日午後5時半ごろ、黒い乗用車が横断歩道を渡る人の列に突っ込み、通行人や自転車などを次々とはねる事件が発生した。現場付近は日系企業のオフィスが入ったビルが立ち並び、日本人が多く住む場所だった。
目撃者によると、車は混雑した道路を往復するなどして700メートル以上にわたって暴走していたという。ネットに投稿された現場動画には、はねられた多くの人々がぐったりと倒れている現場、運転手らしき男が紙幣のようなものをばらまいている様子、その男が逃走を図るも警察に取り押さえられる模様などが映っていた。
市警察当局は、この悲惨な事件を「死者5人、負傷者13人の交通事故」として報じた。警察はドライバーの温氏(22歳、男)をその場で拘束した。動機などを詳しく調べているという。
逮捕現場の動画によると、地面に押さえつけられた男は「我々は仲間だ、Sir(警察官への敬称)、私は以前は善良な人だった、新しく就任した黄坤明は私のおじだ…私は濡れ衣を着せられたんだよ…死ぬわけにはいかない」などと叫んでいた。
思い出される「俺の親父は李剛だ」事件
容疑者が逮捕の際に発した「おじは黄坤明」のセリフから、多くの人は過去の「俺の親父は李剛だ(我爸是李刚)」事件を思い返したかもしれない。
2010年のことだ。河北の公安警察ナンバー2である李剛氏の息子が飲酒運転でひき逃げ事件を起こした。特権階級に甘んじる息子は、このセリフを吐き罪から逃れようとした。その非常識な言動は批判を浴び、中国のインターネットで「流行語」となった。
今回の事件で、容疑者の男がその名を叫んだ黄坤明氏とは、習近平国家主席の側近の1人で、昨年10月に広東省トップに就任した人物だ。
黄氏は福建の出身で、容疑者は広東出身で一見直接的なつながりはないようだが、広州の官界に容疑者と同じ姓を持つ温国輝氏という、かつて広州市長や広東省の副省長などを歴任した引退高官がいる。
容疑者との関係については今のところ不明だが、中国ではさも親しげに権勢のある人に接近するのも常だ。容疑者が親戚関係を通じてどこかで黄氏に会った際、「おじさん」と呼んだ可能性も十分ある。
中国で「社会報復事件」が多発する理由
今回は、腹いせのために無差別殺傷事件を起こすものとは性質が異なるようだ。犯人は大学を卒業して間もない22歳の若者。高級車に乗り家庭の経済状況は悪くないはずだ。なぜこのような行動に出たのか。
中国共産党体制下の学校教育や社会世論による影響も一因にあるだろう。「自分が幸せに生きられないなら、他の人も不幸に陥れてやる」といった極度の利己主義が党の「紅色教育」だ。そのような環境で、人格や心理に欠陥のある人間が大勢作り出された。
中国が2度にわたって国境を開放して世界にウイルスをばら撒くのと同様、今回の広州の社会報復事件の背後にも、同じような思惟方式が体現されている。
中国共産党の最大の悪は、組織自体が猛毒の木であるだけでなく、土壌全体まで毒化していることだ。その結果、その土壌から生えるいかなる生命も毒される。
当局は事件による死者は5人、負傷者13人の「交通事故」として報じているが、映像や現場目撃者の声などを見る限り、死者がたった5人だとは到底信がたい。
さらに広州警察は今回の事件を、最高刑が死刑の「公共の安全に対する犯罪」ではなく、最高刑が7年以上懲役刑の「交通事故」としている。
死者数の過少評価は世論への影響を抑えたい狙いがあるからだろう。容疑者がなぜこのような事件を起こしたのか、そこまで追い込んだ背景要因には一切触れず、個別のケースとして扱われ、真相は闇に葬られるだろう。
現在、事件の関連動画を投稿したアカウントは投稿禁止あるいは削除されている。
当局による検閲は、必ずしも容疑者に強力な背景があるとは限らない。まもなく旧正月を迎えるこの時期に、このような事件が起きては新年を利用して平和で幸せな雰囲気を作り出したい当局のプロパガンダにとっては壊滅的な影響をもたらすからだ。
中国当局にとっては必要なのは、国民が苦難を忘れ、「春節晩会(旧正月恒例の看板番組)」のような党が作り上げた幻想的な幸福のなかに浸ってもらうことだ。
(翻訳編集・李凌)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。