中国外交部(省)の趙立堅報道官が9日までに異動したことがわかった。「戦狼」と呼ばれた趙氏の異動によって好戦的な中国共産党の外交姿勢が融和に転じるのではといった憶測も出ている。いっぽう、中国の政治・経済に詳しい評論家の唐浩氏は「党の闘争精神は変わるものではない」と指摘する。
趙氏の異動先は、国境や海洋問題などを担当する外交部の国境海洋事務局だ。「副局長」という同格ポストだが、発言機会は一層少なくなるとみられる。
趙氏は昨年12月2日以降、会見場に姿を見せていない。香港メディアなどは、新型コロナに感染したと報じていた。趙氏のSNSは頻繁に更新されているが、本人の姿や生の声は投稿されていなかった。
趙氏は中国で人気があったようだ。外交部報道官の主要発言は一日に何度も中国中央テレビなどが放映するが、このうち趙氏の発言時の視聴率が特に高かった。
仏頂面とその強弁ぶりから日本でも認知度があった。早稲田大学教授の有馬哲夫氏も10日、「キャラ立ってて良かった」「あの表情でみんなひいてしまうのがよかった」などと皮肉った。また、「中国はイメージ操作で『好かれる中国』を演出するのは困る」とコメントした。
戦狼外交を象徴する人物、趙氏の「功労」
趙氏が象徴する好戦的な言動の外交官「戦狼」たちによって、中国外交部は「外交関係破壊部」とまで揶揄されるようになった。
趙氏が報道官に就任した2020年は、中共ウイルス(新型コロナ)が武漢から中国全土、そして世界へと拡散した時期だ。ウイルスに関する情報を求める西側諸国に対して、趙氏はウイルス起源をめぐり「米軍散布説」「米研究所説」といった憶測を発信。西側との溝を深めた。
趙氏は定例記者会見の場以外にも、ツイッターなどを駆使してその攻撃的な戦狼発言を繰り返した。
ウイルス起源調査を提案したオーストラリアに対して、兵士がアフガニスタンの子どもを脅しているように見えるフェイク画像を投稿し、豪首相を激怒させた。このほか、日本の福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を批判するため、葛飾北斎の浮世絵『富嶽三十六景』の一つをもとに作成したパロディー画をツイートした。茂木敏充外相(当時)は厳重抗議のうえ削除を求めた。
なぜ異動? 飛び交う憶測
「戦狼」の模範ともいえる人物が、なぜ報道官と比較すればかなり控えめな国境関連部門へ「左遷」されることになったのか、憶測を呼んでいる。
日本経済新聞など複数のメディアは趙氏の異動から中国政府は「米欧との緊張緩和を模索する狙いがあるのではないか」と分析している。
中国の政治・経済に詳しい評論家の唐浩氏は「北京の外交路線変更で趙戦狼を切り捨てて保身に走る」、「趙氏の健康上の理由」、「趙氏の妻のSNSでの問題言動」などが考えられるとした。
趙氏の妻である湯天如氏は昨年12月19日、自身のSNSウェイボー(微博)で、「解熱剤や風邪薬が手に入らずどうしていいかわからない。薬はどこへ行った?」などと投稿し、薬不足の深刻さを高官家族の口から漏らしてしまった。投稿は後に削除された。
また、コロナ陽性と報じられて以降姿を見せない趙氏は、妻の発信も重なり、健康上の問題を抱えているのではないかといった可能性もある。
最近の趙氏の失態といえば、昨年12月初めの記者会見で見せた長い沈黙が挙げられる。
当時、ロイターの記者から「国民の不満や怒りが表明される中、『ゼロコロナ』政策をやめる考えはあるか」の質問に対し、趙氏は手元の資料をめくりながら、30秒近く沈黙した。その後「もう一度質問を」と返答するも、記者の再質問に対して、さらに20秒以上沈黙したうえで「事実と異なる」と捻り出した。質問と全く嚙み合わない回答に、各国記者は耳を疑った。
いっぽう唐氏は、趙氏の左遷で示唆される外交路線の変更は一時的なものだろうとみている。同じく戦狼として名高い秦剛前駐米大使や王毅前外相の昇進を挙げて、「中国共産党指導部は闘争精神を放棄していない」と強調した。
台湾政治大学国際関係研究センターの宋国誠氏も、今後「戦狼外交」が変わるとはみていない。最近、中国からの入国者に対して水際対策を強化した日本と韓国に対して、入国ビザ発給停止措置をとった例を挙げた。
日韓の措置は正当だと宋国誠氏はVOAの取材で指摘する。「中国共産党はWHOの基本規程を守らず、国家が果たすべき防疫責任と義務を果たしていない。にもかかわらず他者を非難し、是非を混乱させた。大国が持つべき風格は全くなく、国際秩序を守る方法も分かっていないようだ」
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。