国境を越える中国の奴隷制度

2022/11/12
更新: 2022/11/11

ソーシャル・メディアで単に「こんにちは」というメッセージを送ってくる謎の人たちがいるだろう?私は決して返事をしない。

おそらく、中国のサイバー犯罪集団に管理された東南アジアの詐欺師たちだろう。「こんにちは」は彼らの戦略の一つだという。被害者に好奇心を持たせ、会話を盛り上げるのだ。カンボジアの報道機関VODの記事はそう伝えている。

カンボジア内務省国務長官ソク・ファル氏によると、同国のサイバー犯罪者の元で働いている外国人の数は10万人に上る。しかし、カンボジア政府は、これらの労働者がしばしば監禁されている詐欺施設を取り締まることをほとんどしていない。

ロサンゼルス・タイムズは最近の報道で次のように述べた。「カンボジア政府は中国の犯罪組織に、自由裁量を与え、何万人もの外国人男女の入国を許している。人権団体や彼ら(労働者)自身の証言によると、彼らは混雑したサイバー詐欺工場で働くために捕らわれている」

中国人、ベトナム人、マレーシア人、台湾人、インドネシア人、ミャンマー人、タイ人などが閉鎖された町ほどの大きさの詐欺師の敷地に監禁されている。警備員は労働者からパスポートを取り上げ、ドアの前に立って監視する。労働者は借金漬けになり、解放には3万ドルの支払いを求められる。

2018年8月4日、カンボジアのシアヌークビルにあるホテル&エンターテイメントコンプレックス「ナガワールド」のカジノ (Paula Bronstein/Getty Images)

監禁施設には、カンボジアの首都プノンペンをはじめとするホテルやカジノグループなどの複合施設もある。ギャンブル、恋愛、ポルノなどの詐欺に強制的に従事させられ、協力しない者には、殴打や電気ショック、人身売買が待ち構えている。さらにひどい境遇に置かれることもある。

労働者らは、写真を掲載したメッセージングアプリを通して、一人当たり数千ドルで売買されている。ある写真には、血まみれで指が欠けている男が写っていた。また、犯罪グループによって地下の強制採血所に送り込まれた男は、何度も血を抜かれ、最終的には静脈を見つけだすために太ももを切り開かれたという。

報道やビデオの流出、人身売買の被害者の解放を求める外交的圧力により、カンボジア当局は9月にようやく摘発を実施した。数千人の奴隷が解放されたが、ほとんどの場合、中国とカンボジア政府は見て見ぬふりをしている。数回の摘発は法の支配を示すためのものにすぎない。詐欺師たちはミャンマーやラオスなど東南アジアのあまり目立たない地域にバスで移動している。

ロサンゼルス・タイムズは、カンボジアに蔓延する汚職と中国との関係に注目し、カンボジア当局と中国の詐欺集団との癒着を指摘した。

VODの報道によると、中国の警察と駐カンボジア中国大使館は奴隷となっていた林(仮名)氏という中国人男性の助けを拒否した。林氏は中国企業やカンボジア政府関係者とつながりのあるギャングが支配するホテルの複合施設に軟禁されていた。

囚われの身である林氏は携帯電話も奪われ、マレーシア、シンガポール、米国、ヨーロッパなどの25歳から40歳の女性を標的にした恋愛詐欺に従事させられていた。それぞれから数万ドルを搾取しようとしていた。

犯罪集団の信頼を得るために詐欺に加担したように見せかけると、報酬として携帯電話を返してもらえたそうだ。その後、工場のトイレから、インターネットで検索した当局関係者やNPOの救助団体に助けを求めた。

犯罪集団は、ホテルグループやテクノロジーセンターを装った大規模な事業所内に労働者を軟禁している。

中国、カンボジア、ベトナムの救助隊は、張(仮名)氏を含む拘束者らの解放を手助けした。VODによると、張氏は最終的に中国人起業家が運営する救助チームと連絡を取り救出された。「11月初旬にカンボジアの憲兵がシアヌークビルの詐欺師の屋敷にやってきて張氏を救い出すまで、毎日チームにメールを送っていた」という。

シアヌークビルは、カンボジアの海岸にある薄暗いカジノの町だ。

2022年9月23日、シアヌークビルのカジノ(Tang Ch hin Sothy/AFP via Getty Images)

中国人とタイ人の奴隷を「逮捕」する別の作戦では、カンボジア警察はその過程、襲撃、尋問を、行動を起こしてより直接的な関与を望んだタイ警察には秘密にしていた。タイ警察はタイ人に対し71件の令状を発行したが、そのうち送還に至ったのは21件のみだった。カンボジア当局は、タイ警察が逮捕しようとした中国人詐欺師を釈放しなかった。

現地報道では、フィリピンのオフショアゲーム運営会社(POGO)と繋がりのある同様の中国人犯罪組織が中国人、マレーシア人、ミャンマー人を奴隷にしていることが明らかになった。彼らは標的になった被害者をオンラインギャンブルに誘い込んでいるという。フィリピンのサイバー奴隷は、カンボジアと同じように売買されている。

中国の犯罪組織は、北京が支援する新疆ウイグル自治区のウイグル人に対する強制労働から、中国の国境を越えた東南アジアにまで現代の奴隷制を拡大している。もし、中国共産党が世界支配の目標に向かって進み続けることを許せば、同様の未来が私たちを待ち受けているだろう。中国犯罪組織の中国近辺への輸出は、北京がその悪質な影響力を拡大する方法の1つである。

(翻訳・武田綾香)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。