[マイアミ(米フロリダ州) 13日 ロイター] – 多くの教職員の離職に悩む米フロリダ州が、教職経験のない退役軍人に採用の目を向けている。教壇に立ちながら、教職の単位を取得できる新たな仕組みを導入して教員不足を補おうというのだ。
教員不足が深刻化する米国では、全米の学区で、ビデオ通話で違う州にいる教員による授業を行ったり、ボーナスを提示して退職した元教員を復帰させようとする試みが見られている。
教育専門家らは、ここ数年にわたって警告していた教員不足が、コロナ禍で悪化したと指摘している。新型コロナウイルス感染症によって死亡もしくは重症に陥らなかった教員らは、リモート授業や、感染しているかもしれない生徒らと接触するという、新たなストレスに直面した。
この危機に対応すべく、フロリダ州のデサンティス知事は6月9日、州の上下両院を全会一致で通過した「退役軍人認定課程」法案に署名して成立させた。条件を満たした退役軍人は、学士号を取得する傍ら5年間教師として働くことを認める免許を与えられる。
全米教育協会の2021年のデータによると、フロリダ州では、約19万5000人の公立学校教職員に対して、1日平均でおよそ250万人の生徒が通学をしている。8月24日時点で、282人の退役軍人が同認定課程に出願したという。
この措置には、熱心な支持と同時に、鋭い批判も寄せられている。教育などの問題を巡って大きく分断されている米国において、こういった反応の違いは、日常茶飯事だ。
<法案に反対する教員ら>
フロリダ教育協会の教職員組合は、州は退役軍人認定課程のようなプログラムを施行するのではなく、教師を侮辱したり、人種やLGBTQ(性的少数者)の問題に保守的観点を持っていない教師を罰する法案を可決することを止めるべきだと主張した。
「知事がこれ(退役軍人の募集)で教員不足問題が解決されると思っているのなら、それは完全に間違っている。知事を筆頭とする人々から毎日悪者扱いをされるような仕事をしたい人なんているはずがない」と同組合代表のアンドリュー・スパー氏は、8月に語った。
デサンティス知事の事務所は、問い合わせを州の教育省に回した。教育省の広報担当アレックス・ランフランコーニ氏は声明で以下のように述べた。
「組合の馬鹿どもは、今回もまた文句ばかり口にして、デマを拡散し、『代表』しているはずの教員らのためになる解決策を何一つ提案していない」
マイアミにあるアーリントン・ハイツ小学校の教員、マーロン・グレッグ氏は、陸軍と空軍にそれぞれ所属していたきょうだいがいると言う。同氏は、「それでも彼らに我が子の教育を任せようとは思わない」と語った。
「資格も準備も足りていない人が教鞭を取って子どもたちの知性を形成しようとするなんて、不公平だ」と同氏は口にした。
陸軍予備役のビンセント・バグズ准将は、退役軍人がすぐに教師として活躍できると自信をもって語った。
「当然だ。大学を卒業して、すぐに生徒らに良い影響を与える教師だっている」と述べた。
<満足度は大幅低下>
ハート・リサーチアソシエイツが米国教員連盟の組合員2379人を対象に、6月17─21日に行った調査では、回答者の79%が仕事環境に「かなり不満」もしくは「不満」だと答えた。一方で「かなり満足」、「満足」と答えたのは20%だった。
パンデミックがまだ初期段階だった2020年6月には、「満足」と答えた組合員は53%おり、「不満」と答えた45%を上回っていた。
不満を抱えている教員らは、仕事量の増加や生徒らの無関心、低い給与、保護者や学校管理者らからのサポート不足を理由として挙げた。
「退職を迎えるずっと前に、多くの人が教職を離れていく。勤続年数を伸ばす必要がある」と、教育学の第一人者として知られるペンシルベニア大学のリチャード・インガーソル教授は話す。
パンデミックによる正確な影響は不明だと、教育省による最新データの公表を待つ専門家らは語る。
だが民間機関のデータから、傾向を読み取ることができる。オンライン授業を行なう教員を派遣するエレベートKー12社は、2020年度から2021年度にかけて、需要が314%増えたという。サービスを提供する学区の数は336に増え、2400人近い教員が約5万7000人もの生徒を受け持っている。
独立系シンクタンクの学習政策研究所の代表、リンダ・ダーリングハモンド氏は、早くて2016年には、研究者らが教員不足を予想していたという。
「生徒の成功を左右する一番の要因は、教員の能力レベルだ」と同氏は語る。「このように教師が減れば、生徒にもかなりの悪影響が出ることになる」
(Maria Alejandra Cardona記者、Daniel Trotta記者)
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