オランダ同様…カナダとアイルランド、農家に対する排出規制を発令

2022/08/06
更新: 2022/08/06

カナダとアイルランドは、農家に対して炭素排出量の削減を強制する政策を展開している。「脱炭素化」を掲げる政策だが、この課題には微々たる成果しか上げられないと見られている。さらに農家は規制による減産を強いられ、事業縮小や廃業に追い込まれている。

カナダの一部の州政府は、連邦政府の炭素排出削減目標の設定を批判している。連邦政府は、達成可能な目標について州と相談することなく、2030年までに合成肥料の使用による排出を30%削減する目標を設定した。

7月22日、サスカチュワン州とアルバータ州の農相は、「連邦政府に対して、この重要なテーマを議論するよう働きかけたが、目標はすでに設定されていた。それを知り失望した」と声明を発表している。

アルバータ州農業大臣のネイト・ホーナー氏は、「プレーリー(訳者註:北米に広がる草原一帯)が不作だった年に次いで、今年は作物が最も高価な年になっている」と声明の中で述べている。

今年はロシア・ウクライナ戦争で世界的な穀物流通量が減ると予想されている。「カナダが生産量を増やし、世界の食料不足を解決してくれるだろと世界は期待している。これを理解していることを、連邦政府は示す必要がある」。

合成肥料使用規制 農家売上が失われる

2021年に業界団体であるファーティライザー・カナダが委託した調査によると、合成肥料の使用を20%削減すれば、作物の収量低下により、2030年までに農家の売上が480億ドル以上失われる可能性があることがわかったということだ。

カナダ政府のデータによると、合成肥料の使用はカナダの炭素排出量の2%未満に当たる。またカナダは、世界の排出量の約1.4パーセントを担っている。

いっぽう、カナダの肥料業界はすでに「4R ニュートリエント・スチュワードシップ」というプログラムを実施しており、これを主要な農業地域で展開すれば、排出量を15~22パーセント削減できるとともに、肥料を効率的に使用することで利益を上げることができる。したがって、政府が主張する30%という数字は、業界が独自に達成しようと努力する以上に削減することになる。それは、カナダ国内の2019年の排出量の約0.1〜0.2%、世界の排出量の約0.002〜0.005%に相当する。

アイルランドも似たような状況にある。農業大臣のチャーリー・マコノローグ氏は、農業部門の炭素排出量削減目標を27%または28%で合意しようとしていると伝えられている。

農業は同国の炭素排出量の3分の1以上を占めている。これは国内市場だけでなく、牛肉や酪農の輸出を支える畜産業が盛んであることを示している。

アイルランド政府の気候変動対策計画では、22~30%の削減を求めている。この上限を狙うと、この計画が「大幅な減産」を引き起こし、「アイルランドの農業部門を荒廃させる」可能性があると、同国の農民協会会長のティム・カリナン氏は述べていた。

アイルランドの農業からの排出量を加算すれば、年間約21メガトンのCO2になる。これを28%削減すれば、世界の排出量は0.05%減少することになる。

カリナン氏は脱炭素について、「他の国々が追随しなければ何の意味もない」と疑問を呈している。

11月のデモで、カリナン氏が「何のためか問い詰めなければならない」と語ったと、アイリッシュ・タイムズ紙は報じた。

また、アイルランドはすでに世界で「最も効率的な」農業経営を行っていると指摘したということだ。

実際のところ、農業を縮小するような規制は、オランダで大規模な抗議行動を引き起こし、スリランカの経済破綻を招いている。

昨年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、各国政府は二酸化炭素(CO2)排出量の最終目標を発表した。多くの気候科学者は、排出量の増加によって嵐や干ばつなどの気象現象がより深刻になると予測しているが、歴史的に見れば、より壊滅的な予測は実現されたことがない。

批評家たちは、「脱炭素化」の課題は、意味のある変化を気候にもたらすことなく、生活水準を低下させてしまうことであると指摘している。ひとつには、世界最大の炭素排出国である中国とインドが、炭素削減のために自国経済に制約を掛けるつもりがないことが挙げられている。

Petr Svab
ニューヨーク担当記者。以前は政治、経済、教育、法執行機関など国内のトピックを担当。