アングル:北朝鮮のペントハウス、エレベーター動かず水道出ず

2022/04/19
更新: 2022/04/19

[ソウル 15日 ロイター] – マンションの最上階に造られる特別仕様の高級住戸「ペントハウス」は、多くの国では人々にとって手の届かぬ憧れの的だ。しかし北朝鮮ではそうでもない。

金正恩朝鮮労働党総書記は首都平壌に、外見は豪華な高層マンションを続々と建設しており、最近80階建ての物件が完成した。

脱北者など北朝鮮の人々によると、こうしたマンションはエレベーターが満足に動かず、電気や水道に不備があり、職人の技量にも懸念があるため、最上階近くに住みたいと思う人は少ないという。

2017年に韓国に亡命したジュン・シウさんは「北朝鮮では富裕層ではなくて貧困層がペントハウスに住んでいる。エレベーターが正常に稼働しないことが多く、水圧が低くて給水できないからだ」と話す。

自分はエレベーターのない13階建ての物件の3階に住んでいたが、40階建ての28階に住んでいた友人はエレベーターが動かず、使ったことがなかったという。

今週竣工した80階建て高層マンションについても、金氏が自慢しているだけだと考えている。「住民のことを思ったというより、北朝鮮の建設技術がどれだけ上がったかを示すのが目的だ」と冷ややかだ。

社会主義国家の北朝鮮は住居が割り当て制で、住宅やマンションの売買は厳密には違法。

しかし専門家によると、実際には物件の売買が普通に行われており、主に金正恩体制下で拡大した民間市場で利益を得た人たちが手を出している。金氏は、建築の質を高め、何万戸ものマンションを新築する方針を打ち出している。

北朝鮮経済は、新型コロナウイルス感染防止のための国境閉鎖や自然災害、核・ミサイル開発への制裁措置で打撃を受けており、米国によると、入手できる資源は限られ、国民の需要を満たすには程遠い状態にある。

一方、北朝鮮の国営メディアは13日、平壌で計画されている5万戸のマンションのうち、80階の高層マンションを含む最初の1万戸が完成したと報じた。

国営朝鮮中央通信は、建設に携わった労働者によって「品質が保証されて」おり、マンションのほか、教育や公衆衛生、福祉サービスに使われる予定の他の建物は、平壌が「人民ファースト」の都市となる上で一層貢献するだろうと伝えた。

国営メディアは14日、金氏が著名なテレビキャスターを含むエリート層のために別の住宅地で起工式を行う様子を報じたが、建物は低層で、どれも2、3階建てだった。

<続く電力不足>

北朝鮮は金正恩政権下で電力事情が大幅に改善し、夜遊びの機会も新たに生まれた。しかし依然として電力不足や、ときにはお粗末なインフラに悩まされている。

多くの人々は停電に備えて個人用のソーラーパネルを導入しており、電気が止まっても家電のような小型の機器は使うことができるが、エレベーターや水道のような設備にまでは電力が回らない。

ソウルの北朝鮮情報サイト「デイリーNK」のイ・サンヨン編集長は情報筋の話として、「一般人向けのマンションはまだ住める状態ではない」と話した。

最近完成した高級住宅には家具や調理器具が揃っているものの、窓は枠だけで、蛇口は据え付けられていても水が出ない状態だった。

高層マンションの普及には電気や水道の供給体制をさらに改善し、建築の品質に対する懸念を克服する必要があるという。

ジュンさんが平壌に住んでいたころ、ほとんどのエレベーターは1日に2回しか動かなかった。通勤時間帯の午前6時から8時と、夕方6時から8時だ。

高層階は水圧が低く、地上から水を運んだり、専用のポンプを設置したりしなければならなかった。

2018年に北朝鮮政府が海外メディアに国内の様子を公開した際、高級な47階建ての羊角島国際ホテルではエレベーターが稼働したが、北朝鮮スタッフが宿泊する数十階のフロアは電気がなかった。

当時、2人の北朝鮮当局者はロイターに対し、金氏が最近着手した「未来科学者通り」建設プロジェクトの1つの高層ビルの上層階は、エレベーターの不備への懸念から買い手が少なかったと認めた。

当局者の1人は「登るのに1時間もかかるリスクを誰も冒したくない」と述べた。

(SungHyuk An記者、Yeni Seo記者、Josh Smith記者)

Reuters