旧ソ連が崩壊してからまもなく30周年が経とうとしている。東欧諸国が共産主義を唾棄し、そのユートピア的理想の欺瞞性にますます多くの人々が気づき始めている。文筆家の三浦小太郎氏は大紀元の取材に対し、共産主義には「宗教的」側面があると指摘する。そして民主主義社会に住む私たちが共産主義の惨劇を忘れず、危機感を保つべきと語る。
―先進国の共産党は民主主義を重んじると主張しているが、実態はどうか。
もし民主主義を大切にするのであれば、それはもう共産主義ではなくなる。共産主義が理想とする、古い社会からの完全な脱却や財産の平等、人間の個人と全体が全く融合した社会とは、暴力を行使しないと実現しないからだ。
共産党は人権を守ると言っているが、人権のうちの一つの重要な権利は私有財産権だ。しかしこれは共産党が最初に否定するものだ。
民主主義は大切と言っているが、民主主義の原則のなかで現実的に存在しているのは、人間社会に格差や立場の違いがあり、もちろん社会的な調整は必要だが、それぞれの個人は平等である。
いっぽう、共産主義の理想は格差がなくなったうえでの平等だ。格差のない世界を創るためには、お金を持っている人たちからお金を奪い取らない限り格差の平等はできない。私有財産を否定しない限り格差の平等はできない。
―共産主義は宗教弾圧をする。これは一種の必然なのか。
共産主義は人間を超越するものを認めていない。人間を超越した価値は、認められないのだ。共産主義の発想としては、人間を超越する存在は、現実社会に存在する矛盾から目を反らせるために支配者が作り上げた幻想だとしている。彼らの論理から言えば、そのようなものに人間が囚われているから、革命が遠ざかるのだ。だから否定の対象となる。
共産主義は、宗教は権力支配を隠ぺいするものと考える。だからマルクスは「宗教はアヘン」だと言った。ここでのアヘンとは、社会の矛盾を人間に忘れさせるものという意味。現実の問題を忘れさせる力があるということだ。
そしてマルクスが作り上げたのが、偽の宗教体系である共産主義体系だった。それは人間が持っている伝統的な宗教を共産主義という宗教に置き換えるものだった。だから共産主義は宗教は否定しないといけない。
―共産主義という新しい宗教を作り上げた、ということか。
共産党の組織自体が宗教団体のようなものだ。自民党やほかの党とは本質的に異なる。
共産党は民主集中制という言葉を使う。では民主集中制とはなにか。
民主主義は本来集中できないはずだ。今年の衆議院選挙でなるほど共産主義者らしいと思ったのは、「多様性の統一」という言葉だ。共産党は野党連合のことをそのように言った。これは民主集中制と同じで、多様性というものはそもそも統一ができない。これはマルクスの弁証法の考え方であり、色々な矛盾したものが全部統一できるという考え方だ。
しかしそのようなことは、神にしかできない。人間社会の矛盾を完璧に統一するのであれば、神しか考えられない。だから共産主義はある種の疑似宗教思想である。共産主義社会のなかですべての矛盾が統一できるという考え方だ。
共産主義は革命を目指すなかで、異なる考え方を持つ「異教徒」を改宗させて「教団」を作る。人間は自然と共産主義の考えるようにはならないので、革命が必要となる。すなわち精神革命である。だから過去の文化を否定しない限り革命にならない。
そして共産主義のもとでは、目的が正しければ、手段がすべて正当化される。そのため、暴力も正当化される。暴力革命やプロパガンダ、ウソをつくことなどが、共産主義にとっての「正義」を実現させるために正当化される。
―革命を起こそうとする共産主義は法治国家体制と矛盾するのでは。
だから共産党はブルジョワ民主主義は民主主義ではないと主張している。もう今は使われなくなったが、ブルジョワ民主主義の対義語はプロレタリアート民主主義ではない。プロレタリアート独裁なのだ。
共産主義によれば、ブルジョワ民主主義のもとでは、自然と労働者に対して平等な国家が生まれることはない。それを強引に作るためにはプロレタリアートが独裁体制を敷かないといけない、という理屈がある。
そして独裁体制は選挙でやるものではない。暴力的な形でしかできない。このように、共産主義は本質的にそのようなものを持っている。
―今日の共産党は暴力革命を否定している。
レーニンの10月革命が人類最大の悲劇だった。民主主義を好む人たちは、自分たちの民主主義を守るためには、暴力に対してどう対抗するかを常に考えないといけない。危機意識がないと、言っていることが正しくても簡単に敗北してしまう。
―日本では共産主義について学校で教えていない。
日本では、共産主義はすでに終わっているものとしてとらえている。共産主義とナチズムの問題が20世紀の2つの大きな悲劇だ。その危険性を忘れてはいけないということを教えなければならない。
(つづく)
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