2021年9月に新たに発表された調査結果によると、中国の「一帯一路」構想への反対意見が高まり、事業債務が増加している対象国が競合諸国のイニシアチブに目を向けて中国政府による事業を締め出す傾向にあることで、この広域経済圏構想が勢力減退の危機に曝されている。
中国共産党中央委員会総書記を兼任する習近平主席が2013年に提唱した一帯一路構想は、中国の資金力と建設能力を活用してインド太平洋、アフリカ、ラテンアメリカ全域に「共通の関心・利益を持つ広範な共同体を構築する」ことを目指すものである。
しかし、米国に所在するウィリアム・アンド・メアリー大学傘下の研究機関エイド・データが発表した調査報告書によると、現在、一帯一路は海外で大きな課題と強い反発に直面している。
同報告書の共著者であるブラッド・パークス(Brad Parks)博士は、「高価格と汚職、また持続的な支払が不可能と思われる債務に対する懸念から、低中所得国(LMIC)では目立った一帯一路事業を棚上げする政策立案者が増えている」と述べている
エイド・データの報告書によると、2013年から2021年にかけてマレーシアでは1兆1,580億円相当(115億8,000万米ドル)、カザフスタンでは1,500億円(15億米ドル)近く、ボリビアでは1,000億円(10億米ドル)超に相当する事業が中止されている。
中国外務省(中華人民共和国外交部)は声明を通して、「すべての債務が支払不可能なわけではない」と述べ、一帯一路構想が発足以来「率直な協議、貢献と利益の共有という原則を一貫して支持してきた」と強調している。
一帯一路構想と密接に関連している中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の何凌霄(He Lingxiao)報道官は、「一帯一路構想の包括的な原則は『堅実性』である」と述べている。 何報道官はまた、「中国が高い国際基準を提唱していることで運用においてこうした原則が具現化される」と話している。
エイド・データは165ヵ国において18年の間に中国が支援した1万3,427件の事業計画を調査しており、これは額にすると合計84兆3,000億円相当(8,430億米ドル)に上る。パークス博士によると、世論の大きな変化により事業対象諸国が中国との緊密な関係を維持することが困難になっている。
同報告書には、カザフスタン、コスタリカ、カメルーンなど中国から距離的に相当離れた国々で中断または中止される中国融資事業の数が増加していると記されており、その要因が事業対象国の「契約後の後悔」である証拠も挙げられている。
現在、中国が課す債務金利は多くの低中所得諸国の国内総生産の10%を上回っていることから信用リスクも高くなっている。 今回の調査により、一帯一路事業の35%で汚職、労働違反、汚染、市民の抗議という問題が発生していることが判明した。
2021年6月に開催されたG7サミット(主要7ヵ国首脳会議)で米国を含む参加7ヵ国の首脳陣は、開発途上国のインフラ構築に財政的支援を提供する「B3W(Build Back Better World/より良い世界再建)」構想を導入することで合意している。
パークス博士は、「B3W構想により、諸国のインフラ財政支援の選択肢が増えるため、これが高価な一帯一路からの離反につながる可能性がある」と説明している。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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