フランス国防省傘下の軍事学校戦略研究所(IRSEM)が9月末に発表した「中国(共産党)の影響力」と題する報告書の一部は、スウェーデン政府に国外追放された中国大使が行った「戦狼(オオカミ)外交」の実態、 スウェーデンと中国の関係に亀裂が深まった背景を紹介した。
スウェーデンは1950年、中国共産党政権と外交関係を結んだ最初の欧米国家だった。
桂従友(ケイ ジュウユウ)中国大使が2017年、同国に赴任後、その挑発的な言動は、スウェーデン国民の反感を買った。ジャーナリスト、政治家、シンクタンク、時には政府機関にも攻撃・威嚇を加えた。スウェーデンのメディアは、桂大使は民主主義と言論の自由への脅威だと評した。
スウェーデンの外交政策シンクタンク「ストックホルム自由世界フォーラム」は2020年以降、同中国大使は脅しの戦術を変えたと指摘した。
大使館のホームページで反対者に辛辣な批判を浴びせるやり方から、本人に脅迫状を送りつけ、自己検閲を強いる手口にしたという。
中国大使館は今年4月、スウェーデンのフリージャーナリスト、ジョゼ・オルソン氏に電子メールを送った。台湾独立派と共謀して偽ニュースを発信して中国政府を貶し、極端な反中論調を発したなどと同氏を非難し、ただちに言動を改めなければ、「その責任を背負うことになる」という内容だった。
このメールが明るみになり、スウェーデン与野党の強い反発を招いた。2大野党の民主党とキリスト教民主党は、桂従友大使の国外追放を要求した。スウェーデン・ラジオは、中国大使館に確認した情報として、桂大使は9月24日に離任したと報じた。
スウェーデンのメディアは、「これほど外交手腕がない外交官はきわめてまれだ」と評した。
桂大使は2017年の就任以来、スウェーデン外務省から40回ほど召喚された。 世論調査ではスウェーデン人の8割は、中国に対して悲観的な見方を持っている。
両国間の亀裂が深まる
スウェーデンは民主主義と自由の価値を守ることをもっとも重んじている国と言える。関連ランキングでは常に上位。「国境なき記者団」の世界報道自由度ランキングでは毎回上位5カ国に選ばれている。
スウェーデンは、中国政府の人権弾圧をよく批判する国である。 中国で迫害を受けたウイグル人、チベット人、法輪功学習者を難民として保護し、2018年9月に中国政府の反対を押しのけ、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の訪問を受け入れた。
近年、中国とスウェーデンの関係は冷え込む一方だ。きっかけは、中国政府によるスウェーデン人に対する迫害事件だ。
一つは、中国系スウェーデン人の桂民海(ケイ ミンハイ)氏が中国政府に拘束された事件。
中国当局は2020年2月、スウェーデン国籍を持つ香港の書店経営者の桂氏に対し、外国で違法に機密情報を提供したとして懲役10年の判決を言い渡した。一方、スウェーデン外務省は判決に抗議し、同氏の釈放を求めている。桂氏をめぐり中国政府とスウェーデン政府の関係は険悪化した。
2019年、言論の自由の擁護を掲げる団体、スウェーデンのペンクラブは、中国で投獄された桂氏の言論の自由への貢献を表彰し、同氏に「トゥホルスキー賞」を授与した。
当時、桂大使はアマンダ・リンド文化民主主義大臣に授賞式に出席する場合、中国は「対抗措置」を取ると圧力をかけたが、リンド大臣は授賞式に出席した。
もう一つは、スウェーデンの人権活動家ピーター・ダーリン氏の逮捕事件。 2016年はじめ、中国の人権派弁護士を長年支援してきたダーリン氏は中国警察当局に23日間拘束され、テレビでの「公開自白」を強制された後、スウェーデンに強制送還された。
昨年以来、スウェーデン政府は中国に強硬な姿勢を見せている。
中国政府の海外プロパガンダ組織といわれる孔子学院8校と孔子学堂をすべて閉鎖し、2020年4月時点で、中国との友好都市関係もほとんど解消した。
(翻訳編集・叶子)
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