テドロスWHO事務局長「研究所漏えい説を排除するのは時期尚早」と発言

2021/08/08
更新: 2021/08/08

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長は、中国科学院武漢ウイルス研究所(WIV)からの漏洩が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの原因である可能性を排除するのは、時期尚早であると表明した。それだけでなく、コロナ変異株により症例件数が急増している一部のインド太平洋諸国が中国製ワクチンを中止する、または他国製ワクチンに切り替える対策を講じていると述べた。

AP通信が報じたところでは、ゲブレイエスス事務局長は2021年7月、湖北省武漢市で最初のヒト感染例が確認された新型コロナウイルス感染症の起源解明を目的として第一次現地調査を実施した調査団がほぼ生データを取得できない状況であったことが実証されたと話している。

同事務局長はまた、ウイルスが中国科学院武漢ウイルス研究所から漏洩したという仮説を排除するのは「時期尚早」であると述べている。2021年3月に世界保健機関が発表した調査報告には、同研究所からウイルスが漏洩した可能性は「極めて低い」と記されていた。

AP通信によると、同事務局長は、「検査技師かつ免疫学者である自分自身が研究所で作業した経験を踏まえ、研究室では事故が発生し得ることを理解している。珍しいことではない」と発言した。

同通信社が伝えたところでは、同事務局長は第一次調査の結論を再確認するにあたり、中国に「特にパンデミック初期に当機関が要請した情報と生データに関して協力性を高め、自由に調査を進められる透明性のある環境を提供すること」を要請し、「パンデミック発生前と発生時の同研究所の状況に関する直接的な情報が必要である。完全な情報が得られれば、研究所からの漏洩説を排除することができる」と述べている。

AP通信が報じたところでは、中国以外の世界諸国の幹部や保健当局からはウイルス起源が同研究所であるという仮説だけでなく、人工的にウイルスが生成された可能性に対する疑惑の声が上がっている。

オンライン雑誌のザ・ディプロマット(The Diplomat)が伝えたところでは、ゲブレイエスス事務局長が世界保健機関による前回調査の報告書に反する意見を発したのは、これまで中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンに頼っていたマレーシア保健省がいずれ同ワクチンの接種を中止するという方針を表明した直後であった。

同誌によると、マレーシア保健省がこの決断に達したのは、伝染性の高いデルタ株に対して科興控股生物技術製ワクチンの有効性が低いことを示唆する裏付けがあるためである。マレーシアは人口の70%に投与するのに十分な4,500万回分のファイザー(Pfizer)/ビオンテック(BioNTech)製ワクチンを確保したと、同誌は報じている。

ロイター通信が報じたところでは、マレーシアのアドハム・ババ(Adham Baba)保健相は、「1,600万回分[の科興控股生物技術製ワクチン]の約半分をすでに国民に投与しており、残りを2回目の接種に使用する」とし、「ワクチン未接種者にはファイザー/ビオンテック製ワクチンを投与する」と話している。

複数の報道によると、インドネシアでは中国製ワクチンの投与を受けた医療従事者が新型コロナウイルス感染症検査で陽性となり、一部が死亡する事例が発生したことで、科興控股生物技術製ワクチンの接種者に追加免疫接種(ブースター)を行うことを予定している。

ザ・ディプロマットが伝えたところでは、同じく東南アジアのタイでも医療従事者の間で同様の症例が急増したことで、科興控股生物技術製ワクチンの接種者にアストラゼネカ(AstraZeneca)製ワクチンによる追加接種を実施している。

ザ・ディプロマットの記事には、「潜在的な科興控股生物技術製ワクチンの低有効性により東南アジア諸国に問題が発生しており、こうした諸国はmRNA(伝令RNAとして知られる分子)技術で開発された有効性の高いワクチンを確保することに苦心して取り組んでいる」および「これにより、戦略的利益を目的としてワクチン外交を続けてきた中国の企みが浮き彫りになり、中国に対する信頼性がすでに低下傾向にある国々で中国の評判が地に落ちる可能性がある」と記されている。

複数の報道によると、中国保健当局自体が自国製ワクチンを投与した中国国民に対する外国製ワクチンの追加接種の必要性を検討している。

戦略国際問題研究所(CSIS)グローバルヘルスポリシーセンター(GHPC)の上級副社長兼局長を務めるスティーブン・モリソン(Stephen Morrison)博士はボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対して、「これで中国自体が自国製ワクチンを信頼していないことが暗に示されることになった」と述べている。

(Indo-Pacific Defence Forum)