日本代表選手団の快挙が相次ぐ東京オリンピック。7月27日までに、世界の金メダル獲得数でトップに躍り出た。この世界的なスポーツの祭典のかたわらで、台湾に関する呼称をめぐり、日本や台湾、中国本土で議論が起きている。
発端は、日本放送協会(NHK)が開幕式の23日、国際オリンピック委員会(IOC)の呼び方であるチャイニーズ・タイペイを無視して、「台湾」と紹介したことだ。多くの日本人にとって、このチャイニーズタイペイの呼び方は馴染みがない。前回の1964年東京五輪では、台湾は中華民国の旗を持って出場していた。
作家・河崎真澄氏は、「野球やサッカーなど、日本で放送されているスポーツの国際大会では、台湾チームと呼ぶ。今回の東京五輪でも、その表現は自然だ。むしろ、日本人でチャイニーズ・タイペイが正式名称だと考える人はいないだろう」と、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に述べた。
チャイニーズ・タイペイとの呼称は、1979年に名古屋で開かれたIOC総会で決まった。「一つの中国」という独自の中国共産党理論を押し付けにより、台湾が国際的なスポーツの舞台から出場権を失なわれる危機にあるなか、中華民国の国旗や国歌を使わないといった条件で妥協を強いられた。「名古屋決議」と呼ばれる。
台湾は抗議のために1976年、1980年の五輪参加を見送っているが、のちになって選手出場のために条件をしぶしぶのんだ。
以後、IOCは中国共産党が提示したルールを維持しており、2020年東京大会でも、SNSの発信でさえ台湾の旗の絵文字を使用していない。
26 July – #TableTennis – Mixed Doubles
Japan
China
Chinese Taipei#UnitedByEmotion | #StrongerTogether | #Olympics— #Tokyo2020 (@Tokyo2020) July 26, 2021
タスマニア大学で中国研究に携わるマーク・ハリソン(Mark Harrison)博士は豪ABCの取材に対して、「チャイニーズ・タイペイ」という呼称は、中国の機嫌を損ねないものであり、共産党政権が台湾を孤立させる施策の一環だと述べた。
さらに、「北京は台湾を国際社会から排除しようとしている」、「国名や旗、公的な外交舞台において、台湾が国であることを示唆するような動きは、北京が全部強く反対する」と述べた。
静岡大学の人類歴史学教授・楊海英氏は「中華台北という風に呼ぶのは理不尽で政治的なやり方」だとして、台湾に向けられた抑制を非難した。
蔡英文総統は、東京五輪の開幕から選手団を応援する積極的なSNS発信を行なっているが、#TeamTaiwan!のハッシュタグをつけて、IOCの公式呼称であるチャイニーズ・タイペイの表記は強調していない。
Huge congratulations to our Olympic flag-bearer Kuo Hsing-chun 郭婞淳, who just broke 3 Olympic records to win #weightlifting #gold, #TeamTaiwan's first at #Tokyo2020! https://t.co/4JEMI50kQ4
— 蔡英文 Tsai Ing-wen (@iingwen) July 27, 2021
日本に長く住む在日華人も、この国際的な大会における台湾の呼称を支持する人が多いようだ。東京に50年近く住んでいる台湾人の呉宗源さんはVOAの取材に対して、台湾代表団がずっとチャイニーズ・タイペイという呼び方で五輪に出場することに、不満を抱いていたという。呉さんは、最近になって、日本における台湾と国際事情について関心が高まり、チャイニーズタイペイの呼び方に疑問を投げかける声が増加していると感じている。
日本に20年以上定住している小青さんは、日本の報道機関が台湾と呼ぶことには、多くの在日華人も同意していると語った。日本に長く暮らすことで、共産党のプロパガンダの影響を受けない「普通の世界」はどのようなものかを知り、考え方は変わったという。「私たちは、台湾が民主の希望だと思っている。キャスターが『台湾』と言うことに賛成する」と述べた。
「台湾が今の香港のようになってしまったら、まったく希望が持てない。 台湾が第二の香港になってしまうことを心配している。だから台湾を応援している」と、小青さんは付け加えた。
さらに、台湾に定住して1年以上になる中国人青年の伊伊さんもまた、国際的なスポーツの舞台で「台湾」と日本が呼んだことに歓喜したという。いっぽう、「中国共産党の幹部が怒りのあまり飛び跳ねてガラスが地面に砕け散る大きな音が聞こえたようだった」とその敏感な話題に触れた中国大陸側の反応を推察した。
伊伊さんの予想通り、一部の中国ネットユーザーは不満を表した。「日本は国際ルールに従わず中国を侮辱した」、「日本の行動に悪意がある」、「日本がどんな小細工したところで、中国代表団に焦点があたることに変わりはない」。
「台湾です」の紹介で、中国ではライブ放送停止
河崎真澄氏は、東京五輪において「台湾」と呼んだことは、10年前の東日本大震災による台湾の救援活動や、最近のマスク支援などへの感謝を、日本社会に呼び起こさせるための良い方法だと述べた。
「中国からの圧力で、『中華民国』の旗が会場に入ることができないことを、日本が目撃する機会となった。 台湾がいかに中国にいじめられているか、台湾がいかに大変な状況にあるかを、より深く理解することができる。ここ数日の世論調査では、日本人の9割が『台湾は日本の家族、兄弟』と考えていることがわかった」と述べ、圧力により呼称や旗の制限を強いられる台湾を見て、さらなる支援が必要だと日本は考えるだろうと述べた。
いっぽう、この台湾問題に敏感な中国共産党は過剰反応を示した。開会式の模様を、オンライン生中継していた「騰訊視頻(テンセントビデオ)」は、NHKアナウンサーが台湾と代表団を紹介した後、放送を停止して、著名人のトークショーに突然、切り替えた。
このため、多くの視聴者は中国代表団の入場シーンを見ることができなかった。「1時間以上も待っていたのに、台湾の入場は見たが、中国選手団の入場シーンは放送されなかった。家族は泣いて怒っていた」「騰訊に罰を与えたい」と次々と不満を口にした。
微博アカウントの釈明によれば、放送著作権保有者から、放送の停止と生中継の削除を求める要請を受けたとしている。「私たちのサービスにより不愉快な思いをさせてしまったことに、心よりお詫び申し上げます」と騰訊側は謝罪したが、その不都合さの説明は避けた。
(翻訳編集・佐渡道世)
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