経済活動が国家安全保障に与える影響がますます増大するなか、日本政府は外国投資家の日本企業に対する投資に目を光らせている。4月30日、自民党の長尾敬衆議院議員は内閣委員会質疑のなかで、中国のIT大手テンセント(騰訊)の子会社が日本の電子商取引大手・楽天に出資することについて問題提起をした。これに対し、国家安全保障局(NSS)経済班は、外国投資家による対内直接投資の審査は「国家安全保障の重要な課題」であるとし、国内のみならず国外行政機関とも情報連携を強化していくことを図っていくと回答した。
テンセント子会社からの投資について、楽天は、経営やガバナンスに関わらない「純投資」であると説明している。しかし、テンセント側の発表では、楽天との関係は「資本提携」とされている。そしてテンセントは、「デジタルエンターテイメントやEコマースなどのさまざまな活動で、戦略的に協力し、ともにインターネットのシステムを構築していきたい」との展望を示し、事業協力の可能性に言及している。
いっぽう、楽天自身も、テンセントとの事業協力を通じた中国市場の進出について語っている。三木谷社長は3月12日、ブルームバーグの英語放送に出演した際、「中国では日本製品やコンテンツは人気だ。しかし、中国への出品は日本企業にとって難しかった」とし、テンセントとの提携で「私たち(楽天)の出品者やコンテンツパートナーが、中国に出店する良いチャンネルになると考える」と述べている。
楽天は同月、日本郵政と約1500億円の資本提携を締結し、物流やモバイル事業などの協業を発表した。テンセント子会社や米ウォルマートからも出資を受け、楽天の調達額は合計で約2400億円となった。そのうちテンセントの出資額は660億円、楽天株に占める保有割合は3.65%となり、第6位の株主になった
2020年8月、テンセントが提供するサービスを使用すれば個人情報が中国当局に渡りかねないとして、同社は米財務省の取引制限企業リスト入りが報じられた。2021年1月には、米国防総省が同社とアリババを中国軍関連企業リストへの追加を計画した。結局、米金融ビジネス上の都合で各リスト入りはしなかったものの、長尾議員は、テンセントに安全保障上の懸念が指摘されていることに変わりはないと述べた。
米トランプ前政権は、信頼の置ける30以上の国と地域の国内外通信事業者からなる「クリーンネットワーク構想」を発表している。楽天も日本の通信サービス事業者として名が挙がった。しかし、今回のテンセントからの出資受け入れにより、日米当局は共同して楽天に対する監視を強める方針だと報じられた。4月30日、三木谷社長は都内で開催された同社イベント後の記者会見で関連の質問を受け、「全く意味がわからない」「テンセントは米テスラにも出資するベンチャーキャピタル(投資持株会社)だ」と述べ、不快感をあらわにした。
日本は、経済政策と外交・安全保障が密接に関わる事態が増加していることを受けて、2020年4月、外交・安全保障政策の司令塔を担う国家安全保障会議(NSC)の事務局である国家安全保障局(NSS)に「経済班」を設置した。2019年には外為法を改正した。米国やEUなど主要国が安全保障の観点から、外国投資関連制度の改正と対応強化の動きが進んだため、日本も歩調を合わせた。念頭には中国からの外国資本買収や影響力行使があるとみられる。
(佐渡道世)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。