中国政府系の半導体メーカーが、台湾の大手半導体メーカーTSMCから、年間100人以上もの管理職や高度技術者などを引き抜いている。中国半導体産業の海外部品サプライヤーへの依存度を下げる目的とみられる。日経アジアンレビューが8月12日に報じた。
TSMCは半導体製造ファウンドリの世界的な大手。国際会計事務所PWC(プライスウォーターハウスクーパース)の評価によると、TSMCの市場価値は世界トップ100企業のうち37位。顧客には、アップル、クアルコム、グーグルなど世界のトップテクノロジー企業がある。次世代通信規格「5G」対応スマートフォンの登場や、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワーク増に伴うサーバー需要の拡大で、TSMCの2020年4~6月期の純利益が過去最高の1208億台湾ドル(約4400億円)に達した。
報道によれば、中国でそれぞれ2017年と2019年に設立された半導体メーカーである泉芯集成電路制造(済南)と、武漢弘芯半導体制造は、業界でほとんど名前が知られていない企業だが、中国政府からの支援を受け、両社にTSMCの管理職や高度技術者が移っている。両社は、「中国では最先端だが、TSMCに比べると2~3世代は遅れている」という。
日経アジアンレビューの取材に応じた関係者によると、TSMCは人材の流出と知的財産が中国大陸に渡ることを強く警戒している。TSMCは関係企業に対して、中国大陸向けにカスタマイズされた部品は一切販売しない」といった誓約書のサインも求めているほどだという。
米中が技術覇権を争うなか、TSMCは渦中の企業になっている。米国商務省産業安全保障局(BIS)は5月15日、ファーウェイとその関連企業114社への輸出管理を強化すると発表した。これにより、TSMCはファーウェイに半導体部品を販売できなくなった。米トランプ政権はTSMCにアプローチして、120億ドルを投じて米国内で次世代製造工場を建設する。
日本政府も数千億円規模の資金を確保し、国内の半導体産業の再起のために海外メーカーの誘致を検討していると、7月中旬報じられた。この誘致メーカーにはTSMCが候補として名前があがり、同社もこの日本工場設立への可能性を示唆している。
台湾メディアのビジネスウィークは、2019年12月時点で3000人以上の台湾の半導体業界関係者が中国の企業に就職したと報じた。台湾のシンクタンクである台湾経済研究院も同様の人数が中国の企業に移ったことを確認しているという。台湾の専門家の一部には、台湾の人材が大陸へ流れていく動きが加速しているとみている。
(翻訳編集・佐渡道世)