オーストラリアの専門家は、近隣の同盟国との訓練や演習といった軍事交流を通じて政府の政策をサポートする「国防外交こそが今後の道」であるとした。同国では北部でシンガポールからの投資を受け付け、演習場を改修する。国際利用の拡大も見込めるという。
オーストラリア国防省は今年3月、オーストラリア・シンガポール軍事訓練イニシアチブ(Australia-Singapore Military Training Initiative,ASMTI)を両政府で立ち上げることを発表した。これにより、最大1万4000人のシンガポール軍隊員がオーストラリアで毎年18週間、演習を実施することが可能になった。
広域における訓練機会を求めるシンガポール軍(SAF)と、オーストラリア軍との演習強化は、オーストラリアにおける民間部門の投資を促している。
豪州のセントラル・クイーンズランドとノース・クイーンズランドの2地域の演習場の改修には、シンガポールが1500億円相当(15億米ドル)を投資する。オーストラリアでは建設部門で数百に及ぶ雇用が創出されると予測される。これらの演習場の施設建設契約により、オーストラリア現地企業に550億円相当(5億5000万米ドル)超の収益がもたらされると推定される。
オーストラリア国防省は5月の声明で、シンガポールのオーストラリア・シンガポール軍事訓練イニシアチブへの投資を歓迎すると表明した。
リンダ・レイノルズ(Linda Reynolds)豪国防相は、「シンガポールは地域安定の取り組みに対する志を同じくする防衛提携国であり、過去ほぼ30年にわたってオーストラリアで軍事訓練を行っている」とし、「新型コロナウイルス感染症パンデミックからの経済回復に取り組む中、同イニシアチブは成長の強化と雇用創出の鍵となる」と話している。
2020年3月、シンガポールの国防相を務めるウン・エンヘン(Ng Eng Hen)博士は同国国会で、オーストラリアで新設される施設にはさまざまな共同兵器が備えられるとした。また、これによりシンガポールの陸軍と空軍が戦車、歩兵戦闘車(IFV)、無人偵察機(ドローン)、大砲、また他の複合武器を用いて訓練を実施できるようになる。エンヘン国防相の発表によると、演習場は7000平方キロと推定され、これはシンガポールの国土面積の約10倍に相当する。
セントラル・クイーンズランドに位置するショールウォーターベイ演習場(SWBTA)では、1990年以来、毎年シンガポール軍が実動演習「ワラビー演習(Exercise Wallaby)」を実施している。オーストラリア国防軍も両演習場を使用することになる。
エンヘン国防相は、新設施設について「はるかに大きな規模で複雑な訓練を実施できるようになる」とした。また、ショールウォーターベイは2024年までに、ノース・クイーンズランドのグリーンベールの建設は2028年までに完了する予定だという。
スコット・モリスン豪政権は6日に新国防戦略を発表した。向こう10年間で国防分野に2700億豪ドル(約20兆円)を投じる。当初計画の40%増となり、長距離攻撃能力を高めるほか、サイバー攻撃への対応強化を目指す。
国防外交
豪有力シンクタンクであるオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)デービッド・ブルケ(David Burke)研究員は、同所発行の情報誌「ストラテジスト(Strategist)」の寄稿文で、訓練や演習といった軍事交流を通じて政府の政策をサポートする「国防外交こそが今後の道」であるとした。
同氏は、「国が軍事力を鍛えようとするとき、国際的な訓練は隣国を巻き込んで、高い経験値を積むことができる」とし、中共ウイルス(新型コロナウイルス)の世界的な流行が発生する以前には、シドニーの西艦隊基地で、日本、マレーシア、韓国、シンガポール、米国の軍事要員が、潜水艦捜索および救助訓練を行ったことについて触れた。潜水艇師団が実戦で捜索救助を行うことが稀であることを考えれば、訓練は、このインド太平洋地域の隣国との絆を深める狙いが強いとみている。
ASPIのジョン・コイン(John Coyne)研究員は、モリスン政権の新国防戦略に応じて、多国間演習が増加するかどうかはまだわからないが、国防外交というイニシアチブを実践していくために、同盟国との積極的で定期的な連携を期待するとしている。コイン氏は、オーストラリア・シンガポール軍事訓練イニシアチブのような共同演習や単独訓練を通じて、トップエンド施設の国際的な利用が拡大していく機会は十分にあると述べた。こうしたシミュレーション施設は、すでにクイーンランド北部に3カ所存在するという。
(翻訳編集・佐渡道世)
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