米国国防総省は最新報告書のなかで、中国通信メーカーが世界で展開する5Gインフラの拡大は、中国共産党の広大な戦略のなかのひとつとして見なされるべきだと指摘した。
同省の防衛イノベーション委員会は4月、報告書「5Gエコシステム:DoDのリスクと機会」を発表。このなかで、中国は景気鈍化と米中貿易戦の継続から、共産党政権は打開策を模索している。このため、5G網拡大に、より積極的になっているとした。
5Gインフラには、周波数の新しい帯域が使われ、大別すると6GHz未満の「sub-6」と、ミリ波帯の2種類がある。ファーウェイは2015年、将来の5G網は「sub-6」が主力になると発表している。同社はsub-6サービスを中国国内で2020年から開始する計画がある。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は1月26日、米中対立が深まり新時代の軍事設備の競争は、5G網支配権をめぐるものと報じた。複数の米政府関係者は、5G網覇権は「ゼロサムゲーム」と確信しているという。
このたびの米国国防総省の報告では、安価な中国企業の5Gインフラ設備について、発展途上国や中国共産党政権主導の広域経済圏構想「一帯一路」の参加国が、中国資本からの優先融資を理由に、中国の5Gサービスを避けることは難しくなるとした。
報告で、中国共産党の5G先制戦略が米国防総省に深刻な潜在的リスクをもたらすとしている。「将来、米国が海外で事業を展開する場合、大多数のネットワークシステムは、5Gインフラに依存するようになる。中国の5Gインフラが最前線にあれば、将来の5Gシステムにはすべて中国チームによる仕組みが埋め込まれていることになる」
さらに、IoT(建物や車などネット接続が広がる社会)が進むなか、中国企業による5Gに接続する「モノ」が増えることで、米国防総省のネットワークを狙う敵対的攻撃のリスク増加が懸念される。
「もし中国が5G世界覇権を握り、初期段階から統合された5Gインフラが提供されたら、米国の5Gエコシステムの運用にも安全保障上のリスクがつきまとう」と報告書は書いている。
中国国内では海外、民間、国営などすべての企業が、共産党当局に情報協力を義務付けられていることにも触れ、「バックドア、セキュリティホールを組み込むよう政策的に要求されていれば、安全性の脆弱さは世界に飛び火する」と指摘した。
仏国営放送ラジオ・フランス・アンテナショナル(RFI)によると、米国の明確な中国通信メーカーに対する厳格な禁止とは異なり、欧州各国は態度を保留している。5Gは従来の通信規格と異なり、インフラの設置に伴い運用、管理、操作など一連のサービスが付随する。このため、どのメーカーの5Gインフラを採用するかが、全体のシステムに関わりを持つ。たとえば、通信事業者がファーウェイの基地局を選択すれば、ファーウェイ以外の関連部品にサービスを限定する可能性がある。
このため、すでにファーウェイ社による4Gインフラ普及率が高い欧州では、公共を含む通信システム全てを同社ではないメーカーに代替することは、大きな財政負担を抱えることになる。
国防省の報告書は、5アイズと北大西洋条約機構(NATO)加盟国などパートナー国家は、米国と共に、セキュリティホールなどの安全保障上の脆弱性があった通信機器には、75%程度の高い関税を設けて、自国の安全を確保するよう勧めている。
(編集・佐渡道世)