米ニューヨーク連邦裁判所は5月11日、国連総会議長らへの賄賂で逮捕した中国マカオの富豪・呉立勝(英名Ng Lap Seng、69)に対して4年の禁固、罰金100万米ドル、個人財産150万米ドル没収の判決を下した。呉立勝は90年代ビル・クリントン政権時代に、海外から運んだ110万米ドルを民主党に献金したとみられている人物。
呉立勝は、国連総会議長ほか2人の国連外交官に170万米ドルの賄賂を送り、大型会議施設「国連マカオ会議センター」建設を、自身が会長兼CEOを務める不動産デベロッパー大手「新建業集団」に請け負わせるための便宜を図った疑いがもたれていた。この建物は建設に至っていない。
2015年10月、米司法当局は、受託収賄で中米カリブ海の島国アンティグア・バーブーダ出身のジョン・アッシュ元国連総会議長(2016年6月に急死)、贈賄側として呉立勝とその秘書、仲介役のドミニカ共和国の国連次席大使ら合わせて6人を追訴した。
「新建業集団」はマカオの商業ビルやマンション開発、広東省・珠海市をつなぐ蓮花大橋建設プロジェクトも担っていた。
裁判での記録によると、呉立勝の純資産は18億ドル。年間収入は3億ドル、10億ドル相当の中国の不動産、3000万ドルのプライベートジェット機、ほか宝飾類など高級品を多数所持している。
呉立勝は以前、中国共産党の統一戦線組織・全国政治協商会議マカオ地区委員も務めていた。
このたびの国連腐敗疑惑の前の2015年9月、2年にわたりプライベートジェットで450万米ドル(約5億4000万円)もの現金をマカオから米国へ不正に運んだ疑いで、呉立勝は米ニューヨークでFBIに逮捕された。
2017年7月の裁判では、陪審団は呉立勝らに贈賄、資金洗浄、海外反腐敗法など6つの罪が成立するとした。
クリントン大統領選の外国献金「チャイナゲート」 疑惑のマカオ富豪
呉立勝は「国連マカオ会議センター」建築プロジェクトについて、「発展途上国への支援慈善事業」と主張していた。しかし、検察側はこのセンターには豪華マンション、ホテル、ショッピングモール、ヘリポート、高級飲食店を備えており、国連開発計画の「貧困を解消し不平等を減らす」との使命にあたらないと指摘。私利私欲のための事業だと批判した。
この度の裁判では、「国連の最高層に賄賂を持ち掛け、国際会議センターの建設を自身の貪欲を満たす道具にした」と検察は述べた。
呉立勝担当の代表弁護士は、被告は倫理を守っていると主張し、その半生を語った。広東省の貧しい農村に生まれ、学校にもろくに通えない幼年期を送ったが、1978年にマカオに移住して小売店をはじめ、辛苦を舐め不動産業で大成した。この背景から慈善事業と学業支援には寄付で貢献してきたとした。
弁護団は呉立勝の「苦労人」説を語るが、検察は「荒唐無稽な」側面を指摘する。1996年、ビル・クリントン大統領再選のため、中国共産党とつながる人物らから献金を受けたとされる「チャイナゲート事件」でも、呉立勝の名前は上がっている。
米国選挙の中国介入問題として、司法省は1997年に特別捜査を行った。公開資料によると、民主党全国委員会(DNC)委員だった中華系米国人のレストランオーナー、チャーリー・トリーと呉立勝は連携して、米国民主党に貢献する基金となっていた疑惑がもたれている。
台湾生まれの米国人チャーリー・トリーはクリントン政権時代、全国の民主党組織を取りまとめるDNC委員を務めていた。資料によると、呉立勝はマカオと香港の銀行口座から110万ドルを米国へ持ち運び、トリーに渡していたという。クリントン側は受け取りを拒んだと主張した。
米国人でDNC委員のトリーには選挙資金法違反で有罪判決が下ったが、マカオのポルトガル籍である呉立勝は、捜査に一切協力せず、不起訴となった。
米ABCニュースによると、呉立勝はビル・クリントン政権期間の1994年から1996年までに10回近く、ホワイトハウスの民主党関連イベントに出席していた。
翻って、2018年5月の裁判で検察側は、呉立勝から国連大使に対する寄付には、中国共産党政協会議が出資したものもあるとして、中国からの政治介入も指摘した。
検察長代理ジョン・クローナン氏は判決で、呉立勝は国連を腐敗へと蝕んだと語った。「2人の国連大使に賄賂を送り組織をコントロールしようとした。腐敗を働きかけるものには重い代償を受ける」
呉立勝は7月10日にペンシルベニア州の刑務所へ移送される。
(編集・佐渡道世)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。