亡命した北朝鮮の朝鮮労働党元党幹部、李正浩(リ・ジョンホ)氏(59)は、最近、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに応じ、北朝鮮の相次ぐ核・ミサイル開発について、その最終ターゲットが米国ではなく、韓国であると主張した。
李氏が北朝鮮で所属していたのは、金正恩・朝鮮労働党委員長とその一族の統治資金と外貨稼ぎを管理する核心機関「39号室」。李氏はインタビューを通して、金正恩政権の粛清の残忍さ、また指導部の資金状況など秘密を暴露した。
数百人が銃殺、数千人が粛清
李氏は脱北する2014年まで、北朝鮮・朝鮮労働党「39号室」のトップとして、同組織傘下の大興総局船舶貿易会社の社長と、貿易管理局の局長などの要職を務めた。
2002年、北朝鮮で経済、文化、建設部門で功労者に与えられる称号「努力英雄」を授かるほど当局の信頼を得ていた李氏だったが、2014年に金正恩政権下の粛清を見て、亡命を決心したという。
李氏は、金正恩政権の残忍さについて語った。「私が亡命した2014年は、とても恐しい時期だった。 張成沢氏(元国防副委員長で金正恩氏の叔父)は処刑され、高位級幹部たちにも大規模な処刑と粛清が行われ、側近たちと家族を含む数百人も銃殺、数千人が粛清された。知り合いだった多くの幹部たちが無惨に銃殺された。私たち家族はこれ以上、そのような悲劇を見たくなかった」。
李氏は2014年10月に韓国に亡命し、2016年3月に米国に渡った。現在は妻と2人の子供とともにワシントンDCに住んでいる。
核の脅威 韓国に向けられたもの
李氏は、VOAのインタビュアーから、北朝鮮の核兵器は対米脅威ではなく、韓国に向けられているとの可能性について問われると、李氏は「事実」と答えた。
「もし北朝鮮高位指導部が(国際社会の)制裁の圧力に耐えられなくなった場合、最後の手段として、韓国に核兵器を使って朝鮮半島の統一を試みるだろう。彼らの核の攻撃目標はずっと韓国だ。これは明確な事実」と答えた。
現在、北朝鮮の核・ミサイル攻撃に対抗するため、米軍の高高度迎撃ミサイル(THAAD)の韓国配備が進められているが、その過程は順調ではない模様。
消息通によると、米国は年内に韓国への配備を完成するよう努めている。文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領はすでにTHAAD配置のための環境影響評価を指示し、最短でも1、2年はかかる見通し。
太陽政策も敵対する北朝鮮指導部
文政権の発足後、新政権の対北朝鮮政策は米国の唱える「強力な制裁」と正反対を見せている。文政権はいわゆる「太陽政策」を用いて関係回復を試み、「民間の援助と交流」に向って推進し、南北経済協力の象徴と呼ばれる「開城工業地区」を再開しようとしている。
李氏はこのような現政権の政策について、「北朝鮮は過去の金大中政権の同政策を、体制を崩壊させようとする行為とみなして敵対し、逆に韓国からの資本を奪い取る実用主義政策に切り替えた」と述べ、北朝鮮指導部の考え方を伝えた。
中国の制裁に対する疑念
北朝鮮を分析する専門家の多くは「中国が重要な役割を果たす」とのトランプ政権に同意しているが、対北制裁措置をとるとの中国の意向には、疑念を抱いている。
「中国が実際に、北朝鮮とのエネルギー輸出入に制限を掛けるという証拠はなく、むしろその逆だ」と米国シンクタンク・民主防衛基金の北朝鮮問題専門家アンソニー・ラギエロ氏はVOA韓国の取材に答えた。
実際、中国税関総署が6月23日に発表した国・地域別の輸出入統計月報で、北朝鮮向け輸出は1~5月累計で、13億2399万ドルで、前年同期比32%増となった。
李氏は、「中国の戦略目標は米国とは異なるため、中国が米国と同様の対北制裁を科すとは考えにくい」と述べた。
(翻訳編集・齊潤)
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