昆明の無差別殺傷 政府発表を疑問視する声も

2014/03/03
更新: 2024/04/22

【大紀元日本3月3日】雲南省の省都・昆明市で1日夜に発生した無差別殺傷事件で、同市政府は2日、「新疆ウイグル分裂勢力による組織的な重大暴力テロ事件」と断定した。市政府の発表の速さや、事件に関する具体的な情報の欠如、事件が起きたタイミングなどをめぐって、不信感を示す声もあがっている。

中国国内メディアの報道によると、1日午後10時(現地時間同9時)過ぎに起きたこの事件で29人が死亡、143人が重軽傷を受けた。犯人グループ10数人は全員覆面で、黒ずくめの服を着ていた。長い刃物で通行人を次々と襲撃した同グループの4人が射殺され、1人が拘束、ほかは逃走したという。

事件発生から約4時間半後の2日午前1時40分ごろ、中国共産党機関紙の人民日報は同事件を「重大な暴力テロ事件」と断じた。同7時過ぎ、国営新華社は同市政府の発表として、「現場証拠」から同事件を「新疆ウイグル分裂勢力による組織的な重大暴力テロ事件」と断定したことを報じた。

「何が起きている」

政府や政府系メディアの発表について、経済誌・財経の羅昌平副編集長はミニブログ(微博)で同業記者の話を引用し、「何が起きたのか教えてくれたことはない。ただ、無思慮な憎しみと、無闇な恐怖を膨らませられているだけ。人々はうやむやの中で生かされ、あやふやの中で死なされる」と暗に政府の情報隠蔽を批判した。この書き込みは後に削除されている。

経済観察報の劉向南記者はミニブログで「新疆関連の事件が相次いでいる。そこでいったい何が起きているのか。これらの事件の根源はどこにあるのか。これらの事件に関心のあるすべての人にその真相を知らせる責任を担うべきだ」と政府に情報公開を求めた。

だが当局は現時点で、ウイグル分裂独立派の犯行とした根拠について「現場の証拠」にしたにとどまり、具体的な情報は公表していない。米ジョージ・ワシントン大学でウイグル問題を研究するショーン・ロバーツ教授はドイツ国際放送ドイチェ・ヴェレの取材に対し、今回の襲撃は「原始的」と指摘し、「周到に計画された爆発や、比較的複雑な作戦」は見当たらなかったという。事件はテロ組織と関係する痕跡はまだないとし、「本当にウイグル人による事件だとしたら、以前のものと大きく異なる」との見解を示した。

米国務省がこのほど発表した『人権報告書』で中国の新疆問題について、中国政府は「宗教過激派、分裂独立派とテロリスト」という三つの勢力への制圧を続けているうえ、平和的に主張を唱えるウイグル人などに対しても弾圧を強めていると報告。「当局は度々、テロ対策を(弾圧)行動の理由にしている」と指摘した。

今年1月、当局は北京市在住のウイグル族学者、イリハム・トフティ氏を拘束した。同氏は新疆ウイグル自治区の状況を伝えるウェブサイト「ウイグルオンライン」の開設者として知られ、ウイグル問題について政府と会話による解決を望んでいた。「昆明の事件がもし本当にウイグル人によるものであれば、政府の民族政策はもう限界だということを示した」。中国の弁護士、段万金氏はミニブログで政府の高圧政策を非難した。

裏に「大トラ」の勢力か

一方で、3日に国政諮問機関・全国政治協商会議(政協)、5日には全国人民代表大会(全人代=国会)の開会を控えたこの事件のタイミングにも疑念が集まっている。これらの会議の終了後に、前最高指導部メンバーの周永康氏の不正が正式に発表されるのではとの憶測が飛び交う中での事件は「周永康勢力によるもの」との見方がある。米海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は微博ユーザー・幽壹の投稿として、「2012年9月18日前と同じように、大トラの勢力が裏で動いていることが心配される」と周氏との関連を指摘する声を伝えた。

9月18日は満州事変の契機となった柳条湖事件が発生した日で、2012年のこの日を前に中国で大規模な反日デモが繰り広げられていた。だが、このデモは当時の党指導部の中に、次期最高指導者と目されていた習副主席を「消したい」勢力があったため「人事と政治をめぐって深刻な対立が生じている」ことに起因すると米ニューヨーク・タイムズは分析していた。フランスのRFIラジオも「権力闘争の影が見え隠れする」とし、海外の華字メディアは、周氏がトップを務める中央政法委を中心とする薄煕来支持勢が、中国の内政・外交に混乱をもたらし、その年の秋に予定されていた党大会を妨害するために裏で仕掛けていたと報じていた。

VOAが取り上げたネット上の書き込みは、今回の事件のタイミングと当時との類似性に目をつけている。薄受刑者の失脚が正式に発表されたのは2012年全人代終了後ということも、今回と似ているとの指摘が出ている。

海外メディアのみならず、国内メディアも周永康叩きを強めている中での事件。テロ対策を担当する孟建柱・共産党中央政法委員会書記は2日早朝にも昆明入りした。この異例の速さも習陣営は事件の政権への打撃を最小限にとどめ、対抗勢力を封じ込む意図を窺わせたと政治評論家の趙璽グン(王へんに君)氏は大紀元に語った。

(張凛音)