<赤龍解体記>(26) 高速鉄道事故報道でCCTVの記者が停職処分

2011/08/08
更新: 2011/08/08

前回の<赤龍解体記>は、中国高速鉄道事故でメディアとインテリの造反を取り上げたが、案の定、これらのメディア人は直ちに停職などの処分を受けた。

 中国諸メディアの中で、中央テレビ局(CCTV)の影響力が最も大きい。それだけに、中共の宣伝部は最も力を入れて中央テレビ局を厳しくコントロールし、見せしめも当然ながらその造反者から斬りはじめるのである。

 中国高速鉄道事故の報道で、埒を超えたと判断されたCCTVのニュース番組「24時間」のプロデューサー・王青雷氏が犠牲者の一人とされた。

 中国マスコミの内部事情に詳しいメディア人によれば、王氏は今はまだ停職処分だが、そのうち解職されるだろうという。

 この処分に対し、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が王氏を復職させるよう、呼びかけている。ただ、それほど効果が無いだろうと思われる。

 停職処分された原因はいったい何だったのか。彼が編集した報道は、事故の責任追及、原因究明を求める姿勢のほか、次のような指摘がもっとも許されなかった箇所であったと思われる。

 「もし、人間の生命まで危うくされてしまうなら、このような高速がわれわれに必要かどうかを問わなければならない」

 「この事件から、多くのことが連想させられた。今の中国はその発展が高速鉄道と同じで、世界から羨ましがられているが、速度の追及、速度への激情を満足させる過程で、われわれは多くのものを無視し、多くのものを捨ててしまったのかもしれない。たとえば、安心して牛乳を飲めるのか、倒れないマンションに住めるのか、人々が歩いている都市の道路が突然崩れ落ちないようにできるのか、安全に目的地に到着できる列車に乗れるのか、重大事故発生後、事故の牽引車を急いで埋めないようにしてもらえるのか、等々である。むろん、これらはそれぞれ個別な事例であるかもしれない。もしこれらを一言でいうなら、われわれの幸福に基本的な安心感を与えてもらえるか、ということだろう。中国よ、スピードを落としてほしい。速度をあまり追求するあまり、われわれの良心を落伍させてはならない」

 むろん、高速鉄道事故を如実に報道し、真相究明を求め、正義を主張するメディア人はほとんど王氏同様、つらい目に遭わされた。

 王氏のようにメディアのタブーを破った場合はもちろんのこと、温家宝首相の発言までも決まったサイズの篩(ふるい)で濾過しなければ報道できないか、まったく無にされるのである。

 要するに、中国では、正義や良識を持つ者は危険人物とされ、真相究明や責任追及、腐敗反対を唱えることは危険行動とされ、人類の共通価値観や常識を主張する者は異分子として叩き潰される羽目になるのである。このような言い方は、厳しいようだが、しかし、今回の高速鉄道事故で再度証明されたように、これこそ調和社会を構築するという中国の現状なのである。

 しかし、圧力が大きいだけに、その反動力も強くなる。中共の良識者への斬首行為は、全く傍若無人であるが、実は飛んで火に入る夏の虫のような行為である。

 事件の翌日、王青雷氏は微博でこう綴っている。「ある国家に、強権を恐れず時弊を指摘・批判する記者が一人だけでもいれば、この国家にはなお魂がある」

 今回の事件で、正義を主張し造反したメディア人は、王氏一人ではなく、百単位で数えられる。確かに、王氏が言うように、「ある国で、もし良識が、浅薄な貪欲と無情な冷淡に完全に呑み込まれなければ、その国には永遠に希望がある」