「日本よ、魂ある国を立て直そう」 亡命中国人作家来日講演 日本の危機警告

2010/10/29
更新: 2010/10/29

「桜は咲き続けているが、日本の武士道精神はすでに凋落してしまった。第二世界大戦後、日本は魂のない国、経済的な機能だけの存在に堕落してしまったのだ。物欲だけにコントロールされる道をそのまま進めていくと、日本はいつの日か行き詰まり、滅びるだろう」

 今年7月に出版された邦訳の『暴かれた中国の極秘戦略』(中国語『台湾劫難』)のプローモーションのために来日した亡命中国人作家で法学者の袁紅冰(ユァン・ホンビン)氏が28日夜、東京文京区で開催された初めての日本での講演会で、まもなく日本が直面する危機について警告した。

 80年代に北京大学の法学部で教鞭を執っていた同氏は、89年の天安門学生運動を支持したため、北京から地方に放出された。2004年、貴州師範大学法学部の学部長を務めていた時、訪問中のオーストラリアで政治亡命。現在シドニーに在住し、政治や文学などの創作活動と中国の民主活動を行っている。

 昨年台湾で出版された『台湾大劫難』を通して同氏は、自由が脅かされている台湾の危機を警告している。「市場一体」を経て「政治統一」を図ることで中共は戦わずして台湾に勝ち、2012年には民主体制の台湾を共産党中国の統治下に納めるという。また、中共のこの野心、台湾だけには留まらないという。日本での今回の講演の中、同氏は、近くに出版する新書『台湾大国策』の内容として、中共が画策する日本を含む世界支配の野心についても紹介した。

 アジアへの野心:標的は台湾、インド、そして日本

 同日の講演によると、2008年、胡錦濤主席は「21世紀における中国の使命と国際地位」と題する談話を発表し、共産党中国が今世紀のうちに世界をリードし、米国に代わって国際的な行動基準を作り上げるとする国策を述べたという。この詳細については、新書『台湾大国策』で紹介しているとのこと。

 同氏によると、世界支配を目指す中共の野心を実現するため、中共の軍部内では「超限戦」という新しい「戦争」の概念と戦略が呈示されているという。それは通常の武力戦のほかに、グローバリゼーション時代に特徴的な「戦争」である外交戦、諜報戦、金融戦、ネットワーク戦、文化戦、心理戦、メディア戦など様々な方法が含まれたもので、それらの新しい戦いは、軍人と非軍人を明確に区別しないとする考え方に基いている。また単に戦争手段の多様化だけではなく、それに対応する安全保障政策や戦略の研究の必要を主張しているという。

 その文化戦とメディア戦の一例として同氏は、中共が世界各地に孔子学院を設立していること、中国問題の専門家や漢学者を次々に買収していることなどを紹介した。また、各国の中国語新聞のほとんどを中共がコントロールしているほか、各国の自国メディアに対しても中共の意向が浸透していると指摘する。

 その拡張戦争において中共は、台湾、インドおよび日本を最優先のターゲットにしているという。同氏によると、中共政権は台湾問題とチベット問題を国家利益の重点としており、そのために必要不可欠である台湾、インド、日本との外交上の戦略を優先的に立てているとする。

 しかし、その目的は領土上の利益ばかりではない。中国人は西洋の民主自由体制に適合しないという主張を常に唱えてきた中共政権は、同じ中国人でありながら民主体制を取っている台湾を、中共の独裁統治に最大の脅威として見ていると袁氏はいう。その上で同氏は、2012年秋の18期共産党大会を控えている中共政権が、台湾の自由民主制度を潰すという目標を国家戦略の最優先にしていると述べる。

 対日戦略:日米同盟を分裂させ、尖閣諸島は譲らぬ

 それに関連して、アジアの民主勢力のなかで最大の存在である日本には、台湾問題に干渉させないことを第一として対日戦略を立てているという。その主な内容は、日米関係を分裂させること、日本にとって「有利」である戦略的互恵関係を結ぶことの2点。

 北京大学で勤めた際、陳昊蘇氏(60年代に中国の外相を勤めた陳毅将軍の息子)と会談したことがあり、その際に陳氏から直接聞いた話として、鄧小平氏の対日外交戦略の目的は日米同盟を分裂させることであったと述べた。それを実現するカードは、広島と長崎への原子爆弾投下の歴史を使って米国に対する日本国民の恨みを煽ること、および中国大陸の資源とマーケットに依存する日本の経済状況を利用することであるという。

 さらに、日本と戦略的互恵関係を結び、北方領土問題において中国が日露間の仲介役を果たし日本に味方する立場を取る、東シナ海ガス田問題に関して日本に譲歩する姿勢を見せる、日本の国連安保理入りを支持する、という3点について日本支持のスタンスを見せかける。

 一方、尖閣諸島問題は、決して譲らない姿勢を取る。その真の目的は、国家の領土への関心ではなく、尖閣諸島の領有権を主張する台湾に対して外交上の連帯感をアピールし、台湾の国民党政権を丸呑みすることにあると袁氏は主張する。先日起きた尖閣諸島沖の漁船衝突問題について、中共内部における闘争が外交上の不一致を起こさせたものとする見方もあるが、同氏の見解によれば、台湾の馬英九政権に見せかけるための戦略の一環であるという。

 

 中共に対抗し、日本精神を立て直せ

 民主自由の台湾を潰し、中国本土での独裁政権を固めながら、世界支配を実現していく。そうした中共の野望の前に、台湾の自由が奪われる危機を傍観するだけの日本と世界には、遠からず自分自身に危機が迫ると袁紅冰氏は警告する。

 哲学者の洞察力と法学者の理智をもつ同氏は、作家で詩人でもある独特な語りのスタイルで、日本の武士道精神に対する憧れについても触れた。

 「日本国の精神である武士道から、私は孔子の教え、孟子の英雄の気概、墨子の天下衆生を普く愛する侠気を思い出す」

 しかし、このような「豊富な精神内包がある日本国の魂」は、第二次世界大戦では間違った方向へ利用されてしまったと袁氏はため息をつく。「人々を苦難から救うのではなく、他国への侵略で多くの人に苦難を与えてしまった」

 「第二次世界大戦後、日本は魂のない国に化してしまった。歴代の日本の首相や政治家はすでに、中国を含めた各国に、先の大戦で犯した罪について謝罪と懺悔(ざんげ)を幾たびも行って来た。中国共産党の強権主義と膨張的野心が世界に災難をもたらそうとしている今こそ、日本は自由民主と人権を守る人々を支持し、自国の武士道精神を立て直すことが本当に意味のある懺悔になると私は思う。しかし、今の日本は、明確かつ堅実な国家の意思と政策に欠けているように見える。日本は自国の前途、世界の前途に対して全貌的な認知に欠けていると思う。今のまま目先の経済的利益に振り回され、中共にコントロールされてしまうとすれば、日本はますます恥を重ねる道に陥ってしまうからだ」

 中国人として自国を愛し祖国の文化を立て直したいとの本音を語りながら、袁氏は日本に、中共の強権政権と対抗する中で、自国の伝統的精神を立て直していくことを願うという。「日本は武士道精神を立て直し、自由と真理の味方になるよう切に願う」と、詩人の熱い口調で同氏は語った。

 今月末の31日、来日中の袁紅冰氏による2回目の講演会(後援、大紀元)が行われる。尖閣諸島問題の本質や、中共の野望の前に危機に直面している日本への提言などが語られる予定。詳細は本社サイトのお知らせご参照。
 

(趙莫迦Zhao Mojia)