何清漣:中国は本当に世界を救うことができるのか?

2009/03/05
更新: 2009/03/05

【大紀元日本3月5日】中国の温家宝総理は、少し前に開催されたダボス世界経済フォーラムにおいて、全力で、“経済の救世主”の役割を演じ、中国について全く知らない西方の政治家を安心させるとともに、中国政府の虚栄心を大きく満足させた。温総理が詩歌を引用して用いた締め括りの言葉“厳冬終将過去、春天就要来臨(厳しい冬がついに過ぎ去ろうとしている。そして、春がまもなくやってこようとしている)”は、新華社のニュースの標題ともなった。

中国政府の官製言語を理解しない欧州の政界に対し、中国の総理によるこのもっともらしい談話は、確かに魅惑的な効果を発揮し、無意識のうちに“中国経済の山水画”の虜になっていった。今回、紙面の制約上、本文では、中国が語るところの、世界を救う根本、すなわち、消費の刺激が、絵に描いた餅ではないかということについて論じる。

中国において、消費の刺激は古い話題である。異なるところは、厨房でこの冷えたご飯を温めたのが国務院総理だったということにすぎない。しばらく前に、中国は、過剰な貯蓄率(2003年以来45%以上)と過小な消費率の問題について議論を始めており、この議論に参加した者は、いずれも、中国が内需を喚起できない直接の原因を知っている。

世界各国と比べ、中国の消費率(最終消費率とも称する。GDPに占める一定期間の最終消費の割合をいう。公式:消費率=国民消費/GDP×100%)は顕著に低く、2003年に55.4%に下落して以降低迷の一途であり、2007年には36%となっている。この数字は、先進国のみならず、世界の平均値にも劣っている。なお、世界の平均消費率は、2000年から現在にかけて、77%前後を維持している。

中国の消費率は、世界平均より41%も低く、米国等の先進国ばかりか、インド等の発展途上国よりも低い。また、信じられないことに、現在の消費率は、中国の計画経済時代の水準よりも、“大躍進”後3年間の大飢饉の時期の水準よりも低くなっている。

能力に疑義

中国政府は、どうすれば民衆の消費を増やすことができるかを真剣に考えてきた。中国の民衆が貯蓄を好む理由を明らかにするため、国家統計局や各省直轄の調査チームがいつも調査を実施している。しかし、全ての調査結果は驚異的なまでに一致している。貯蓄の第一の目的は、子女の教育費用で、その次が、住宅、医療、年金等の項目への支出であった。当然、過剰な貯蓄と過小な貯蓄の背後には、中国政府が議論したがらない問題が存在している:中国の膨大な金融資産の分布は極めて不平等であり、中国政府の数字によると、2005年において、最高収入層が占有する金融資産は66.4%である一方、最低収入層が占有するそれは、1.3%で、比率にして51:1であった。これが意味することは、銀行預金の大部分が、実は中・低階層には属していないということである。

もう一つの無視できない問題は、中国の人口の70%を占める農村人口の消費能力が非常に低いということである。中国農民の消費率は、最高値である1983年の32%から、2007年の9%にまで下落している。

全国の個人消費総額のうち、農民の消費の占める割合は、30年前の62%から2007年の25%まで下落し、下げ幅は37%となっている。その原因は次のとおりである:90年代中垣xun_ネ降、農村の土地は、腐敗官僚とディベロッパーの貪欲の標的となり、農民は、都市への出稼ぎで過小な賃金で働くなど、収入は下落を続けた。いわゆる“三農問題”は、中国経済の“アキレス腱”であり続けた。2008年以来、2000万人を超える農民工が、企業の倒産ブームの中で失業し、500万人の農民が故郷へ帰ることを強いられ、農村全体の消費能力は更に低下した。

しかし、宣伝の必要から、農村において“投資・消費需要の潜在力”を発掘することが政治的流行となった。困窮した中国の農村は、世界経済の数少ない光明であり、これが解放されれば、中国経済の経済成長の大きな推進力になると誇張された。

これは、人々に次の疑問を惹起する:長年にわたって消費率が低迷を続けている中国の農村において、いま、大量の農民工が失業しており、弱り目に祟り目のような状況となっている。中国政府は、長年にわたって内需を刺激する重責を果たすことができなかったにもかかわらず、一夜のうちに妙案が浮かんだとでもいうのだろうか?

国家の消費率が過小となる現象は、社会における分配の不平等に起因する。ケインズは、“消費支出の不足は、収入分配の不平等によってもたらされる。かりに、国民収入の大部分が一部のお金持ちの手中にあるとき、彼らは、大部分を貯蓄するしかない。国民収入の大部分を低収入の家庭に与えることで、はじめて消費支出を向上させることができる。”と語った。中国の消費率を改善し、内需を刺激する前提は、公正な社会分配システムを構築することである。権力の市場化、政府の利益集団化の趨勢を断ち切ること・・・かりに、政府がこの現状を変えることに取り組み、これに成功したとしても、一朝一夕には実現しない。 

以上の理由から、中国政府に対しては、得意満面に“経済の救世主”を演じる前に、自国にいる数億人もの貧困人口を救うようお願いしたい。これは、単に自国民の税収が政府を支えているからだというわけではない。更に重要なのは、“救世主”となるためには、先ず“救世”の能力を備えていなければならないからである。

(翻訳・飛燕)
この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。