【分析】習近平はなぜ後継者を指名しないのか 毛沢東の教訓が示す権力継承の難しさ

2026/10/16
更新: 2026/10/16

中国の最高指導者、習近平が後継者を明確にしていないことが、将来の権力移行をめぐる不透明要因となっている。国家主席の任期制限を撤廃し、党と国家の権力を自身に集中させてきた習近平。長期政権を支える仕組みが強化される一方、その後の指導体制をどう構築するのかは見通せないままだ。

中国共産党史の研究家であり、ベテランジャーナリストの李肅氏は最近、新唐人の番組で、習近平が後継者を指名しない背景について、毛沢東時代の失敗を教訓としている可能性があると指摘した。後継者を選んでも、その人物が必ずしも権力を安定的に引き継ぐとは限らない。むしろ、後継者の指名が党内の対立を引き起こす危険もあるという。

中国共産党史の研究家であり、ベテランジャーナリストの李肅氏は最近、新唐人の番組で、習近平が後継者を指名しない背景について、毛沢東時代の失敗を教訓としている可能性があると指摘した(新唐人)

李氏が注目するのは、毛沢東が後継者とした劉少奇と林彪の顚末だ。

劉少奇は文化大革命の過程で失脚し、1969年に死亡した。毛沢東の後継者と目された林彪も、1971年の事件によってその地位を失った。いずれも、後継者の指名が円滑な権力移行につながらなかった事例である。

李氏は、こうした歴史を踏まえ、習近平が後継者を公に定めることに慎重になっているという。後継者を明示すれば、党内でその人物を中心とする動きが生まれ、現職指導者の権威や権力基盤に影響を与えかねない。

また、後継者を選んだとしても、その人物が失脚すれば、指導者自身の威信が傷つく恐れもある。そのため、あえて指名せず、状況を見極めながら権力を維持する方が得策だと考えているのではないかと分析している。

ただし、習近平本人が実際にそのような判断をしているかどうかを示す確かな情報はない。李氏の指摘は、毛沢東時代の権力継承を手がかりに、現在の中国政治を読み解こうとする一つの見方である。

鄧小平時代に形成された継承の慣行

中国共産党では、毛沢東時代の激しい権力闘争を経て、指導者の交代を一定程度予測可能にする仕組みを模索した。

鄧小平時代には、国家主席の任期制限が憲法に盛り込まれたほか、次の世代の指導者候補を早い段階から登用する慣行も形成した。現職指導者が直後の後継者だけでなく、さらに次の世代を見据えて人材を選ぶというものだ。

これは明文化された制度ではないが、指導者の世代交代をめぐる党内政治の重要な慣行となった。

こうした流れの中で、鄧小平時代は胡錦濤を次世代の指導者候補として登用し、習近平も江沢民時代に後継世代の一人として台頭した。

2012年11月2日に撮影されたこの写真は、故趙紫陽(右)が、中国共産党(CCP)の創設者の一人である葉剣英、同じく失脚した胡耀邦(後列右)、そして故鄧小平(後列左)と会話している様子を捉えたもので、1982年の第12回党大会中に撮影されたもの。北京で開催される中国共産党第18回党大会のプレスセンターに展示されている(Stéphane Lagarde/AFP/Getty Images)

しかし、習近平の時代に入ると、権力継承をめぐる従来の慣行は大きく変化した。2018年には国家主席の連続在任を二期までとする憲法上の制限を撤廃し、習近平は2022年に党総書記として3期目に入り、2023年には国家主席としても3期目を開始した。

問題は、長期政権そのものだけではない。最高指導者の交代をどのような手続きと合意によって実現するのか、その道筋が公に見えていないことだ。

「後継者を選んでも 継承させるものがない」

李氏は、習近平が後継者を明確にしない理由として、もう一つの観点を挙げる。毛沢東や鄧小平に比べ、習近平には後継者に継承させたい独自の政治路線が明確ではないという見方だ。

李氏によれば、毛沢東が晩年に重視したのは、自らの革命思想、とりわけ文化大革命につながる政治理念を後世に残すことだった。一方、鄧小平にとっては、自身の死後も改革開放の路線が維持できるかが重要な課題だったという。

両者にとって、後継者の選定は単なる人事ではなく、自らが築いた政治路線を次代に引き継がせるための手段でもあった。

これに対し李氏は、習近平の政治運営について、権力集中や統制の強化が中心であり、後継者に継承させる独自の理論や政策体系が明確ではないと分析する。

そのため、後継者を指名したとしても、次の指導者が習近平の路線をそのまま引き継ぐとは限らず、政権交代後に別の方向へ進む可能性があるという。

もっとも、習近平が独自の政治理念や政策路線を持たないと断定することはできない。「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」は党の指導理念に位置づけられ、党の統率強化や国家安全保障の重視も政権の重要な特徴となっている。これらが習近平の退場後にどの程度維持されるかは、後継政権の性格を左右する問題となる。

もし習近平に不測の事態が起きれば

では、習近平が突然、指導力を発揮できなくなった場合、中国政治はどう動くのか。

李氏は、毛沢東の死後に生じた権力の空白を現在の状況と比較する。当時、華国鋒氏は毛沢東の死後に党主席などの地位を引き継いだものの、党内の有力者を統率するだけの政治的基盤を十分に持っていたわけではなかった。

その後、実権を握ったのが鄧小平だった。鄧小平には革命期からの人脈と党内の支持基盤があり、政治的な経験も豊富だった。文化大革命後の中国社会には、経済の再建と生活水準の向上を求める期待も広がっていた。

鄧小平の台頭は、党内の力関係だけでなく、社会が求める政策の方向とも結びついていた。

李氏が現在の中国について懸念するのは、こうした鄧小平に相当する存在や勢力が、明確には見当たらないことだ。

習近平の側近には、蔡奇、李強、丁薛祥らがいる。趙楽際や李希も党政治局常務委員を務める。しかし、現職の最高指導部に属していることと、習近平の後継者として党内の各勢力をまとめ、実権を掌握できることは別の問題だ。

2022年10月22日、中国共産党第20回党大会の閉幕式で、職員に支えられながら会場を退席する胡錦濤(右)を見つめる習近平(左)(Getty Images)  

現時点で、これらの人物の誰かが正式な後継者に指名されたと公に確認しているわけではない。

また、後継者問題を考える際には、国家主席の地位を誰が引き継ぐかという制度上の問題と、共産党や軍を含む実質的な権力を誰が握るかという問題を区別する必要がある。

国家機関の継承手続きが存在しても、それだけで党内の政治的な合意や実権の移行が保証されるわけではない。

李氏が描くのは、習近平の退場後、党内で権力の調整を主導する人物が現れるのか、それとも複数の勢力が主導権を争うのかが見通せないという状況だ。

ただし、後継者を公表していないことが、必ずしも権力闘争や政治的混乱に直結するわけではない。党の組織機構が機能し、内部調整によって移行が進む可能性もある。

ポスト習近平時代 中国共産党はどうなるのか

習近平の後継者問題は、権力移行の安定性だけでなく、中国共産党(中共)の政策が今後どう変化するかという問いにもつながる。

毛沢東の死後、中国は文化大革命の路線から離れ、鄧小平のもとで改革開放へと転換した。最高指導者の交代が政治路線の見直しにつながった歴史は、習近平の退場後にも政策の修正が起こり得ることを示している。

しかし、指導者が交代すれば、政策が自動的に変わるわけではない。党内の人事や官僚機構、軍、経済情勢、対外関係など、さまざまな要因が次の政権の判断を左右する。

習近平のもとで強化された党の統制や安全保障重視の路線が維持されるのか、あるいは経済運営などを中心に修正されるのかは、後継体制の形成過程を見極めなければ判断できない。

李氏の指摘が浮き彫りにするのは、後継者の名前が明らかでないという問題以上に、権力継承を安定させる仕組みがどこまで機能するのかという課題である。

習近平の長期政権は、権力を集中させることで政治運営の一体性を高めてきた。一方、権力が一人の指導者に集中するほど、その人物が交代する局面では、後継者の正統性や党内の合意形成が重要になる。

中共政権が次の時代への移行をどのように準備するのか。問われているのは、習近平の後継者が誰になるかだけではなく、最高指導者の交代を個人の判断や党内の力関係に委ねるのか、それとも予測可能な手続きによって支えるのか。習近平後の中国の姿は、その権力継承のあり方によって大きく左右されることになる。

新唐人