トランプ氏の新たな防衛線に阻まれる中共 海洋での北方拡張計画が頓挫 習近平の「海洋戦略」に米国はどう対抗しているのか(1)

2026/10/10
更新: 2026/10/10

中国共産党(中共)は2026年、最新の5か年計画に「海洋強国」を盛り込み、深海、極地、遠洋海運、海洋資源を国家の発展計画に組み入れた。北極地域では、中共政府はすでに2018年に「氷上シルクロード」を打ち出し、北極航路のインフラや鉱物資源への企業投資を奨励したが、米国とその同盟国が次第に強化する安全保障上の防衛線に直面している。

トランプ米大統領は9月22日、デンマーク、グリーンランドと新たな安全保障協定を締結し、米軍の立ち入りや施設利用を拡大するとともに、機微な産業への非同盟国からの投資に厳格な安全保障上の条件を追加した。分析によると、グリーンランドは北大西洋条約機構(NATO)の北極における防衛、重要鉱物、海上監視の体制に全面的に組み込まれつつあり、北極を通じて従来の海上輸送の制約を突破しようとする中共政府の構想は、正面から阻まれている。

中共、極地での能力を「海洋を通じて強国を目指す」全体構想に組み込む

中共政府が近年推進する「海洋強国」政策の範囲は、すでに沿岸防衛や海軍建設を超えている。

「海洋強国」というスローガンが最初に登場したのは、2012年の中共第18回党大会報告だった。2025年7月、中共党首の習近平は中央財経委員会第6回会議で、海洋経済戦略を体系的に表明した。2026年3月、中共の機関誌「求是」は習近平名義の署名記事を掲載し、「海洋を通じて強国を目指す」路線を正式に確立した。同月公表された第15次5か年計画の綱要は、「海洋の開発、利用、保護を強化する」ことを盛り込み、「海洋強国の建設を加速する」よう求めた。海洋装備の製造、現代的な海運、海洋科学技術、深海・極地調査、遠洋での気象・航行支援、深海への到達、探査、開発、安全確保の能力を、国家戦略の枠組みに一体的に組み込んだ。

中共はなぜ「海洋を通じて強国を目指す」のか。中国問題の専門家、李庭仟(マイク・リー)氏は大紀元に対し、中国の対外貿易、エネルギー輸入、製造業、世界的な供給網は海運に大きく依存しており、中共は中国の「海上の生命線」を確保し、経済の命脈が他の海洋国家に全面的に左右される事態を避けようとしていると分析した。

中共の公式統計によると、2025年の中国の海洋総生産は11兆元に達し、GDPの約7.9%を占め、2012年から2倍以上に増えた。国営メディアも、空母、大型液化天然ガス(LNG)運搬船、大型クルーズ船という「3つの至宝」を頻繁に紹介し、遠洋向けの造船と海洋支配への意図を際立たせている。

極地分野では、中共国務院が2018年、初の「中国の北極政策」白書を発表し、自国を「北極に近い国家」と位置づけた。北極航路と資源の開発は、中国のエネルギー戦略と経済発展に重大な影響を及ぼすと宣言し、「氷上シルクロード」の共同建設を提案した。北方航路、ベーリング海峡、北極、北大西洋を経由して欧州につながる経路で、航路インフラ、商業試験航行、石油・天然ガス・鉱物の開発への企業参加を奨励した。

これに対し、米国防総省の「2024年北極戦略」は強い安全保障上の警戒を示した。中共は北極国家ではないにもかかわらず、北極の環境変化を利用して自らの「影響力とアクセス能力」を高めようとしていると指摘し、北極での「軍民両用研究」を支援するために砕氷船3隻を運用していると明らかにした。

米国が防衛を強化 「グリーンランド協定」で北極の戦略的な玄関口を封鎖

ホワイトハウスが公表した『グリーンランド協定』によると、デンマーク政府とグリーンランド政府は、米国との合意に基づき、米軍による北部のピツフィク宇宙基地の運用の近代化・拡大と、南部のナルサルスアーク、東部のメステルビグへの新たな『防衛区域』の設置を認めた。協定は、非NATO加盟国が軍事施設を設置したり、継続的な軍事的プレゼンスを維持したりすることを制限し、厳格な外国投資の安全保障審査手続きも追加した。

シンクタンク、大西洋評議会の研究者コナー・マクパートランド氏は、新協定が重要インフラや資源採掘などの「特に機微な分野や活動」を対象とし、NATOにも欧州連合(EU)にも加盟していない国の投資家が支配権を取得する場合、米国、デンマーク、グリーンランドの3者による共同の安全保障上の確認を必要としていると分析した。これにより米国は、グリーンランドの外国投資審査に参加する実質的な拒否権を得た。中国資本が過去に商業投資を通じて戦略施設への浸透を試みた経路を、直接遮断できるという。

ロイター通信によると、グリーンランド東部のメステルビグには長さ約1.8キロの滑走路と150人を収容できる施設がある。戦略上の要点は、冷戦時代の要衝である「グリーンランド・アイスランド・英国間の海域」(GIUKギャップ)を効果的に監視することにある。

ハドソン研究所のリーセロッテ・オズゴー上級研究員はさらに、新協定を北極での「分散型抑止」を構築する基盤とすべきだと指摘した。米国と同盟国の衛星、海上哨戒機、水中センサー、無人システムを統合し、ロシア北方艦隊や中共の海洋勢力による北大西洋への進出を強力に阻止する能力を形成するという。

オズゴー氏は、フィンランドとスウェーデンのNATO正式加盟により、北極圏8か国のうちロシアを除く全てがNATO加盟国になったと述べた。米欧の同盟国は、極地での拡張を防ぐ防衛上の鉄のカーテンとして、グリーンランドを全面的に強化しているという。

習近平の「海洋戦略」に潜む不安と「マラッカ・ジレンマ」

李氏は「グリーンランド防衛協定」について、中共の「氷上シルクロード」を大きく抑制する効果があると述べた。中共が極地への突破を急ぐ根本的な理由は、従来の海上輸送の生命線が極めて脆弱であることへの深い不安にあるという。

李氏は、中国の従来の海上輸送路であるスエズ運河、紅海、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海は、米軍が「7大海上航路」での展開を強化する中、「実際にはすでに押さえられている」と分析した。国際制裁に直面すれば、極めて容易に遮断されるという。

戦略国際問題研究所(CSIS)が7月に公表した報告書「海峡のリスク(Troubled Straits):南シナ海の貿易上の要衝を分析」は、中国が2024年にマラッカ海峡を通じて輸送した貿易総額が9630億ドルに達し、中国の輸入総額の21%、輸出総額の14%をそれぞれ占めたと明らかにした。

米エネルギー情報局(EIA)の統計でも、2025年上半期にマラッカ海峡を通過した石油の輸送量は1日平均2320万バレルに達した。同海峡を通過する原油とコンデンセートの輸入先のうち、中国が約48%を占めた。ロイター通信のデータはさらに、中国の海上輸送による原油輸入の約75%がマラッカ海峡を通過する必要があることを示している。

こうした海上の重要な要衝への高い依存こそ、2003年に当時の中共党首、胡錦濤が提起し、その後、戦略研究の分野で広く使われるようになった「マラッカ・ジレンマ」である。

米連邦海事委員会(FMC)が世界の7大海上交通の要衝を対象とする調査を命じたことについて、李氏は、中共政府の海洋安全保障への不安をさらに深め、第2の海上輸送路を求めざるを得なくしていると述べた。

中国資本による10年以上の北極構想 鉱山開発から軍事施設への浸透まで挫折

中国企業によるグリーンランドの資源やインフラへの浸透には、以前から兆候があった。

2009年前後、中国資本はグリーンランドの銅・金鉱山事業に参加し始めた。2011年には国営の中国有色鉱業集団が、グリーンランド北部のシトロネンの鉛・亜鉛鉱山事業の推進を試みたが、その後、米国資本の参入によって撤退を余儀なくされた。2015年、天津に本社を置き、香港で登記された俊安集団がイスアの鉄鉱山事業を引き継ぎ、グリーンランドで鉱物の採掘権を取得した初の中国企業となった。

しかし、西側の国家安全保障上の警戒を実際に引き起こしたのは、その後の俊安集団による軍事戦略施設への働きかけだった。2016年、同社はグリーンランド南部の旧海軍基地グロンネダールの買収を提案した。デンマーク政府は国家安全保障を理由に拒否し、同基地の再使用を決定した。この事例は、中国資本の海外拡張が、軍事上の戦略拠点への進出を探る段階にまで及んでいたことを示している。鉄鉱山事業の許可も最終的に、長期間開発が行われなかったことや支払いの滞納を理由に、2021年に取り消された。

レアアース分野では、CSISが1月の報告書「グリーンランド、レアアースと北極の安全保障」で、国有企業との関係を持つ盛和資源が、グリーンランドのクヴェネルにあるレアアース・ウラン鉱山事業の第2位の株主であると明らかにした。同社は2018年に覚書を締結し、関連鉱物の加工と販売を主導することになっていたが、2021年のウラン採掘禁止により、現在まで生産は始まっていない。

報告書は、中国企業が過去にグリーンランドの3空港の建設、旧海軍施設、衛星地上局への投資も試みたが、いずれも米国とデンマークの強い懸念を受けて実現しなかったと指摘した。

CSISの分析によると、中共が2025年に重希土類の輸出を繰り返し制限したことで、米欧の供給網が中国の加工能力に過度に依存していることが明らかになった。グリーンランドはレアアース、黒鉛、タングステン、バナジウム、銅、ウランなどの戦略鉱物を有するため、米国が極めて重視している。

分析は、トランプ氏が締結した新たな安全保障協定が、中共が商業投資を通じて戦略資源や軍事的な足場を得ようとする経路を的確に狙っており、10年以上にわたる北極での活動を制度的に封じ込めることになるとした。

「氷上シルクロード」が阻まれ、海外投資の転換を迫られる

中共が現在、北極海運で主に推進しているのは、ロシア沿岸の北方航路(NSR)である。特に、ロシアがロシア・ウクライナ戦争に深く関わる状況に乗じて、進出を図っている。

李氏は、この中露協力ではロシアが軍事力などの実力と地理的なアクセスを提供し、中共が資金、技術、設備を提供すると分析した。しかし、ロシアに依存する「氷上シルクロード」は、欧州への扉を開くことができていない。中国船舶がロシア沿岸を通過して北大西洋に入ると、米欧の同盟国が築いたグリーンランドの新たな防衛線に直面するという。

李氏は、今後、中共の船舶がロシア沿岸の北方航路を経て北大西洋に入る場合、厳しい海氷の状況や高い費用に加え、米国とNATOが構築する厳密な安全保障体制にも直接向き合わなければならないと付け加えた。

地政学上の戦略が阻まれるだけでなく、中共の海外構想は国内経済の悪化という打撃にも直面している。公式統計によると、2026年1~8月、中国企業による「一帯一路」関連の非金融直接投資は前年同期比11.3%減少し、対外投資全体は同14.4%減少した。李氏は、国内の鉄鋼、電力、エネルギー設備、港湾建設などの生産能力が深刻な過剰状態にあり、中共政府は対外戦略を「資本輸出中心」から「過剰生産能力と海外供給網の輸出」へ転換せざるを得ないと指摘した。

一方、復旦大学のグリーン金融・発展センター(GFDC)の集計によると、2026年上半期の「一帯一路」投資は減少したが、大型事業はなお増えている。大紀元が先に公式統計を引用して報じたところでは、中共の対外展開の方式は転換を迫られている。審査の厳格化によって直接の出資が減少し、「商品輸出+工事請負+海外供給網」という新たな組み合わせに依存するようになっている。

資本の縮小と外国投資審査の厳格化という二重の圧力の下、中共の北極地域における大規模なインフラ投資構想は、停止を余儀なくされている。

米欧が北極に戦略的な障壁を構築 中共の海洋拡張は行き詰まりに

以上の分析を総合すると、米国、デンマーク、グリーンランドによる安全保障協定の締結は、トランプ政権が北極と北大西洋の戦略上、重要な一手を打つことに成功したことを示している。西側の安全保障シンクタンクはおおむね、同協定が厳格な軍事的アクセス制限と共同の外国投資審査の仕組みを通じ、中共がグリーンランドに「軍民両用」の戦略拠点を設け、重要鉱物を支配する可能性を実質的に取り除いたとみている。

地政学戦略の専門家は、中共の「海洋を通じて強国を目指す」という覇権的な野心が、今や南北から挟まれる苦境に陥っていると評価する。南方の従来の要衝となる海路は米軍とその同盟国のネットワークに制約され、大きな期待を寄せた北方の「氷上シルクロード」もグリーンランドの防衛線に阻まれている。世界の海洋秩序を再構築しようとする中国政府の戦略構想は、制度面と軍事面の対抗措置に直面している。

 

責任編集:孫芸

程木蘭