3月19日、米軍F-35Aがイラン領空でミサイル被弾も安全帰還。ステルス機の赤外線(EO/IR)探知限界とイラン「ホルダード15」の脅威を徹底解説。制空権下での反撃できた理由とは?
事件の概要と二つの疑問
3月19日、アメリカ軍のF-35A戦闘機がイラン領空で任務遂行中、イラン側が発射したミサイルに被弾したとみられる。同機はその後、中東にある米空軍基地に緊急着陸を余儀なくされた。この事案は米当局により確認されており、イラン側も同機をロックオンし被弾させた様子を示す約6秒間の映像を公開している。
このニュースを耳にした視聴者の多くは、二つの疑問を抱いたであろう。
第一に、開戦から20日以上が経過し、米国とイスラエルがイランの制空権を完全に掌握していたはずの状況下で、なぜF-35が撃たれたのか。
第二に、被弾したF-35が、なぜ墜落せず安全に帰還できたのか。以下、その背景を解説する。
ステルスの限界と赤外線探知
一般に「ステルス機」と呼ばれる戦闘機は、実際には特定のレーダー波(S、X、Cバンドなど)に対してのみ隠密性を発揮する構造となっている。レーダー波の波長によって反射特性は異なり、F-22やF-35、あるいは次世代戦闘機であっても、その対策は「レーダー吸収材」によって電波エネルギーを熱に変換するか、または特殊な機体形状によって電波を他方向へ反射させ、レーダーの反射を最小限に抑えるというものである。
しかし、ステルス機を検知する手段はレーダーだけではない。近年、極めて有力な手法として注目されているのが「光電赤外線(EO/IR)探知」である。
航空機は飛行中、エンジンから高温・高圧の排気ガスを放出し、さらに機体と空気の摩擦によっても熱を生じる。背景ノイズが極めて少ない上空では、この「赤外線シグネチャー」が顕著な標的となる。
実際、F-16とF-35の夜間赤外線映像を比較すると、エンジンが低出力で滑走している状態でも機体の輪郭を明確に確認できる。F-35自身も、レーダーを起動せずに敵機を探知するため「EODAS」や「EOTS」といった高度なセンサーを備えているが、今回イラン側はこれと同様の仕組み――光電赤外線センサーを用いて米軍のF-35を発見・ロックオンしたとみられる。イランが公開した映像も、レーダー画像ではなく光電赤外線センサーで撮影されたもののようである。
被弾させた兵器の正体
では、何がF-35を撃ったのか。赤外線追尾ミサイルと聞くと、ソ連製の「イグラ」や米国の「スティンガー」、あるいはイラン国産の「ミサーグ3」といった携行式防空ミサイル(MANPADS)を連想するかもしれない。
しかし、これらの射程と射高は限られており、最大でも高度4〜5キロ程度までしか届かない。対地攻撃任務中のF-35は通常8〜10キロの高度を維持しており、危険な低高度へ進入することはほとんどない。
筆者の分析では、最も可能性が高いのはイラン国産の防空システム「ホルダード15(Khordad-15)」である。2019年に公開された同兵器は、イランが「ステルス目標を邀撃できる」と公言している唯一のシステムである。パッシブ・フェーズドアレイ・レーダーを搭載し、探知距離は150キロ以上、ステルス目標でも80キロで探知、45キロ以内で迎撃・破壊できるとされる。性能的には米国のパトリオット・システムに近いカテゴリーの兵器である。
中国製ミサイル関与の可能性
一部では「中国がイランに紅旗9(HQ-9)や紅旗16(HQ-16)を供給したのではないか」との憶測が広がっている。しかし、その可能性は極めて低い。最大の理由は、納入までの時間が物理的に足りない点である。大型防空兵器は契約締結から生産、輸送、現地訓練を経て、実戦配備まで少なくとも2〜3年を要する。いわば、オンライン通販のように即座に入手できる代物ではない。したがって、今回F-35を撃ったのが中国製ミサイルであるとの説は根拠に乏しいといえる。
掌握された制空権下でイラン反撃できた理由
過去20日間で、イランの防空網の大部分(ホルダード15を含む)は破壊されたとみられる。しかし、防空システムが数セットでも残存していれば、それは米軍にとって依然、潜在的な脅威となる。かつてのコソボ紛争でも、米軍が完全に制空権を掌握していたはずの状況下で、F-117ステルス攻撃機が旧式のS-125(SA-3)によって撃墜された。イランも同様に、わずかに残る防空システムを稼働させ、隙を突いて攻撃を仕掛けた可能性がある。
F-35生還の秘密と破片殺傷
次に、なぜF-35が被弾しながら帰還できたのかを考察する。防空ミサイルの殺傷方式には主に二種類ある。ひとつは弾頭が直接目標に衝突する「運動エネルギー殺傷(直撃方式)」、もうひとつは目標付近で爆発し無数の破片を撒き散らす「破片殺傷(近接破片方式)」である。
現代の戦闘機およびミサイルは極めて高速で飛行しており、直撃は困難であるため、現在主流の防空ミサイル(パトリオットPAC-2やイラン製ミサイルなど)の多くは破片殺傷方式を採用している。
破片殺傷の場合、爆発の距離や角度によっては致命的損傷を免れることがある。F-35は極めて堅牢な機体構造に設計されており、耐久試験でも高い生存性が示されている。過去には1983年、イスラエル空軍のF-15が空中衝突で片翼を失いながらも帰還・着陸した事例がある。今回も、ミサイルの破片が機体の致命的箇所を避けた結果、基地まで帰還することができたものとみられる。
結論:F-35が被弾しても、戦局には変化がない
今回のF-35被弾は、戦場全体の局面を変えるような出来事ではない。
米国は依然としてイラン戦争の主導権を握っており、この20数日の間にイラン各地の大小さまざまな軍事拠点を激しく空爆し続けている。
これに対し、イラン側が誇れる戦果といえば、米軍およびイスラエル軍の無人機、たとえばMQ-9やヘルメスなどを数機撃墜した程度にとどまる。
今回イランがF35戦闘機に損傷を与えたことは、戦術的な観点から見ると、1999年のユーゴスラビア(セルビア)の戦いに比べてもなお見劣りする。
なにしろ、当時のユーゴスラビアはF117を実際に撃墜してみせたのに対し、イランは現在、海軍・空軍ともにほぼ壊滅状態で、数機の無人機以外には誇れる戦果がほとんどないからだ。
とはいえ、今回の事件は、第5世代戦闘機が抱える一つの弱点を浮き彫りにしたとも言える。
どのような兵器であれ万能ではない。
米国のF35やF22はレーダーに対するステルス性能こそ非常に優れているが、光電・赤外センサーによる探知に対しては、依然として一定の脆弱性を抱えているのである。
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