同じ親のもと、同じ環境で育った3人のきょうだい。しかし、彼らの人生は劇的に異なる道を歩むことになりました──その違いの原因は、たった1つの遺伝子にありました。
長男は発達の初期マイルストーンをすべて順調に達成し、5歳で読書ができるようになりました。車のナンバープレートを記憶する力に優れ、暗算も得意でしたが、学校に入ってから社会性の課題が明らかになりました。社交的にぎこちなく、友人が少なく、社会的なサインを読み取ることが難しく、感情の起伏も激しかったのです。最終的に、アスペルガー症候群(現在は自閉症スペクトラム障害に含まれます)と診断されました。
次男は典型的な発達を見せ、自閉症や発達に関する問題は見られませんでした。
一方で妹は、知的障害を伴う自閉症を発症しました。乳児期には早期の運動マイルストーンを達成しましたが、言語の発達が非常に遅れました。7歳で学校を退学し、日中は病院のプログラムに通い、12歳の時点で知能は6歳未満の水準とされました。話すことはできましたが発音に問題があり、自傷行為や夜尿症も見られました。
このきょうだいの行動の違いは、「SHANK3」遺伝子のコピー数の違いによるものでした。
この珍しいケースはフランスの研究者によって発見され、この家族の独特な遺伝的パターンが、自閉症の複雑な遺伝的背景を垣間見せてくれます。
マウントサイナイ・アイカーン医科大学Seaver自閉症研究・治療センターのジョセフ・バックスバウム所長はエポックタイムズに、自閉症には強い遺伝的要因があると語っています。ただし、自閉症と遺伝子の関係は常に明確に見えるとは限りません。
自閉症の主な2つの遺伝的要因
自閉症に関わる主な遺伝子のタイプは、「de novo変異」と「多因子変異」の2つです。
de novo(デ・ノボ)変異は、卵子や精子で自然に発生する新たな遺伝子の変化で、親から直接遺伝するものではありません。多くの遺伝子研究はこのde novo変異の発見に焦点を当てており、全体では少数ながら、自閉症を引き起こす力が非常に強いとされています。たった1つの変異でも自閉症の発症要因になりうるため、IQが低く介護を必要とする深刻なケースが多く見られます。
一方、多因子変異はより一般的で、自閉症の全症例の約50%を占めるとされます。数百から数千もの遺伝子が関与し、それぞれの変異が持つ影響はごくわずかですが、複雑に絡み合って自閉症リスクに影響を及ぼします。小さな影響が積み重なるため、特定や検出が難しいのが特徴です。

国際的な科学者グループ「Autism Sequencing Consortium」の共同創設者でもあるバックスバウム氏は、このような微妙な遺伝の影響を、身長に関する遺伝要因にたとえて説明しました。「私は『低身長になりやすい』一般的な遺伝子を持っていますが、身長は198cmあるんです」
つまり、自閉症に関連する遺伝子変異を持っていても、必ずしも発症するとは限らず、個々の遺伝構成の全体的なバランスが重要になります。異なる遺伝子が互いに助け合ったり打ち消し合ったりする複雑さが、自閉症の遺伝学を難解にしています。
また、家族内での自閉症の出現パターンが、どのタイプの変異が関与しているかを推測する手がかりになる場合もあります。家族の中で1人だけが自閉症であれば、de novo変異が関与している可能性が高く、複数の子どもに影響がある場合は遺伝性の可能性が高いとされます。
特定の遺伝子の役割
自閉症のリスクを高めるとされる遺伝子は、100以上あると報告されています。
これらの遺伝子は、脳細胞の形成や成熟、神経細胞間の情報伝達に関与しています。たとえば「SHANK3」遺伝子は、神経細胞の接続点(シナプス)に関わるタンパク質の生成を助けており、そのコピー数が多すぎても少なすぎても、脳内のコミュニケーションに支障が生じます。
SHANK3は22番染色体上にあり、前述のきょうだいの例では、典型的な発達をした次男は2つの正常なコピーを持っていました。長男は2つの正常なコピーに加えて、22番染色体の余分な一部を持っており、軽度の自閉症を発症しました。妹は22番染色体の一部が欠損しており、正常なコピーが1つしかないことで重度の自閉症を発症しました。

また、「CHD8」遺伝子も注目されており、細胞内でDNAがどのようにパッケージ化されるかを調整する役割があります。この遺伝子に異常があると、発達に必要な他の遺伝子の働きが妨げられるため、脳の成長に悪影響が出るとされています。
より間接的に影響を与えるケースもあります。たとえば、フェニルケトン尿症という遺伝性疾患では、アミノ酸「フェニルアラニン」が体内で分解されず、脳に有害な影響を及ぼし、自閉症に似た症状を引き起こすことがあります。
環境的な要因も遺伝リスクに関与します。誰もが人生の中で多少のde novo変異を蓄積しますが、加齢、喫煙、放射線や化学物質への曝露は変異のリスクを高めます。親の年齢が高くなるほど、卵子や精子に変異が蓄積しやすく、自閉症リスクも上がるとされています。
重度の自閉症は治療可能かもしれない
遺伝的な原因が明らかになれば、自閉症の一部は治療が可能になります。最近の研究では、重度の自閉症に伴う症状を軽減、あるいは改善できる可能性があることがわかってきました。
ハイデルベルク大学人間遺伝学研究所の医療主任であり、Schaaf-Yang症候群の発見者でもあるクリスチャン・シャーフ博士は、「知的障害を伴う自閉症のある人では、全ゲノム解析によって根本原因を特定できる確率が30〜35%ある」と語ります。「一方で、高機能自閉症で知的障害がない場合は、特定できる確率は10%未満です」
つまり、遺伝研究は支援が届きにくい軽度のケースよりも、重度の自閉症や知的障害を伴うケースでより大きな意義を持つといえます。
ただし、自閉症の治療という概念は、神経多様性を重視する人々の間では議論の対象にもなっています。彼らは自閉特性を個人のアイデンティティの一部と見なしており、それを「治療」することに対して慎重な立場を取ります。
バックスバウム氏は、「自閉症は非常に広いスペクトラムを持ち、治療や遺伝子を標的とする療法について話す際には、常に『重度自閉症』のみを対象とすることを明確にするべきです」と強調します。
「もし、スペクトラムの中で面接が少し苦手という程度の人であれば、職業訓練などで十分にサポートできます。遺伝子療法は必要ありません」
遺伝子を標的とした治療法には、さまざまなアプローチがあります。最も知られているのは、遺伝子コードそのものを修正する方法です。こうした治療は新たな遺伝的な問題を生むリスクもあり、慎重な検討が求められます。
より保守的な方法としては、健康な遺伝子を活性化する薬を用いて、異常な遺伝子の影響を打ち消すというものがあります。ただし、この方法が使えるのは、標的となる遺伝子が1つに特定できる場合に限られます。
また、直接遺伝子を修正するのではなく、下流で発生する悪影響を薬やサプリメントで補正する方法もあります。たとえば、ある遺伝子の異常によって重要な栄養素が不足する場合、サプリメントでその栄養素を補い、影響を和らげることができます。
シャーフ博士のチームは、発達の遅れが見られた4歳の男児でこの手法の効果を確認しました。男児は言葉を失い、攻撃的で興奮しやすい状態になっていましたが、生化学検査と遺伝子検査により、「TMLHE」遺伝子の異常によって深刻なカルニチン不足が起きていたことが判明しました。
カルニチンの補充を行ったところ、発達の後退が止まり、言語能力が改善し、落ち着いた行動を見せるようになったと報告されています。
他の類似疾患
これまで遺伝性疾患は一生治らないと考えられてきましたが、近年の研究はこの従来の常識を覆す可能性を示しています。
現在進行中の臨床試験のひとつに、「エンジェルマン症候群」を対象としたものがあります。この疾患は発達の遅れを引き起こし、自閉症と関連することも多く、主に母親から受け継がれる「UBE3A」遺伝子の欠陥または欠失が原因です。
健康な子どもは、UBE3A遺伝子を父母それぞれから1コピーずつ、計2コピー受け継ぎます。しかし、エンジェルマン症候群の子どもでは、脳の発達過程で父由来のコピーが自然に「オフ」になってしまうため、母由来のコピーに異常があると、脳の正常な発達が妨げられ、エンジェルマン症候群を引き起こします。
進行中の臨床試験では、父由来のUBE3A遺伝子を「オン」にするタンパク質を導入し、治療を目指しています。初期の結果では、この遺伝子を活性化した子どもたちに、認知や言語、日常生活スキルにおいて有意な改善が見られたといいます。
「最大の成果は、認知、言語、日常生活スキルにおける明確な改善が確認されたことです」と、ジョセフ・バックスバウム氏は述べています。認知と言語の改善は子どもたちの将来の生活にとって不可欠であり、自閉症や知的障害のある多くの子どもたちが生涯にわたり介護を必要とする主な理由だと補足しました。
同様の結果は、フラジャイルX症候群の男性を対象とした試験でも見られました。この疾患では、脳内のシグナル伝達に関わる分子「cAMP」が不足し、学習障害などの発達遅延が起こります。研究者たちは、cAMPレベルを高めることで成人の参加者における認知と行動が改善されることを発見しました。
「これらの試験や他の試験で確かな肯定的な変化が認められれば、誰もがこのような疾患を『治療可能』と考えるようになるでしょう」とバックスバウム氏は語ります。
全体像ではない
ただし、すべての自閉症の人が「簡単に」特定できる遺伝変異を持っているわけではありません。多くの自閉症の人は、数百から数千におよぶ遺伝子の変異を持っていることが一般的です。
バックスバウム氏は、今後の研究によって、自閉症を引き起こす主な神経生物学的な経路が特定できるようになると期待しています。すべての個別の遺伝子変異を特定する必要はないかもしれません。
その代わりに、こうした主な経路がわかれば、遺伝子そのものではなく、それらの経路を標的とした介入が可能になります。
ただし、遺伝だけが自閉症を語るすべてではありません。研究によれば、自閉症症例の約60%が遺伝的要因に関係していると推定されています。
残りの40%については、計算誤差や、まだ発見されていない新たな変異を見つけるためのサンプル数不足などが原因の可能性もありますが、もう一つの重要な要素が「環境要因」です。
1980年代から現在にかけて、自閉症の有病率は約0.06%から3.2%にまで急増しています。
この上昇の一部は、診断技術の進歩や、自閉症の診断基準の拡大によって説明できますが、それだけでは説明しきれません。アメリカ疾病対策センター(CDC)のデータによると、最も重度なケースである「重度自閉症」は、2000年代から2016年の間に約70%増加したと報告されています。
「これほどまでに有病率が上昇したのは、遺伝子の頻度が急に変わったからではなく、現在起きている環境的な要因や診断上の要素が影響していると考えるのが妥当です」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の人間遺伝学研究所長、ニール・リッシュ氏はエポックタイムズに語りました。
一卵性双生児のように、まったく同じ遺伝子を持つ双子でも、一方が自閉症で他方がそうでないケースが存在することから、環境要因の影響が示唆されるとリッシュ氏は指摘します。
「双子研究では、一卵性と二卵性で共有する環境の量が同じだという前提がありますが、それが必ずしも正しいとは限らないのです」と彼は付け加えました。
胎児期、双子は子宮内で異なる位置にいて、それぞれ異なる環境にさらされる可能性があります──例えば、どちらか一方が他方より多くの栄養を受け取る場合などです。
この科学はまだ新しいものです。
自閉症を「遺伝」だけで語ると、その全貌を見落としかねません。まるで「盲人が象を触って全体像を掴もうとする寓話」のようです。遺伝子という設計図だけでなく、環境的な要因や発達のタイミング、個々人の生物学的特性なども大切な要素であり、それらについては今後のシリーズで詳しく探っていきます。
(翻訳編集 日比野真吾)
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