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EVの環境負荷はゼロではない 汚染は従来車を上回る恐れ

2025/11/09
更新: 2025/11/09

電気自動車(EV)は走行中の排出がゼロとされ「環境に優しい」と広く認識されてきたが、近年の研究は製造や廃棄時に大きな環境負荷があることを示している。特にバッテリー生産やリサイクルの課題、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出など、EVの本当の環境影響を検証する。

従来、バッテリー式電気自動車(BEV)は内燃機関車(ICE)よりも環境に優しいとされてきた。しかし、各種研究によれば、電気自動車は運用開始から最初の数年間に排出する二酸化炭素の量がガソリン車を大きく上回り、使用するリチウム電池やブレーキシステムも主要な汚染源となっている。

アメリカのデューク大学研究チームは「地球環境変化分析モデル(GCAM)」を用いて、燃料生産、電池製造、車両組立、運用過程などを含む車両の排出を統合的に解析し、気候への影響を評価した。その結果、電気自動車は最初の2年間で排出する二酸化炭素量が従来車に比べて約30%多いことが分かった。

また研究チームは「炭素の社会的費用(SCC)」という枠組みを利用し、環境汚染を経済損失として試算した。その結果によれば、ガソリン・ディーゼル車1台あたりの年間環境損失は約1605ドル(約24万円)、同等性能の電気自動車では629ドル(約9万4千円)にとどまるという。

仮に電気自動車がすべて石炭火力で発電された電力によって充電された場合でも、損害は年間815ドル(約12万2千円)相当で、依然としてガソリン・ディーゼル車の半分である。この研究成果は10月末、学術誌『PLOS Climate』に発表された。

論文の主著者である北アリゾナ大学のパンカジェ・サダワート博士は、「リチウム採掘と電池製造が、車両初年度の二酸化炭素総排出量の約50%を占めている」と指摘する。一方、長期的に走行距離と使用寿命を考慮した場合、電気自動車の方が燃料車より環境への影響が小さくなる傾向にあるという。

リチウム電池生産による汚染

デューク大学の研究は電気自動車の長期的な利点を示したものの、分析には欠けている点も多い。研究チームは、電気自動車や内燃機関車を廃棄する際の「廃棄コスト」を計算に入れておらず、リチウム電池による汚染コストも完全には含めていない。

電気自動車用のリチウム電池製造には、大量のリチウム、コバルト、ニッケルなどの重金属が必要である。これらの金属資源は主にアフリカ、オーストラリア、チリ、中国などで採掘し、精錬・加工した後、別地域へ輸送し電池セルの組立を行う。

このため、リチウム電池の製造過程全体では、大量のエネルギーと水資源を消費するだけでなく、採掘地の生態系にも深刻な環境汚染と不可逆的な損傷を及ぼしている。

また、この研究では電気自動車の寿命を18年と仮定しているが、実際のリチウム電池の寿命は5〜10年程度にとどまる。寿命はメーカーや電池の種類、使用習慣、気候条件、充電方式、経年劣化などに左右され、使用年数とともに性能劣化は加速する。

したがって、電気自動車を18年間運用する場合、性能を維持するためには2〜3回のバッテリー交換が必要になる可能性がある。交換のたびに新たな高炭素排出を伴う製造工程が発生する。

次に課題となるのが、廃棄バッテリーの処理問題である。アメリカエネルギー研究所(IER)の報告によれば、世界で適切にリサイクルしているリチウム電池は全体の1割にも満たない。

つまり、交換済みのリチウム電池の多くが適切に処理されず、内部のリチウム、コバルト、マンガン、ニッケル、リン酸鉄などの有害物質が、生活環境や水源に深刻な悪影響を及ぼす恐れがある。

またリサイクル率の低さは、コストの高さや分離作業の煩雑さによるものでもある。再処理過程では多量のエネルギー、化学薬品、淡水を使用し、環境に二次的な汚染をもたらす可能性が高い。

「ゼロ排出」はスローガンにすぎない

多くの人々が電気自動車を「ゼロ排出」と言うが、実際にはその名にふさわしいとは言い難い。複数の研究で、製造初期に発生する「カーボン・デット(炭素債)」や電池ライフサイクル全体に及ぶ汚染、ブレーキ粉塵などの問題が指摘されており、「ゼロ排出」というイメージの裏側には無視できない環境負荷が潜んでいる。

イギリスのサウサンプトン大学の研究では、電気自動車の車体が重いため、ブレーキパッドから発生する金属粉がディーゼル排気より高い毒性を持つ可能性があると指摘した。これらの金属粒子は人間の髪の毛の30分の1程度の大きさで、肺の奥深くまで入り込み、不可逆的な損傷をもたらす恐れがある。

デューク大学の研究で示した「2年間で環境コストを相殺する」という数値も、理論上の平均値にすぎない。従来の研究では、電気自動車の製造時の排出量は同等のガソリン車より約70%多い。

したがって、環境負荷が釣り合う点(カーボンバランス)は車種やバッテリー容量、電力網のクリーン度によって大きく異なる。例えばフォルクスワーゲンの「e-Golf」は、12万3200キロを走行して初めて製造時の炭素排出を相殺でき、そこから初めて環境上の優位性が現れるという。

フィンランド・トゥルク大学の社会学的研究も興味深い知見を示している。調査によると、電気自動車の運転者の炭素フットプリント(CO2排出量)は、ガソリン・ディーゼル車の運転者よりもむしろ大きい傾向にある。その理由は、電気自動車の所有者が一般的に裕福な層であり、生活様式が消費的であるため、総合的な炭素排出量が増大しやすいからであるという。

さらに、電気自動車のオーナーは新型モデルへの買い替えを繰り返す傾向があり、加えて多くの地域で電力の主な供給源が火力発電であるため、そこから発生する汚染も無視できない。

結論として、現在の電気自動車は真の意味で環境に優しい乗り物とは断言できない。ライフサイクルを通じて脱炭素化の可能性を示しているとはいえ、その背後で発生する環境コストと汚染問題は依然深刻であり、「ゼロ排出」や「環境配慮型」というイメージを楽観的に受け入れる段階にはない。

呉瑞昌