【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

トランプ関税の合法性 最高裁で審理

2025/11/06
更新: 2025/11/06

アメリカ最高裁は11月5日、、トランプ大統領がIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に課した追加関税の合法性をめぐり口頭弁論を実施した。判事らは議会権限や経済的影響の観点から慎重な姿勢を示し、今後の貿易政策やアメリカ経済にも大きな影響を与える可能性がある。本記事では、審理の主要論点や判事・政界の動向、予測される影響について解説する。​

今回の審理は、トランプ大統領が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠として課した関税に関するものであり、他の法律に基づいて課された関税は対象外である。

IEEPAは、大統領に国家的緊急事態時に輸入を「規制」する権限を付与している。しかし、この法律が関税の賦課に適用された前例はなく、中小企業や民主党主導の複数の州は、「IEEPAの趣旨は大統領に関税権限を与えるものではない」として違法性を主張している。

この裁決の影響は重大である。トランプ大統領は「関税を通じて外国に圧力をかけ、世界的な紛争を収束させてきた」と述べ、不利な判決が下れば「経済的大惨事を招く」と警告した。

トランプ関税は越権か

2時間半に及ぶ口頭弁論では、トランプ大統領がIEEPAを根拠に世界的な関税を実施したことが越権行為に当たるかどうかが焦点となった。判事の多くは、大統領が緊急権限を用いて関税を発動することに慎重な姿勢を示した。

冒頭から3人のリベラル系判事は明確に反対姿勢を示した。保守系判事の一部も、政権側代理人である副司法長官ジョン・サウアー(John Sauer)氏に鋭い質問を投げかけ、トランプ政権の関税政策に疑問を呈した。

首席判事ジョン・ロバーツ(John Roberts)氏は、「政府がこの法律を利用し、大統領にどの国のどの製品にも、任意の額と期間で関税を課す権限を与えるというのなら――存在しないとは言わないが――それは非常に重大な権限である」と述べた。

ロバーツ判事はさらに、「IEEPAの文言、すなわち大統領が緊急時に輸入を『規制』できるという表現は、関税を課す権限まで明確に認めるものとは言い難い」と指摘した。

一方で、サミュエル・アリート(Samuel Alito)判事は「IEEPAにおける経済の『規制』という条項は、関税徴収を含む権限を政府に与えると解釈できる可能性もある」と述べた。

アリート判事は仮定を提示し、「もし議会が大統領に国立公園の運営を委ねた場合、入園料を徴収する権限も含まれると考えられるのではないか」と問いかけた。

ニール・ゴーサッチ(Neil Gorsuch)判事は権力分立の観点からサウアー代理人を長時間にわたり追及した。ゴーサッチ判事は、「もし裁判所が議会による関税権限の包括的な『委譲』を容認するなら、議会が他の憲法上の権限も無制限に放棄できることになる」と懸念を示した。

ただし、ロバーツ判事は「関税は国会の専属権限である他の税収とは異なる。関税は『対外的措置』であり、大統領は外交分野において伝統的に広い裁量を有している」とも述べた。

政財界の要人が集結

トランプ関税政策に対する異議申し立て審理には、政界・経済界の要人が多数姿を見せた。政府高官や議員に加え、意外な人物も傍聴席に現れた。

開廷直前、財務長官スコット・ベッセント(Scott Bessent)氏と商務長官ハワード・ラトニック(Howard Lutnick)氏が法廷に着席した。

さらに、通商代表ジェイミソン・グリア(Jamieson Greer)氏、下院歳入委員長ジェイソン・スミス(Jason Smith)氏、上院議員マイク・リー(Mike Lee)氏、エイミー・クロブシャー(Amy Klobuchar)氏、エドワード・マーキー(Edward Markey)氏らも出席した。

中でも話題を集めたのが、人気コメディアンのジョン・ムラニー(John Mulaney)氏の来場である。ムラニー氏は静かに法廷後方の席についた。

小企業側の代理人ニール・カティヤル(Neal Katyal)弁護士は、過去にムラニー氏のNetflix番組「Everybody’s Live with John Mulaney」に出演した経歴を持つ。また、ムラニー氏もカティヤル氏のポッドキャスト番組「Courtside」にゲスト出演していた。

カティヤル氏は番組内で「昨年まで、彼(ムラニー)が憲法好きだとは知らなかった。最高裁の事件について多くの質問をしてくるが、その質問は実に鋭い」と語っていた。

株価は弁論後に上昇

弁論当日、アメリカ株式市場は上昇に転じた。最高裁判事らがトランプ関税政策に対して厳しい質問を投げかけたことから、一部関税の撤廃期待が高まったためである。アメリカ半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)なども、前日に続く過熱感から反発した。

ダウ工業株30種平均は225.76ドル(0.48%)上昇の4万7311.00ドル、S&P500は0.37%高の6796.29ドル、ナスダック総合指数は0.65%高の2万3499.80ドルで取引を終えた。

経済への影響と今後の展望

トランプ大統領は前日の声明で、「最高裁の判決はアメリカにとって生死を分ける瞬間だ」と述べた。

もし最高裁がトランプ敗訴と判断すれば、政府は既に徴収した関税を返還しなければならなくなる。この点について、バレット判事は「払い戻しの手続きは非常に混乱する可能性がある」と懸念を示した。

アメリカ税関・国境警備局の9月23日時点のデータによれば、これまでに連邦政府が関税から得た歳入は900億ドル(約13兆5千億円)に上る。

カティヤル弁護士は、「裁判所は『今後の効力のみを有する』判決を出すこともでき、その場合、政府は返金する必要がない」と述べた。

トランプ政権第1期に商務長官を務めたウィルバー・ロス(Wilbur Ross)氏は、弁論後にCNNの取材に応じ、「原告側の主張は『関税は実質的に税であり、課税権は議会に専属する』というものだ。しかし緊急権限のもとでは『許可料』を課すことができ、これも一種の税として扱える」と述べた。

ロス氏はさらに、「もし最高裁がそのような粗探し的な理屈に頼って国際貿易や金融市場に混乱を引き起こすなら驚きだ。なぜなら多くの相手国はすでに関税支払いを受け入れ、我々の輸出品関税を引き下げているからだ」と語った。

ロス氏はまた、「最高裁が判断を覆すとしても、対象はごく一部の関税に限られるだろう」との見方を示した。

もし最高裁がトランプ大統領の主張を認めれば、大統領は議会の関与なしに自ら「緊急事態」と認定した状況下でアメリカ経済を直接規制できる広範な権限を手にすることになる。

張婷