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欧州議会の機密を中共に漏洩 元議員スタッフら2人に対する公判始まる

2025/08/06
更新: 2025/08/06

欧州議会の情報を中国共産党(中共)側に漏洩したとしてスパイ容疑で起訴された欧州議会議員の元スタッフに対する公判が、8月5日、ドイツ・ドレスデン高等裁判所で始まった。被告は中国系ドイツ人のジャン・グオと、共謀したとされる中国系女性ジャキ・Xの2人。

ジャン・グオ(Jian・ G)は2002年から中共の情報機関のために活動していたとされ、2024年4月に逮捕された。捜査によるとジャン・グオは民主活動家を装いながら、欧州議会やドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」内部での職務を利用し、大量の政治的機密情報を中国に流していた。ジャン・グオは全ての容疑を否認している。

ジャキ(Jaqi)・ Xはライプツィヒ・ハレ空港の物流会社での職務を通じて、軍事装備品の輸送やドイツ防衛企業の関係者の動向に関するデータをジャン・ グオに提供した疑いが持たれている。2024年9月に逮捕された。中共の情報機関とのつながりについては何も知らなかったと述べた。

「特に重大」な事件、約2か月にわたる審理

ドイツ連邦検察庁は声明で、本事件を中国(中共)のためのスパイ活動であり、特に重大な内容を含む」と指摘。主審はドレスデン高等裁判所の第4刑事部が担当し、3人の裁判官が審理にあたっている。現時点で裁判所は9月30日までの計14日間の審理日程を設定。

ジャン・グオは、欧州議会のドイツ議員マクシミリアン・クラー氏の元助手。クラー氏はAfDの有力政治家で、2019~25年にかけて欧州議会議員を務め、国際貿易、人権、安全保障・防衛委員会などに所属していた。クラー氏は事件発覚後、ジャン・グオとの関係を即座に解除し、今年初めに欧州議会議員を辞任した。今回の裁判で証人として出廷予定だ。

500件以上の機密文書が中共に漏洩

調査によると、ジャン・ グオは若い頃にドイツに留学し、その後ドイツ国籍を取得。2019年以降、クラー氏の事務所で勤務していた。その職務を通じて、欧州議会やAfD内部の情報を入手し、合計500件を超える「特に機密性の高い情報」を中共に提供していた。中にはEUの政策決定に関する内容や、AfDの指導者であるアリス・ワイデル氏やティノ・クルパラ氏に関する情報も含まれていた。さらに、中共の批判者を装ってオンラインで活動し、ドイツ在住の中国人民主活動家の個人情報を収集し、中共に送信していた。

ドイツメディアは昨年9月、ジャン・グオが民運団体「民陣ドイツ」の理事を務めていたことや、複数の民主会議で主催者スタッフとして個人情報や会議内容にアクセスできる立場にあったことを報じた。

ジャン・グオは複数の民主会議で主催チームのメンバーとして、参加者の個人情報や会議内容を把握していた。彼はチベット人組織にも接近。2018年に訪問団を率いてインドのダラムシャーラーを訪れ、ダライ・ラマと面会した。

また、クラー氏を中国に連れて行った。2019年11月、クラー氏はビジネスクラスで北京を訪問し、高級ホテルに6日間滞在した。この旅行の費用は、ファーウェイや中国石油天然気集団公司などが負担した。ジャン・ グオはさらに、AfDの政治活動家に対し、2021年の北京冬季オリンピック期間中の訪中機会を提供し、VIPには新型コロナウイルス関連の制限を緩和する約束をした。

クラー氏は中共建国72周年を祝うメッセージを発表し、中共の公式行事に参加。また、欧州議会で新疆ウイグル族の強制労働に関する制裁案に反対票を投じた。

ドイツ情報機関の調査

ドイツ検察は、ドイツ連邦憲法保護庁の調査に基づきジャン・ グオを訴追した。ドイツ情報機関は2007年にジャン・グオに注目し、彼がドイツ連邦情報局に情報提供者として売り込みを図ったことを把握。ザクセン州憲法保護庁は彼を監視対象とし、2015年から中共のためのスパイ活動の疑いを強めていた。

共謀者とされるジャキ・Xは、ライプツィヒ・ハレ空港の物流会社での職務を通じて、フライト、貨物、乗客に関する情報、特に武器輸送やドイツの軍需企業関係者のデータをジャン・グオに提供した疑いがある。

ドイツ情報機関は2007年から警戒

ジャン・グオに対する訴追は、ドイツ国内情報機関連邦憲法擁護庁の長年の捜査に基づくもの。同庁は2007年、ジャン・グオがドイツ連邦情報局に接触し、自らスパイとしての協力を申し出たことから、注視を開始。ザクセン州憲法擁護局が2015年から対中スパイ活動の疑いで本格的な監視を行っていた。

共謀者とされるジャキ・Xは、勤務先である空港物流会社を通じて、軍事関連の貨物や関係者に関する情報をジャン・グオに提供。中には武器輸送に関する詳細も含まれていたとみられる。

国際的な中共スパイ活動への懸念

中共のスパイ活動は近年、ドイツだけでなく、国際的に大きな問題となっている。

アメリカでは、2024年9月、ニューヨーク州の元副首席補佐官リンダ・サンが中共のためスパイ行為を行っていたとして起訴された。台湾や新疆に関する議論を妨害し、州知事の招待状を偽造して中共当局者の不法入国を支援していたという。

ベルギーでは2023年12月、国会議員フランク・クレールマンが長年にわたり中共国安部と連携し、ウクライナへの武器輸送に関する意思決定に影響を与えていたことが発覚。

イギリスでは2024年4月、議会の研究助手が中共に法的情報を提供していたとして起訴された。

チェコでも2023年、中共の情報機関が偽のLinkedInアカウントを使って学者に接近し、世論操作や批判の抑圧を試みていたと報告されている。

ドイツ国内でも関連事件が相次いでおり、2024年4月にはデュッセルドルフとバート・ホンブルクで3人のドイツ人が逮捕された。3人は中国国家安全部のために、船舶エンジン、ソナーシステム、ドローン技術など軍事技術に関する情報を収集していた疑いがある。

さらに同年10月には、中国系女性がドイツの国防関連施設に関するスパイ活動を行っていたとして逮捕され、その背後にはジャン・グオの関与が指摘されている。

また、2024年12月には、バルト海沿岸で海軍基地を撮影していた中国系男性が当局の捜査を受けた。

ジャン・グオの事件は、中共が西側諸国の政治・経済領域において情報活動を活発化させている実態を改めて浮き彫りにしている。

オーストラリアの学者クライブ・ハミルトン氏とドイツの中国研究者マレイケ・オールベルク氏は、2020年の著書『沈黙の征服:中国はいかにして西側諸国の民主主義国家に浸透し、世界秩序を再構築するのか』の中で、中共が組織的な浸透工作を通じて西側の政策決定や言論空間を監視・操作しようとしていると警告している。

ドレスデンのこの事件は、EUおよびドイツの政治体制の脆弱性を浮き彫りにするとともに、国際社会に対しても深刻な警鐘を鳴らすものである。

 

王亦笑