アラスカ州産の液化天然ガス(LNG)が、807マイル(約1300km)のパイプライン建設の加速と、廃止された輸出ターミナルの復活により、3年以内に東アジアの発電所で利用される可能性があると、アラスカ州のマイク・ダンリービー知事が3月14日、CERAWeek by S&P Globalで世界のエネルギーリーダーに語った。
「すべての許可を取得し、訴訟にもすべて勝訴しました。我々には、このガスを求めるアジアの同盟国があり、米国大統領の支持も得ています」と述べた。
アラスカ・ガスライン開発公社(AGDC)は、ノース・スロープのプルドーベイから1日あたり約33億立方フィート(Bcf/d)の天然ガスをケナイ半島のニキスキへ輸送する計画を持っている。これが実現すれば、米国で9番目のLNG輸出ターミナルとなり、西海岸では唯一のLNG輸出施設となる。
AGDCは、2013年に州議会の決定により設立された独立系の州営法人であり、翌2014年に「アラスカ州を代表して液化天然ガス(LNG)プロジェクトを開発する」任務を正式に委託された。
このパイプラインおよびターミナルの建設計画は、2017年に連邦エネルギー規制委員会に初めて提出され、2020年5月にはトランプ政権のもとで承認を受けた。
バイデン政権が2022年にこのプロジェクトを承認したものの、バイデン前大統領が発令した約80の大統領令の影響で、LNGプロジェクトの進行は停滞を余儀なくされた。
しかし、トランプ大統領がホワイトハウスに復帰したことで状況が変わった。1月20日の就任初日、トランプ氏は「米国のエネルギーを解放する」ことを目的とした一連の大統領令を発令した。
その中には「アラスカの膨大な資源ポテンシャルを活用する」命令が含まれており、連邦機関に対して「エネルギーおよび天然資源プロジェクトの許可・リースの迅速化」を指示し、「アラスカの液化天然ガス開発の優先化」、そして1960万エーカーに及ぶ北極野生生物保護区および最大2300万エーカーの国家石油備蓄地での石油・ガス掘削の拡大を求めている。
この包括的な措置により、「2021年1月20日から2025年1月20日までに制定、発令、または適用されたすべての規制、命令、指針文書、政策、その他の政府機関による同様の措置」が撤回され、バイデン政権下で導入されたアラスカに関する約70の規制が実質的に無効化された。
アラスカ LNG輸出再開へ
ダンリービー氏は、アラスカ州がLNG開発の先駆者であり、1969年には日本への初のLNG輸出を行ったことを強調した。LNGを採算の合う規模で輸送するには、プルドーベイから沿岸部の液化施設へのパイプラインが不可欠だったという。
現在、ニキスキLNGターミナル(1日あたり0.2 Bcfの処理能力)は2017年に運用を停止している。コノコフィリップス社は2015年までクックインレット産のガスをアジア市場へ輸出していたが、ノース・スロープ油田と結ぶパイプラインがなかったため、採算が取れなかった。
AGDCは、新たなLNGプロジェクトを進めており、プルドーベイに約200エーカーのガス処理施設を建設する計画だ。この施設には二酸化炭素を分離・回収・圧縮する設備が導入され、回収した二酸化炭素はプルドーベイの貯留層へ再注入される。
ニキスキのLNGプラントは、年間最大2千万トンのLNGを処理・貯蔵・輸出する能力を持ち、2バースの海上ターミナルを通じて、大型LNG輸送船Q-Flex(貨物容量21万立方メートル、約7万4160トン)に対応する。
AGDCは、このプロジェクトによりアラスカからのLNG輸出が拡大し、米国の年間輸出額が100億ドル増加すると見込んでいる。また、建設期間中に最大1万人の雇用を創出し、操業開始後も約1千人の雇用が生まれるとされている。
「信じられないかもしれないが、必要な許可はすべて取得済みだ……すぐにでも開始できる」とダンリービー氏は述べ、「ガスの供給開始まで約2年半を見込んでいる」との見解を示した。
同氏によると、AGDCはパイプラインが3年以内に日量8万バレルの原油を輸送し、2030年から2031年にはプルドーベイから約49万5000バレルを運ぶ計画を立てている。さらに、2023年に承認されたウィロー油田開発計画により、追加で25万バレルが供給される予定で、2030年から2031年には総輸送量が70万バレルを超える見込みだ。
AGDCのLNGプロジェクト、州内供給と国防の要としての役割も強調
AGDCの計画によれば、直径42インチ(約107センチ)のパイプラインは、クックインレットや活断層などの水域を横断する部分を除き、地下に埋設される予定だ。また、州内の複数地点に供給拠点を設けることで、遠隔地での燃料精製、鉱業、産業開発に不可欠なライフラインとなる。
「このパイプラインは大規模だが、3段階に分けることでコストを抑え、初年度から州内への供給を開始できるようになる。軍事基地への供給も確保できる」とアラスカ州のダンリービー知事は述べた。
同氏によると、プロジェクトの第一段階となる州内供給の部分は、国防にとっても極めて重要だという。
「まずは軍事基地にガスを届ける」と述べ、州内には多数の主要な軍事施設が存在することを指摘した。
「アラスカはロシア領までわずか2.5マイル(約4キロ)だ。また、北朝鮮のミサイル射程内にあり、現在も中国の軍艦が北極圏を航行している」
「ロシア軍機が米国領空へ接近するたび、月に数回は追い払っている。そのため、軍事基地は常に万全の稼働状態を維持し、燃料や電力を懸念することなく運用できる必要がある」と強調した。
知事、3月17日に日本・韓国との貿易交渉へ
ダンリービー知事は、3月17日に日本と韓国を訪れ、LNGの潜在的な買い手と貿易交渉を行う予定だ。
「タイでも交渉の場が設けられる予定だ」と述べ、同国もアラスカ産LNGに高い関心を示していることを明かした。「エネルギー供給を多様化できる点が非常に魅力的で、50〜60年分のガス供給を確保できる可能性がある」
ダンリービー氏は、米国最大のエネルギー関連会議である「CERAWeek」の最終日、登壇者の一人として講演を行った。この5日間の会議には、89か国から450人の最高経営責任者(CEO)や政府関係者を含む1万人が参加し、エネルギー業界の最新動向について議論が交わされた。
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