
トランプ大統領の第2期目、70件以上の訴訟に直面
トランプ大統領の2期目政権開始からわずか1か月で、70件以上の訴訟に直面している。これらは政府の財政運営、連邦職員の人事、移民政策など、多岐にわたり、一部の訴訟は互いに重複している。
この中には最高裁判所まで持ち込まれる可能性のある案件もあり、大統領の行政権の範囲を明確にする重要な判例となる可能性がある。
訴訟の多くは、トランプ大統領が就任後に発令した大統領令を巡るものだが、中には個別の公務員解雇に関する訴訟も含まれている。例えば、全米労働関係委員会(NLRB)の元委員長の解任をめぐる訴訟がその一例だ。
以下、連邦裁判所が政権の決定を差し止めた主な訴訟をまとめた。政権側はすでに複数の判決に対し控訴している。
出生地主義(出生による市民権)
状況 複数の裁判所が執行停止命令を発令
トランプ氏は、大統領令により違法移民の子供や、一時的な合法滞在者の子供に対する出生地主義(出生による市民権)を廃止した。しかし、この政策を巡り4件の訴訟が提起され、いずれも裁判所が執行停止命令(一時的差し止め命令)を出している。
トランプ氏は、この大統領令が憲法修正第14条に基づく市民権規定および連邦移民法に則っていると主張している。一方、複数の州政府や人権団体は、これが憲法および移民法に違反すると反論している。
憲法修正第14条の該当部分は下記の通りである。
「合衆国内で生まれまたは合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である」。
現在の争点は、「合衆国の管轄下にある者」に違法移民が含まれるかどうかだ。
現時点で、少なくとも4つの連邦裁判所が大統領令の施行を一時的に差し止める命令を発令している。
DOGEの財務省データアクセス問題
状況 2件の裁判で制限命令を発令
複数の州政府や労働組合が訴訟を起こし、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)が財務省が保有する国民の個人情報にアクセスすることを阻止しようとしている。
トランプ政権は、個人情報の取り扱いに関する複数の法律に違反し、大統領権限を逸脱しているとして訴えられている。また、州政府側は、DOGEが議会が州向けに承認した支払いを阻止しようとしていることが立法権の侵害にあたると主張している。
一方、トランプ政権は州政府には訴訟適格がないと反論し、法律違反の証拠も示されていないと主張。また、「行政部門が、政府機関の活動を政治的責任のもとで適切に監督する能力」があるとして、訴訟自体の正当性を疑問視している。
現時点で少なくとも2つの裁判所がDOGEによる財務省データへのアクセスを制限する命令を発令しており、今後の司法判断が注目される。
特別検察官の解任
状況 解任差し止め、初回の控訴は棄却
特別検察官ハンプトン・デリンジャー氏は、2月7日にトランプ大統領によって解任されたことを不服として訴訟を提起した。デリンジャー氏は、連邦法により特別検察官の解任は「職務怠慢、義務の放棄、不正行為」の場合に限られると規定されているにもかかわらず、任期5年を満了する前に解任されたと主張している。
一方、トランプ政権は憲法第2条を根拠に、大統領には特別検察官を随時解任する権限があると主張し、正当な行政権の行使であると反論した。
ワシントンD.C.の判事は、デリンジャー氏の職務継続を認める判決を下した。
トランプ政権はこの決定を不服として控訴し、現在、最高裁に審理を求めている状況だ。
FBI職員リストの公開問題
状況 司法省がリストを公開しないことに同意
複数の匿名のFBI職員とFBIエージェント協会が、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件の捜査への関与について司法省(DOJ)から調査を受けたことを理由に、同省を提訴した。
原告側は、トランプ政権がこの調査リストを公表すれば、職員の名誉が毀損されると主張。また、政権が政治的信条を理由に報復を企てているとして、憲法修正第1条(言論の自由)に違反すると訴えている。
トランプ政権は一部反論を展開しつつも、リストを公開しないことに同意した。
政府支出凍結
状況 2人の裁判官が差し止め命令を発令
トランプ大統領は、政府機関の予算執行を制限する大統領令を複数発令した。これを受け、行政管理予算局(OMB)は、法律の範囲内で支出を一時停止するよう指示する通達を出した。
しかし、ワシントンD.C.の裁判所がすぐに執行停止命令を出し、これを受けて米国行政管理予算局OMBは通達を撤回した。
それにもかかわらず、ワシントンD.C.とロードアイランドの裁判所は、政権が通達を撤回した後も支出を停止し続けていると判断し、追加の差し止め命令を発令した。
これまでに、複数の州政府や非営利団体がこの支出停止を巡り訴訟を提起しており、政権の措置が行政手続法や憲法の規定に違反し、権限を逸脱していると主張している。
一方、トランプ政権は、支出の一時停止は行政機関の正当な権限の範囲内であり、違法ではないと反論している。
連邦職員の退職勧奨プログラム
状況 判事がプログラムの差し止めを解除
トランプ大統領は、連邦職員を対象に一定期間の猶予を設けた早期退職プログラムを提案した。このプログラムでは、職員が退職を決めた後も数か月間給与を受け取ることができる仕組みになっている。
これに対し、マサチューセッツ州で複数の労働組合が訴訟を提起し、「政府の制度導入が混乱を招き、恣意的である」と主張した。
労働組合側は、トランプ政権が行政手続法に違反し、恣意的かつ気まぐれに制度を運用しているうえ、議会の承認を得ていない給与を職員に支払うよう義務付けたと主張している。
これに対し、政権側は、原告には訴訟を起こす資格がなく、早期退職プログラムによって直接的な被害を受けたとは言えないため、法的な根拠がないと反論した。
また、早期退職の回答期限を延長するという原告の要求を認めれば、問い合わせや申請者が増えることで、むしろ混乱を招くと主張している。
マサチューセッツ州の判事は当初、このプログラムを一時的に差し止めたが、後に原告に訴訟資格がないと判断し、差し止めを解除した。
USAID(米国際開発庁)
状況 判事が職員の一時休職を差し止め
ホワイトハウスとDOGEは、米国際開発庁(USAID)を税金の無駄遣いや不適切な支出の温床とみなし、改革の対象として注目していた。
トランプ大統領はUSAIDの廃止を試み、職員を一時休職させようとしたが、これに対し米外務職協会(American Foreign Service Association)および全米政府職員連盟が訴訟を提起した。
原告側は、トランプ政権が憲法が求める適正な法律の執行を行っておらず、さらに議会の立法権を侵害し三権分立を損なっていると主張している。
これに対し、政権側は、裁判所にはこの訴訟を扱う権限がなく、大統領の外交権限は非常に広範であり、通常は司法審査の対象にならないと反論した。
しかし、ワシントンD.C.の裁判所は、政権がUSAIDの外国援助を停止し、職員を一時休職させることを差し止める命令を出した。
HHSデータセット削除問題
状況 連邦裁判所が一時的差し止め命令を発令
医療関連の活動団体「Doctors for America(DFA)」は、人事管理局が大統領令に基づき、政府機関のウェブページやデータセットを削除するよう指示したのは違法だとして提訴した。
訴訟によると、人事管理局にはそのような権限がなく、また被告の一つである保健福祉省(厚生省)は、ウェブページやデータセットを削除したことで行政手続法に違反したとされている。
トランプ政権は、DFAには訴訟を起こす資格がなく、また今回の措置は行政手続法の適用対象ではないため、訴訟の対象にならないと反論した。
しかし、2月に連邦裁判所はDFAの申し立てを認め、一時的差し止め命令を発令。政権に一部のウェブページおよびデータセットを復元するよう指示した。
NIHの費用率
状況 連邦裁判所が差し止め
多くの州政府が、米国立衛生研究所(NIH)を相手取り、間接経費率の引き下げを巡り訴訟を起こした。間接経費とは、特定の研究プロジェクトに直接関係しないが、研究機関の運営に必要な費用を指す。
州側は、NIHが発表した間接経費率の変更通知が、行政手続法に違反する、恣意的で合理性に欠ける決定であり、歳出法にも違反していると主張した。
NIHは、2023年度に間接経費として90億ドルを割り当て、これまでの平均的な間接経費率は27~28%だったと説明している。
2月7日の通知では、新たに間接経費率の上限を15%とし、「NIHは、助成金を慎重に管理し、納税者の資金が国民の利益となり、生活の質を向上させる形で活用されるよう努める責務がある」と強調した。
しかし、マサチューセッツ州の判事は、この削減計画の実施を差し止める命令を発令した。
トランスジェンダー囚人
状況 連邦裁判所が執行停止命令を発令
トランプ大統領は1月20日、大統領令を発令し、司法長官および国土安全保障長官に対し、「男性を女性刑務所や女性収容施設に収容しないよう徹底すること」を指示した。
さらに、連邦刑務所局に対し、「受刑者の見た目を異性に近づける目的で、いかなる医療処置や治療、薬の費用に連邦資金を使わないよう」を命じた。
これに対し、トランスジェンダーと自称する受刑者3人(匿名)が政権を提訴し、政権が性別を理由に差別をしていると主張。
また、必要な医療ケアを受けられないことが、憲法で禁止されている「残虐で異常な刑罰」にあたるとも訴えている。
これに対し、政権側は、原告の主張が認められる可能性は低く、さらに刑務所訴訟改革法により、連邦裁判所がこの訴訟を審理する権限はないと反論した。
しかし、ワシントンD.C.の裁判所は、女性と自認する男性受刑者を男性刑務所に移送することを禁止する命令を出した。
ジェンダー関連の大統領令
状況 2人の連邦判事が差し止め
2つの支援団体と個人の原告が、トランプ政権の2つのジェンダー関連の大統領令が憲法違反だとして訴訟を提起した。
原告側は、政権が「性別適合医療」を提供する団体への資金提供を制限することで、議会の立法権を侵害し、憲法に違反していると主張している。また、憲法修正第5条が保障する平等保護の原則や、オバマケアにおける性差別の禁止条項にも違反していると主張。
これに対し、政権側は訴訟は時期尚早で、原告が求める救済措置が広範すぎると反論したが、裁判所は2月13日、全米での一時的差し止め命令を発令した。政権側は、性別を理由にした差別は行っていないとも主張している。
トランプ氏の大統領令には、「子供の性別を変えられるという急進的で誤った主張のもと、医療従事者が影響を受けやすい子供たちに対し、不妊手術や身体に損傷を与える処置を行うケースが増えている」と記されていた。
2人の連邦判事が、この大統領令の施行を一時的に差し止める命令を出している。
対外援助の一時停止
状況 連邦裁判所が差し止め
複数の非営利団体がトランプ政権を提訴し、議会が承認した対外援助資金の支出をブロックすることは憲法と連邦法に違反すると主張した。
トランプ氏の大統領令は、「アメリカの対外援助の仕組みと官僚機構は、アメリカの国益と一致しておらず、多くの場合、アメリカの価値観と対立している」として、対外援助を90日間、一時停止することを指示している。
しかし、連邦裁判所はこの対外援助の一時停止を差し止める命令を発令した。
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