米国気鋭のアメコミ作家、初来日…茶道の精神に古代中国見つける

2024/08/09
更新: 2024/08/10

「私たちの人生はまるで一冊のコミックのようだ」。こう語るのは、スターウォーズの漫画化を手がけ、数々の賞に輝いたアメリカン・コミック作家の大雄(DaXiong、ダーション)氏。次のページに何が待ち受けているのか、主人公自身も知らない――そんなワクワク感と冒険心が、人生という一冊の「漫画本」に詰まっているという。

畳の部屋を楽しむ大雄氏(大紀元)

今回の来日では初めて茶道を体験、師範のお手前の動作や、日本式の庭園に込められた「侘び寂び」の美学に魅了された。「海外から日本に来ると、その文化的特徴に気づくことができる。同じお茶の文化でも、中国には『出会いは再会である』という考え方があり、日本の『一期一会』とは全く異なる」と大雄氏は語る。「日本は唐の文化を継承し、融合と変化を経て、伝統を保ってきた。古代中国の文化には、自制の大切さを説く『克己復礼』というものがあったが、現代の中国には欠落している」。

茶室のインスピレーション

茶室では、「白馬入蘆花(白馬、蘆花に入る)」の揮豪が書かれた掛けがあった。師範によると、一面に広がる白い世界に白い馬が溶け込む場面を表したもので、主人と客の隔たりなく同じ茶室で時を共にするという茶道の精神やを体現したものだそうだ。

揮毫「白馬蘆花に入る」(大紀元)

これに対し、大雄氏は自身の絵画に「翠鳥過蒼林(翠鳥、蒼林を過ぐ)」と書いて、返礼とした。「これはちょうど対句のようだ。人生は一瞬たりとも止まることはなく、常に次の目的地を目指さなければならないという意味だ。帰郷の意味合いに対し、私は別れを告げる一句で返した。このような文化的、芸術的な対話ができることも一つの醍醐味ではないだろうか」。

「実は、『翠鳥過蒼林』と返したのは完全なインスピレーションだ」と大雄氏は語る。「中国には『文章本天成、妙手偶得之』という諺がある。優れた創作は全て天が与えるものであり、芸術家や文筆家は己の技能を高めることで、自然と良い作品が作れるようになる、という意味だ。さらに、『熟能生巧(練習によって技能を身につける)』、『巧而成精』(技能が熟達につながる)、そして『精而通神(熟達が悟りにつながる)』という三つの言葉がある。私たちにできることは、ただひたすら自らのスキルを磨き続けること。インスピレーションは追求しても、必ずしも得られるとは限らないのだ」。

大雄氏と師範の出会いは、まさに一期一会となった。「私が彼女に送った絵は、心を込めて描き上げた自信作だ。もちろん、作画をしている時は、この絵が海を渡ることなど知る由もなかった。『翠鳥過蒼林』という一句も、茶室で突然浮かんできたものだ。シチュエーションは完璧だった。しかし、人生の経験や文化的な蓄積がなければ、その場で一句を思い浮かべることはなかっただろう。現代科学風に言えば、私は師範と会ったとき、量子のもつれが起こったのかもしれない」

シェフと漫画家の共通点

「芸術家としての私の仕事は、ただレベルの高い作品を世に送り出すことではない。多くの人々に愛されるためには、彼らの好きなものを描かなくてはならない。日本のアニメやアメコミ、ヨーロッパのコミックなど、様々なスタイルを描き分けることで、顧客のニーズに応えるのだ」。

作画に勤しむコミックアーティストの大雄氏(大雄氏提供)

大雄氏は漫画家の仕事はシェフと共通点を持っていると指摘した。「例えていうならば、レストランのシェフがグルメ客の味覚に合わせて料理を作るようなものだ。しょっぱいものが好きなお客さんに甘い料理を提供しても評価されない。『この甘い料理は高級だ』といくら言っても、お客さんのニーズに会っていなければ無駄だ」。

「芸術は単なる技術やスタイルではなく、人々の生活や感情、文化の融合を表現するものだ」と大雄氏。表面的な作画スタイルや画力だけではなく、作家と読者の間で一種の共鳴が必要だと強調した。

「魂の共鳴や理解が芸術の力であり、文化の力だ。この力が私たちの意志を最もよく伝える方法だ」「今日の社会では多くの人が外見や職業、お金など表面的なものしか見て魂にまで注意を払う人は少ない。魂の共鳴に達することで、人間に共通する本質を見つけることができるのだ。

蘇る故郷の思い出

5月31日、東京都内で長編アニメーション映画『長春 -Eternal Spring』の上映会が開かれた。本作は、2000年代初頭の中国東北部・吉林省長春市で起きた法輪功弾圧下の実際の出来事を描いた長編アニメーション・ドキュメンタリーで、大雄氏は作画を手掛けた。事件から20年あまりの歳月が経つなか、大雄氏は米国や韓国に渡った事件関係者の証言をもとに、繊細なタッチと3Dアニメーションで当時の情景をよみがえらせた。

映画の制作に取り掛かるコミックアーティストの大雄氏(大雄氏提供)

「もし私が日本の漫画に出てくるようなキャラクターだったら、こんな危険な目に遭わずに済んだはずだ。でも残念ながら、ぼくたちはスーパーサイヤ人ではない」。上映後の懇談会で、大雄氏は冗談交じりに語った。

映画の制作には6年間の月日がかかった。「制作は技術的な融合の過程でもあった。私たちのチームは少人数で構成され、私以外はすべて西洋人で、中国での生活経験はなかった。そのため、技術的な難しさがあったが、一致団結して取り組むことができた」と大雄氏振り返る。「制作に6年間をかけたのは、ただ時間をかけただけではなく、プロジェクトへの信念や忍耐も表れている」

「『長春』の作画をする際には、ただの観光地紹介ではなく、そこで生活している人々の生き様や空気感を表現することに注力した。東京の象徴として浅草寺を思い浮かべるが、東京の姿は人々の生活の営みにある。長春をただの観光地として描くのではなく、そこに住む人々のリアルな生活感を表現することに力点を置いた」

作画する大雄氏。『長春―Eternal Spring』(主催者提供)

幼い頃から日本の漫画やアニメにも親しみ、『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』などが好きだったという大雄氏。漫画を始めた頃を振り返り、「漫画は本当に素晴らしく、幸せにしてくれるものだと思った。様々な夢や希望を描くことができるものだ」と出発点を語った。

大雄氏は、中国共産党の最大の武器はメディア統制と情報封鎖だと指摘する。「20年前にテレビジャックをした人々も同じ問題に直面していた。彼らは恐怖とプレッシャーの中で、なぜ立ち向かえたのか。それは、自分の国と国民への愛があったからだ。愛があったから勇気を出せた」

日中の現実を憂う

大雄氏は茶道を通して「刹那すなわち永遠」という考え方への理解を深めた。「人生において、この瞬間こそが永遠なのだ。過去も未来もなく、ただ現在だけがある。この瞬間が私たちの人生で最も美しい状態だ」。

「人生のこの瞬間に、相手に最も誠実で美しい態度で接する。過去の人生がどうだったか、将来どのような人生を送るのかは関係ない。この瞬間に純粋な自分になって、相手に敬意を持って接する。茶道の師範からはこのような気質を体得することができた。まさに一期一会だ」

5月31日、実話をもとにして作られた長編アニメーション映画「長春」上映会が開かれた。アーティストの大雄(ダーション、本名・郭競雄、向かって左)とジェイソン・ロフタス監督が会場からの質問に応じた(佐渡道世/大紀元)

日本文化の神髄に触れた大雄氏だが、緊張感漂う両国間の現実を憂いている。「残念なことに、全ての人が同じような理解を持つことはできない。一部の中国人は日本に来て、日本人の友好的で親切な態度に触れ、日本の秩序と文明を感じることができるのに、素直に受け入れようとしない。彼らは恨みの色眼鏡を通して周りの物事を見ているのだ」。

「海外に住む中国人も同じだ。中国共産党が教え込んだ闘争哲学を捨てなければならない。それは宇宙の本質とかけ離れた考えだ」。

今の中国人には、他者に対する理解と善良さが必要だと大雄氏は語る。「善良さを持つことで、世界をよりよく理解できるようになる。中国では昔から、天には徳があり、道(どう)があると信じられてきた。人は自らを高め、道に適合するように生きなければ、その存在を体得することはできない。善は一つの状態であり、あなたが善であるとき、この世界も良い一面をあなたに見せるだろう」。

「最高の善とはなにか。それは水のように静かに流れるもので、誰の注意も引かない。茶室では決しては他者を悪く言わない決まりがある。その意味では、茶道はまさに天の道を体現していると言えるだろう」

(了)

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。