オピニオン 20年前から改善しない

【秦鵬の視点】中国を揺るがす食用油問題、解決できない六つの理由

2024/07/16
更新: 2024/07/16

オピニオン

液体燃料タンクローリーによる食用油運搬問題は約20年前に中国で発覚したのに、なぜ今日に至るまで、市民は安心して使える食用油を得られないのだろうか。この問題の背景には、恐ろしい六つの理由が隠されている。
中国共産党政府はこの問題の調査を命じており、それに、この件については、当時の習近平がすでに指摘している以上、つまり改善できないのなら「共産党は権力を放棄すべきだ」と言ったのだ。

中国を揺るがす食用油問題、解決できない六つの理由

特に最近、北京の「新京報」による先週の調査が大きな注目を集めている。
7月8日、国有企業の中国穀物備蓄会社はシステム全体の検査を行い、これにより液体燃料用タンクローリーを使った食用油運搬問題の実態が裏付けられた。数億人の中国のネットユーザーがこの問題についてオンラインで議論を展開し、数日間の沈黙を破って、共産党系のメディアも「このような無責任な行為は消費者の生命を危険にさらす」と報じた。
9日には、法律専門家が犯罪に対する責任追及を主張した。同日、山東省の法律家、劉書慶氏が公安部に告訴状を提出し、「有害食品の生産・販売に関する罪」での刑事告発を要求した。これを受けて、国務院食品安全局は調査チームを立ち上げ、調査結果を迅速に公表することを約束した。

多くの人々がこの事態に衝撃を受けている。その理由は次の通りである。

この事件には、中国共産党が所有する国営企業や、数多くの著名な食品メーカーが巻き込まれている。あるインターネットユーザーは、「下水から採取した地溝油、メラミン、スーダンレッド染料(有機合成染料の一種)、食品添加物、老干媽(辣油や調味料ブランド)、中粮集団(国営食品農産物企業)など、これらはすべてその分野でトップクラスの企業である。まして、小さな工房がどのような状況に置かれているかを想像してみてほしい」と述べた。

ネットユーザーの一人が液体燃料用タンクローリーの運行記録を調査した結果、多くのタンクローリーが食用油のみならず、飼料や疑わしい危険化学物質をも運んでいることが明らかになった。

ほとんどの人が、問題のある油を少なくとも一度は使用していたことが判明した。特に、バルク販売(大量にばら荷でまとめ買いされた商品が、個別に分解された単位でばら売りされること)される油の主要な顧客は学校であり、清華大学、北京大学、中央戯劇学院、北京語言大学、北京科技大学、中国人民警察大学、対外経済貿易大学など、北京にある多くの名門大学がこれに含まれている。この衝撃的な事実を報じた有名なセルフメディアの記事は、当局によって削除された。

多くの人々が絶望するのは、同様の事件が約20年前にも発生していたという事実である。2005年、広西新聞網の「南国早報」がこれを報道し、2015年には湖南の記者が「真相大調査」を通じて再度明らかにした。

10年以上前、中国共産党の習近平は、食品安全が長期にわたり適切に管理されなければ、統治能力に疑問が生じると述べていた。「我々の党が中国を統治しているにも関わらず、食品安全を長期にわたって適切に管理できない場合、人々は我々の資格に疑問を抱くでしょう」との発言がある。

これは多くの人々の絶望感を深めている。党首の指示でさえ問題を解決できないのであれば、市民はどのような期待を持てるのだろうか。

長期にわたって見ると、中国の食品安全に関する問題は20年以上続いており、改善されるどころか問題はさらに拡大している。2003年には質の悪い粉ミルクが原因で「大頭症」を持つ赤ちゃんが生まれ、2005年には工業用塩が市場に出回り、2006年にはスーダンレッドが使用され、2008年にはメラミンが混入した事件が起こり、2010年には「排水溝の油」の問題が発生し、2019年には病気で死んだ豚肉が流通した。これらの問題が繰り返される理由について考察する。

中国の食品安全問題が解決しない背後には、以下の六つの主要な理由が存在する。

共産党官僚の特別供給制度
アメリカでは大統領や議員も一般市民も同じハンバーガーやコーラを楽しんでいるが、中国では各レベルの官僚や地方政府には特別供給するための食品基地が存在し、そこでは有機栽培が行われ、遺伝子組み換え食品の使用は厳しく制限されている。公務員が外食をする際には象徴的な少額の支払いのみが求められる。このような状況下では、官僚たちが、庶民の食品安全問題に取り組む動機はほとんどない。

新聞の自由が制限され、調査報道の記者が減少している中国
インターネットでは、「調査報道の記者が激減し、もはや安全な油を確保することが難しい」との声が上がっている。
1990年代の終わりから2000年代の始まりにかけて、中国の調査報道記者たちは彼らの「黄金時代」を謳歌し、「新時代のマックレーカー(政治家や公務員などの不正や醜聞をあさり、暴露して書きたてる記者)」として自らを位置づけていた。
「マックレーカー運動」(muckraker)は19世紀末のアメリカで発祥し、経済大国として英国を抜き世界の頂点に立ったアメリカでは、数々の社会問題が露呈していた。これに対応する形で、アメリカの調査報道記者たちは積極的にスキャンダルを暴き出し、2000を超える記事を通して社会に大きな影響を与えた。
例えば、1905年には調査記者アプトン・シンクレア氏が労働者に扮してシカゴの屠殺場に潜入し、2か月にわたる調査の末に『ジャングル』という衝撃的な書籍を発表した。この本を読んだセオドア・ルーズベルト大統領は、ソーセージに混入していた死んだネズミの記述に怒り、ソーセージを窓から投げ捨てたと伝えられている。この事件は、「純正食品医薬品法」と「連邦食用獣肉検査法」の制定に繋がり、アメリカにおける食品と薬の安全基準が向上する契機となった。
なぜ中国で調査報道が減少しているのかというと、中国共産党はメディアが党の指導に従うべきだと考えており、政府の不正を報じることは党のイメージを損なう行為とみなされているからだ。

中国の市民には選挙権と監視権がない
最近、中国の複数の地域で洪水が起こった。インターネット上では、かつての共産党の指導者たちが行っていた形式的なパフォーマンスでさえ、現在の官僚たちは行わなくなったとの意見が見られる。
実際には、中国共産党の官僚たちは、上位者からの個人的な権限付与を受けており、市民への配慮はほとんどない。彼らが自己の利益を最優先し、共産党の体制の欠陥を個人の良心で食い止めることは不可能だ。問題が発生すると、政府は情報を隠蔽し、インターネット上での投稿を削除したり、世論を操作するために「五毛」を利用する。

中国には国家基準が欠如しており、政府の法律執行の監査は期待できない。
知られていないかもしれないが、中国には食用油の輸送に関する国家基準が設けられていない。
ある著名なセルフメディアの報道によれば、中国の国有穀物備蓄会社のために輸送するタンクローリー運送会社の中には、過去に官僚に賄賂を贈って、運送業者リストに名を連ねた企業や、そもそもリストに載っていないにも関わらず不正に下請けをして、輸送を行っている企業があるとのことだ。
このような長期間にわたる制度的腐敗は、法律や規則がただの形骸化したものになることを避けられない。

企業の無責任
アメリカ在住の中国出身の元船長であり物流の専門家である薛船長はロサンゼルスで次のように述べた。

「石油を運んだ後に洗浄しないで大豆油を運ぶタンクローリーについて、多くの人々がドライバーを責めるが、実際には製品を検査せずに出荷する油搾り工場が最も責任がある。その工場は中国の北部にあり、中国国内の企業だ」

「張家港にある油搾り工場では、このような問題は発生しておらず、タンクローリーは一台ごとにタンクを検査している。その工場は主に外資系企業が運営している。もし外資系企業が撤退したら、問題のある油を消費することになるだろう」

中国人は共産党の影響で道徳的信念を失い、金銭を最優先
たとえ良い法律が存在しても、それを施行する者がいなければ、その法律は意味を成さない。このために、道德的な信念の重要性は計り知れない。国家による基準が設けられていなくても、人々が道德を重んじ、食用油に化学物質を混ぜ合わせるべきではないと自覚していれば問題はない。
しかし、中国共産党が70年以上にわたり中国を支配している間に、人々を服従させるために意図的に道徳を踏みにじってきた。
最近、1987年に上海で発生した甲型肝炎の大流行について多くの人が話している。30万人が病原体を含むシジミを食べて感染した事件だが、その主な原因は、江蘇省啓東で突然大量に発見されたシジミを、地元の農民が排泄物を運ぶ船で上海へと運んだことにある。

時が経過し経済は成長したが、中国共産党は今もなお様々な信仰や宗教を弾圧し、数々の非人道的な行為を黙認している。結果として、多くの人々の道徳観や文化レベルは経済成長と共に向上するどころか、むしろ、利益を追求するあまり不正行為を働き、互いに害を及ぼし合っているのが現状だ。

著名な弁護士が国務院の調査結果を予想、習近平の指示がどのように影響するかについて述べる

有名な弁護士、周筱赟(しゅうしゅうゆん)氏が最近発表した記事では、不正にタンクローリーを使って食用油を運送するのが約20年前に発覚していた事実にも関わらず、なぜ現在その問題がより深刻化しているのかを問題提起している。周筱赟氏は過去に「南方周末」の記者として活動し、中国赤十字会の郭美美事件を独自に報じた経歴を持ち、現在は経済犯罪に関する弁護を専門とする弁護士である。
周氏は次のように予測している。中国共産党国務院の食品安全事務所が現在、合同調査チームを組織し、徹底的な調査を進めているが、

「私の過去のメディアでの経験に基づくと、調査結果は恐らく次のようになるでしょう」

「報道されたいくつかのタンクローリーには問題が見つかりましたが、他の車両には問題はありませんでした。問題があった食用油は全て押収され、廃棄され、市場には出回っていません」

と述べている。

しかし、本当にそうなるのだろうか。私は周氏ほど悲観的ではないが、中国共産党国務院が表面的なアクションを取る可能性はあると思う。例えば、監督強化を理由に新たな法律を制定するなどの措置を取るかもしれない。しかし、中国共産党が従来通りに状況をあいまいにする可能性があると私は懸念している。というのも、最近の中南海に対する信頼は完全に崩れてしまっているからだ。李文亮医師のケースや、厳格な封鎖措置の後の計画性のない解除、民間企業への不統一な対応など、信用問題が露呈している。結果がどう出るかは、見守るしかないのが現状である。
習近平が直接介入して問題を解決する可能性について考える人もいるが、私はその可能性は低いと見ている。そして、仮に彼が介入したとしても、大きな変化を期待するのは難しいだろう。
食品安全問題に関しても、中国の人々は、過去の過ちから学ぶべきだと思う。共産党は市民の生命を軽視し、特権的な供給システムを保持し、災害を利用して自らの「輝かしい実績」を宣伝し、真実を隠し続ける傾向がある。今回の「新京報」による報道も、その一例に過ぎない。
今日のお話はこれで終わり。皆さんが安全であり、幸運が訪れますように。
 

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
秦鹏