Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama
[東京 14日 ロイター] – 自民党最大派閥である安倍派(清和政策研究会)の政治資金問題が政権中枢を直撃し、4閣僚と党役員の辞任劇に発展した。アベノミクス継承の急先鋒だった幹部が離脱する波紋は大きく、政策遂行への影響は免れそうにない。派閥の政治資金問題がさらに広がりをみせれば、脱デフレに向けた筋書きも狂うおそれがある。
<与党プロセス練り直しも>
与党プロセスの練り直しが必要になる――。自民党政調会長を辞任する萩生田光一氏は党のGX(グリーントランスフォーメーション)実行本部の本部長も務める。仮に本部長まで退任する事態となれば、予算編成も含めた与党プロセスのスケジュールに影響を及ぼしかねない。
脱炭素社会の実現に向けたGX推進は、岸田文雄首相肝いりの経済政策の一つだ。向こう10年間で想定する150兆円超の官民投資に先立ち、国が先行調達する20兆円について数年先までの使い道を決める必要がある。「方向性が変わるとは思わないが、議論そのものが停滞するのは避けたい」と、政府関係者の1人は語る。
萩生田氏は、自身が委員長を務める防衛財源を扱う党特命委員会に「NTT法のあり方に関する検討プロジェクトチーム」を発足。政府が保有するNTT株の売却協議も主導してきたが、政府内には「ワンショットの売却収入よりも、保有を続けて配当収入を防衛財源に充てたほうが合理的」との声が残る。
今後、同氏不在の中で胆力を欠く協議に終始することになれば、結論を得るまでの曲折は避けられない。
<人事案巡り、残した禍根>
別の経済官庁幹部からは、日銀が金融政策を巡って「相対的にフリーハンド(自由裁量)を得やすくなる」との声が聞かれる。自民党の参院幹事長だった世耕弘成氏は日銀からの発信に敏感に反応し、拙速な正常化をけん制する姿勢を貫いてきた。
正常化への歩みを模索する日銀に対し、首相周辺は「必要な一歩を歩んでいる」との立場を崩していない。日銀が今年7月と10月に実施した長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用柔軟化にも一定の理解を示し、次の一手をうかがう構えだ。
とはいえ、派閥の政治資金問題では安倍派や二階派だけではなく、首相自ら会長を務めていた岸田派(宏池政策研究会)でも、実際に集められた収入より少ない金額が収支報告書に記載されていたと報じられ、今後の動向次第では影響が広範に及びかねない。
「安倍派を十把一絡げに外す人事案を見送ったとはいえ、(安倍派一掃を一時検討したことで)確実に禍根を残した。党内からも厳しい政権批判を浴びかねない危うい状況」(中堅幹部)との声がくすぶる。こうした状況が表面化すれば、円滑な政策遂行を阻むことも予想される。
<政策遂行能力に疑問の声>
デフレからの完全脱却を掲げる岸田首相は、ガソリン補助金の延長などで当面の物価高に対処し、来年6月の減税で可処分所得を引き上げたい考え。首相周辺によると、その先のデフレ脱却宣言も視野に入れている。
「総理が代わるわけではない。政策の大筋が変わるわけでもない」と、首相に近い関係者の1人は語る。「自民党内に岸田降ろしの風が吹き荒れない限り、支持率は低空飛行ながらも粛々と政権運営を続けていく」と、別の関係者は言う。
脱デフレに向けた政府・日銀の連携を巡り、首相は13日の記者会見で「(政府と日銀は)ともに構造的な賃上げを伴う経済成長、物価安定目標の持続的・安定的な実現をめざす立場にある」と強調。日銀に対し「経済政策をしっかり念頭に置いて政府と連携をしていただきたい」と注文を付けた。
ただ、専門家の間では「(閣僚交代に伴う)一時的な混乱も予想され、政策実行力の低下につながる可能性が懸念される」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミスト)との声が少なくない。
「政策論以前に政権基盤がぐらつき、政策遂行能力に疑問が残る。思惑通りデフレ脱却宣言にこぎ着けるかは見通せない」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミスト)との見方もあり、早急に体制を立て直せるか今後焦点となる。
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