団地の警備員が配達員を刺殺 「バイク乗り入れ禁止」違反が発端か=中国 山東

2023/12/11
更新: 2023/12/11

近年、中国社会に蔓延した「戻気(リーチー、邪気)」がもたらしたとみられる凶悪犯罪が絶えない。12月5日夜10時過ぎ(現地時間)山東省青島市の団地で、凄惨な殺人事件が起きた。

加害者は団地の警備員であった。被害を受けて死亡した人は、黄色い制服を着たフードデリバリーの配達員である。互いに見知らぬ関係であり、もとからの怨恨があったわけではない。つまり、この時の衝動的な激昂が、なんと人命を奪うに至ったのである。

「魔」がとり憑いたような惨殺ぶり

両者はこの日、団地の「バイク乗り入れ禁止」のルールをめぐって口論となり、ついに殺人事件にまで発展した。

ネット上には、事件発生時の様子を捉えた動画も流れている。それを見た人の中には、くり返しナイフで刺す警備員のあまりの凶暴さに、衝撃を受けたネットユーザーも少なくないはずだ。

団地の入口で、黄色いデリバリー制服を着た配達員と、警備員が口論をしていた。すると突然、警備員は自分の腰のあたりからナイフを取り出し、配達員の胸や腹部、顔などを立て続けに刺した。

それは、あまりにも突然の、狂気的な犯行であった。配達員は10メートルちかく後ずさりした後、地面に倒れ込んだ。

それでも警備員による凶行は止まらない。まるで「魔」がとり憑いたように、配達員の体に馬乗りになって、無抵抗の相手をさらに繰り返し刺した。

攻撃されている間、配達員は一度も反撃していないばかりか、全く抵抗できなかった。警備員はその後、ようやく寄って来た通行人によって引き離された。複数の重傷を負った配達員は担架に乗せられ、病院へ搬送されたが、助からなかった。

なお、動画で見る限り、本来すぐに犯行を止めに入るべき通行人の反応が「非常に遅い」ように見える。遠巻きに眺めている時間が、かなり長いのだ。

不可解な光景であるが、中国社会において、その理由はある。今の中国は「うかつに人助けができない国」になっているからだ。

今の中国は、うっかり親切で道端に倒れている人を助ければ「加害者」にも疑われかねない。また中国では、救急車の要請は有料である。そのため「通報者に請求書を回されては困る」と、自分がすすんで電話するのもためらわれるのだ。

今回の場合は、通行人の目の前で人が繰り返し刺されるというショッキングなものだが、現場ですぐに、止血や救命措置が行われた様子は見られない。

いくつかの動画を見ると、確かに周囲の通行人は「かかわらない距離」を取りながら、自分は手出しせず、傍観していた時間が長い。

誰もが「第一の救助者」になることに腰が引けているとすれば、犯罪行為とは別に、冒頭に述べた「邪気」が人々の善意を阻んでいるという、もう一つの問題も浮かび上がってくるのだ。

 

(団地の警備員が、デリバリー配達員をナイフで繰り返し刺して殺害する凶悪事件が起きた。犯人の警備員は、通行人に制止されるまで、馬乗りになって刺し続けた)

配達員は「まだ就業5日の新人だった」

中国メディア「縦覧新聞」は、事件が起きた団地のあたりでよくフードデリバリーをしているという別の配達員・連さんの話を引用し、以下のように報じている。それによると、事件のあった団地では、配達員のバイク乗り入れを禁じているという。

「配達員は(バイクを置いて)手持ちで届けないといけない。あの団地は広いため、本当に疲れる」

「刺された配達員は、顧客の注文品を届けようと急いでいたため、団地にバイクを乗り入れたようだ。配達を終えた後、団地の出入り口で警備員に呼び止められ、そこで口論になって刺された」

「彼は、この仕事をはじめて5日ほどしか経っていない新人だった。だから、この団地のルールを知らなかったのかもしれない」と連さんは語った。

また、別の配達員によると、加害者の警備員は当時、酒を飲んでいたという。「こんな事件が起きて、私も本当に悲しい。亡くなった配達員はまだ若かった。1回の配達で得られる報酬は3~4元(約70円ほど)なのに、これで命を落とすなんて」と言葉を詰まらせる。

現地の公安局は9日、この事件に関する概要を発表した。それによると、犯人である団地警備員の趙(男、54歳)はその場で逮捕され、配達員の李さん(男、32歳)は死亡した。

「兄弟よ、安らかに眠ってくれ!」に歓声

週末である9日の夜、青島市内のフードデリバリースタッフは、同業者である被害者を追悼する気持ちから、それぞれが自発的に事件のあった団地の現場に集まった。

ところが、人が集まることを許さない警察によって、片端から追い返されてしまった。また、追悼関連の場面の写真撮影までも、警察によって禁じられている。集まった配達員たちは「なぜ亡くなった仲間を追悼することもできないのか」と、不満の声を上げているという。

そのような折、中国国内の情報を発信する、著名なツイッターアカウント「李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」が発信した。

配達員の李さんが死亡した現場に、誰による注文かは不明だが、デリバリーによって追悼の花束が届けられた。しかし当局は、ここが追悼の「花の海」になることを恐れたのだろうか、現場を警戒する警察官によって、そこに花束を置くことは許されなかった。

やむを得ず、花束を持ち帰る配達員。その光景を遠くに見ながら、同じ配達員仲間と思われる男性が発した一声が、その場に響き渡った。

「兄弟、一路走好!(兄弟よ、安らかに眠ってくれ!)」

その声に合わせて、追悼に集まった人々から、一斉に「おおー」という賛同の歓声が上がった。

中国経済がどん底にある現在、想像を絶するほど深刻な就職難が中国の民衆を襲っている。人々は、なんとか食べるだけの最低限の生活を維持するため、どんな求人広告にも殺到している。

なかでもフードデリバリーの仕事に就いた人は非常に多く、大学や大学院卒の高学歴者もいる。

しかし、この仕事もすでに飽和状態であるため、配達員同士での競合も激しい。しかも、顧客からの評価は極めて厳しいのが現状である。だからこそ彼らは、配達の途中でバイクが転倒しても、血を流しながら時間内に届けようとする。

それほど彼らは、文字通り「懸命」に働いて、この苦しい時代を必死に生きようとしているのだ。

共産党員や汚職官僚のように、犯罪や不正な手段で金銭を得るのではない。自分で汗を流し、ひたすら働くことで、人間としての根幹を歯を食いしばって堅守する人々。それが今の中国におけるフードデリバリースタッフである。

今回は、その仲間の命が、あまりにも理不尽に奪われた。しかも、追悼の花さえ現場に置けない。

「兄弟よ、安らかに眠ってくれ!」。その言葉には、同じ境遇の彼らに共通する万感の思いが込められている。

 

(「兄弟、一路走好!(兄弟よ、安らかに眠ってくれ!)」。その言葉に、周囲の仲間から歓声が上がった)

邪気が充満した「中国社会の闇」

つい最近の12月9日には、広州の地下鉄車内で「子供にぶつかられた男」が、その子の親をナイフで刺す事件が起きている。今回の事件と同様、被害者と加害者はいずれも見知らぬ人同士だった。

本来ならば、些細なトラブルであったはずだ。それがなぜナイフで人を刺すという狂気的な行動に走るのか、理解に苦しむ人も少なくない。

そのような事件が起きるたび、ネット上では「中国社会全体が、真っ黒な邪気に満ちているから」という見方が根強い。この邪気を、中国語では「戻気(リーチー)」と呼ぶ。

邪気が満ちた社会では、人々は理知を失い、感情を制御できず、殺人や傷害などの凶悪犯罪に走りやすくなるのだ。

以前には、中国国営テレビ局・中央テレビ(CCTV)の「元司会者」である趙普氏が「今の中国人は邪気が強すぎる。外で人とトラブルを起こさないようにしよう!」と呼びかける動画がSNSで拡散されて注目された。

趙氏は、動画のなかで「人と衝突を起こさないで!」と3回重ねて忠告した。

また、趙氏のほかにも「今の中国社会は邪気が満ちている。人と衝突を起こすな」という趣旨の動画は数多く発信されている。SNS上には様々なバージョンがあるが、そのなかには、フードデリバリースタッフに言及したものもある。

「警備員、宅配業者、フードデリバリースタッフなどに対しては、本当に礼儀正しく、笑顔で接してあげなければならない。なぜならば、彼らは職業の性質上、この社会で多くのストレスを受けているからだ」

暴力と腐敗にまみれた中国共産党が全てを統治するのが、今の中国である。その中国において、このような「戻気(邪気)」が充満した社会は、残念ながら必然の結果であり、まさに現代中国の闇であると言ってよい。

「その闇に光が差さない限り」今後も、自殺者や社会報復事件、凶悪な殺人事件などが増加することは避けられないだろう。

このことについて、前提条件を「中国共産党が解体されない限り」に言い換えると、意味が非常に明確になる。諸悪の根源は、まさに「その一点」に帰結されるからだ。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。