中国政府が世界各地に開設している「海外警察署」は、中国共産党に反対する在外の反体制活動家や異見人士の行動を追跡し、その情報収集や脅迫などの妨害工作、さらにはターゲットの人物を秘密裏に捕捉する「越境逮捕」などを任務とする、中国の特務機関である。
こうした中国の海外警察(署)は、当該国の法律を完全に無視した「非公式の警察署」であるため、各国の反発を招いている。米国では今年4月、中国海外警察を運営していた疑いで中国系米国人の男2人が逮捕されており、英国でも6月に英国内での「非公式の警察署」の完全閉鎖を中国側に要求している。
近年、各国が取り締まりに乗り出したため、大打撃を受けた中国の「海外警察署」は、いま新たな展開を見せていることがわかった。明確な拠点を必要としない「オンライン上での警察署」を、海外に設立する方向へシフトをしているという。
これについて「今は民主国家の反応を試している段階だが、成功すれば拡張は必至だ」として、厳重に警戒すべきとの声が広がっている。
クラウド技術を駆使した「オンライン警察署」は、中国国内の警察の指揮のもと、引き続き海外の「ターゲット」を監視し脅迫する。
最近、オーストラリア(豪州)のメディアが中国政府から入手したのその内部文書から、豪州にいる中国人が「中国の警察と連絡できるよう技術開発を行っていた」ことがわかった。
同文書によると、中国の「海外警察署」は江蘇省海安市の警察当局と提携して、クラウド技術にテンセントのクラウド会議プラットフォーム、ウィーチャット(WeChat)アプリなどを組み合わせているという。
「クラウド華僑警察(雲上警僑)」と呼ばれるこの「連絡所」は、当該国の公安部門に察知されないように、決まった場所としての拠点を持っていない。江蘇省海安市の警察が、クラウド技術を通じて現地への指揮を行う。
このようなクラウド技術を利用した中国当局の越境弾圧について、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の元ソフトウェア・エンジニアであった金淳氏は、次のように指摘する。
「クラウド技術を用いれば、物理的な拠点が必要ではなくなるため、維持するためのコストを削減できるうえ(当該国の警察による)要員の逮捕も免れる。それでも、海外にいる華人に対し『お前が外国にいようと、中国の法律はお前に適用される』という錯覚を起こさせることができ、脅しの目的は達成できる。こうしたオンライン警察署であっても、同様に国外への浸透を深めることができる」
金淳氏はそう述べて、「クラウド技術を含むすべての最先端技術は、本来ならば人類を幸福にするために用いられるものだ。しかし中国共産党は犯罪のため、他国の法治を破壊するためにそれを利用している。だからこそ、西側はこれ以上中国(共産党)に最新技術を渡してはならない」と警鐘を鳴らす。
豪州在住の政治学博士である林松氏も、次のように警告を発している。
「(中国の)海外警察署は、主に連絡の役割を担っているが、時にはターゲットを脅迫するといったアクションを起こす。中国当局の今の目的は、西側諸国の政治家や民主運動のリーダーなど、ターゲットとする人物に影響を与えることだ。豪州の政界においては、上から下まで、どの層の政治家も中国の浸透の影響を受けている」
目下のところ「中国海外警察署」は30カ国に存在し、100以上の拠点をもつとされている。日本には東京、福岡、名古屋などにある。
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