飛び降り自殺あおる野次馬の声 邪気が充満した中国社会の闇=中国 江蘇

2023/07/04
更新: 2023/07/04

6月29日、江蘇省蘇州市のある高層ビルの屋上に立つ若い男性(24歳)。残念ながらこの後、彼は飛び降り自殺した。

中国メディアは現場目撃者の話として、男性はその日の午後から屋上に登っていたと伝えている。男性は屋上で、泣きながら頭をかきむしるなど情緒的に不安定な状態にあった。その数時間後の夜9時頃、飛び降りたという。

SNSに投稿された動画は、男性が飛び降りた場面だけではなかった。屋上で飛び降りるかどうか迷っているなか、地上の誰かが「飛び降りなければ(お前は)ヒトではないぞ」などと大声で叫び、早く飛び降りるよう煽っていた場面や、地上の野次馬たちがゲラゲラ笑っている様子を映した複数の動画もある。人の自殺を挑発し、からかうような言動をめぐって、物議を醸している。

この地上からの「冷血な野次」が、生死の境を逡巡する青年の耳に入ったかどうかはわからない。この高さでは、おそらく聞こえてはいなかっただろう。

しかし、そういう悪魔的な意識が「悪い念」となって地上から発せられていたことは間違いない。いずれにしても、自殺する恐れのある人間を目にした場合、人として発すべき言葉ではないのは明らかだ。

また、この数時間に、屋上の若者に対して警官や消防隊が近づき、自殺を思い止まるよう説得する努力がなされたとは伝えられていない。

野次馬のなかから「自殺への挑発的な発言」があったとして、この事件は注目されており、中国SNSウェイボー(微博)のホットリサーチ入りしている。

西洋のことわざ「最後のワラ1本がラクダの背骨を折る(It is the last straw that breaks the camel’s back)」としても知られるように、心無い一言が、ビルの屋上に立つ若者の背中を最後に押したのかもしれない。

その場所で「飛び降りなければヒトではない」などと挑発的な発言をした野次馬の責任追及を求める声が、いまネット上で広がっている。

地元警察は「事件現場で騒ぎ立てた」という男性市民を逮捕し、行政拘留したと発表した。また警察によると、この若者が自殺した原因は家庭内トラブルだという。

自殺を迷う人に挑発的な言葉をかけるなどして煽る類似の事件は、中国で過去にも起きている。

台湾メディア「自由時報」によると、2018年、甘粛省ではうつ病を患う女性が飛び降り自殺を図ろうとした際に、地上にいた複数の野次馬が自殺を煽る発言をしていた。

この女性も残念ながら飛び降りてしまったが、その後も、現場の野次馬のなかには(遺体となった女性の)そばで冷やかしの言葉を吐いた者がいたという。

中国語で、人間の健康を損ねて病気にしたり、世の中の悪い気風を助長する邪気を「戻気(リーチー、れいき)」という。この「戻気」すなわち邪気が充満しているのが、現代の中国社会である。

「戻気」が充満した中国では今、若者から高齢者に至るまで、自殺が頻発している。さらには「社会への報復」を意図したとみられるような、無差別殺人などの凶悪犯罪が後を絶たない。

それぞれを個別の案件として見れば、職場や家庭内のトラブルがあったり、経済的にひっ迫するなど、犯行に至るまで追い詰められた具体的な状況はあるだろう。

3年前の「清零(ゼロコロナ)政策」の際には、完全封鎖され、食料供給も断たれた集合住宅で、飢餓と絶望による飛び降り自殺が続発した。誰も好んで自殺する人間はいないのだ。

それが分かっているなら、例えばビルの屋上の縁に立ち、自殺するか否か迷っている若者に向かって、誰かが「止めろ。飛び降りるな!」と声をかけられなかったのか。

この24歳の若者は、数時間も迷いながら結局自殺してしまった。本人の責任だと言ってしまえばそれまでだが、若者の周囲の人もふくめて、何とか自殺だけは避けられなかったのかと悔やまれてならない。

そのように「戻気」すなわち邪気が充満した社会は、まさに現代中国の闇であると言ってよい。その闇に光が差さない限り、今後も、自殺者が増加することは避けられない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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